Project CBD 主催者 マーティン・リーに訊く

2018.02.14 | 大麻・CBDの科学 | by greenzonejapan
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Project CBD 主催者 マーティン・リーに訊く
2018.02.14 | 大麻・CBDの科学 | by greenzonejapan

Project CBD という名前を聞いたことがあるでしょうか。ここ数年、陶酔効果を持たず医療効果の高いカンナビノイドとして注目を集めている CBD について、教育・啓蒙活動を行っている非営利団体です。CBD のことならこの人に聞け、と言われるくらい、CBD に詳しい人として知られている主催のマーティン・リー氏に、昨年9月、サンフランシスコの北にある Emerald Pharms でインタビューしました。


 

GREEN ZONE JAPAN(以下 GZJ):ではまず、日本ではあなたのことを知らない人も多いので、自己紹介からお願いします。

Martin Lee(以下 ML):僕はジャーナリストです。これまで4冊の本が出版されていて、一番最近書いた本はカンナビス、特にカリフォルニアでのマリファナの歴史にフォーカスしたものなんだ。

GZJ:『Smoke Signal』ですね?

ML:そう、それ。ジャーナリストの仕事をしているうちに、社会現象としての医療大麻に興味を持った。すごく面白いと思ったんだ。初めは何も知らなかったが、色々なカンファレンスに参加したりして科学者たちから聞いたことにすっかり感心してしまってね。医療大麻についての科学的研究はすごく盛んなのに、一般の人は何も知らなかった。10年以上前のことだけど。CBD のことを初めて知ったのもその頃だよ、たまたま僕が住んでいた北カリフォルニアで見つかったんでね。

GZJ:それは何年のこと?

ML:CBD が北カリフォルニアで再び知られるようになったのは 2009年。僕はそれよりもう少し早く、2005〜2006年頃だったかな。その頃は、医者も患者も CBD のことを知らず、研究者同士が話題にしているだけだった。だから Project CBD は、医者や患者や一般の医療大麻関係者に対して CBD についての啓蒙活動を始めたんだ。医療大麻にとって CBD はすごく重要だと思ったからね。北カリフォルニアで CBD を含む大麻が手に入るということを最初に知ったのが僕たちだったんだよ。

大麻を栽培している人たちは CBD を嫌っていた。CBD を含んでいる品種は売れないと思ったんだね。それまではできるだけハイになれる品種の開発に懸命だったわけだから、CBD は無視されていた。ところがあるとき偶然に、ある大麻農家がオークランドにあるハーバーサイド(訳注:サンフランシスコでも屈指の大手ディスペンサリー)に高CBD の品種を持ち込んだんだ。

GZJ:でもその品種はどうやってできたの?

ML:偶然だよ。その頃はまだテストラボというものがなかった。最初のラボ(Steep Hill Labs)がオークランドにオープンしたのが  2008年だけど、Steep Hill も CBD のことは知らなかった。テストの目的は THC の含有%を知ることだけ。THC の割合が高ければ高いほどいいとみんな思っていた。それは間違いだったわけだけどね。

僕と、フレッド・ガードナーというもう一人のジャーナリスト——彼は O’Shaughnessy’s というカンナビスの専門紙の編集をしているんだが——は、どちらも CBD に科学的な観点から関心があった。と同時に、カンナビスをテストするラボができたという事実に興味を持った。連邦政府レベルではカンナビスは非合法なわけだけど、テストラボがうまく機能すればそれは合法化にとても重要な役割を果たすと思ったんだ。それでラボで行われる試験についての記事を書くうち、Steep Hill と親しくなった。僕たちは、CBD の含有量が多い品種をテストしたら知らせてくれるように彼らに頼んでいたんだが、しばらくは一向に連絡がなかった。ところが幸運にもある日、たまたまフレッドが Steep Hill のオフィスにいたときにそういう品種が持ち込まれんだよ。

それから1年以内に、高CBD の品種が6種類くらい見つかった。CBD と THC を両方含んでいるが比較的 CBD の含有量が多いという意味だけどね。それまでは THC しか含まれていないものばかりだったから、CBD を含むものはすごく珍しかった。ちなみに THC は非常に医療効果があるが、誤解されやすいんだ、向精神作用があるからね。

GZJ:Project CBD を始めたのはいつ?

ML:2010年。2008年に最初のラボができて、2009年に CBD を含むいくつかの品種が見つかって、僕たちはそれを全部把握していた。僕たちはそれを育てた人たちにコンタクトして、これがどういうことかわかってる? って訊いたんだ。その中に、それは興味深い、たしかに自分はこの品種を使うと腰の痛みが取れて楽になったけど、あまりハイにはならなかった、と言う人がいてね。つまり偶然見つかったということなんだよ、栽培家がそれを意図して品種開発したわけじゃなくてね。今はみんなが特定の目的を持って品種改良しているし、CBD に関心がある栽培家もいるけど、以前は無視されていたんだよ。

GZJ:これは CNN のドキュメンタリー『WEED』(https://wp.me/p8UXdQ-hG) 以前のことなわけですね?

ML:そう。Project CBD ができたのは 2010年、ドキュメンタリーは 2013年だからね(訳注:上のリンクで見られるのは、その後 2014年に放映された続編)。

GZJ:グプタ博士から連絡はあった?

ML:いや、なかったが、僕たちは番組のことを事前に知っていたよ、シャーロットの担当医であるアラン・シャックルフォード博士が Project CBD に協力してくれていたからね。放映の数ヶ月前には知っていた。彼はカンナビスを薬として理解しているよ、コロラドの人だけどイスラエルでも研究を行っている。とても積極的だよ。

始めた頃の Project CBD の主な活動は、みんなに CBD の重要さに気づいてもらうことだった。僕たちは、CBD が2つの意味でとても重要だと思った。一つは優れた医療効果があること。研究所でのマウス実験の結果が人間にも当てはまるとしたらすごいことになる。基礎研究によれば、がん、アルツハイマー病、糖尿病ほか色々な病気に効果があるんだからね。もちろんカンナビスが効く症状があることは前からわかっていたが、それ以上であることがわかったんだ。THC に CBD を加えると、医療効果の幅がぐんと広がるんだよ。

もう一つは、CBD には向精神作用はないわけだから、もし医療効果があるなら、War On Drug(麻薬撲滅戦争)政策にとってはものすごく都合が悪いよね。だって違法にしておく理由がないだろう、精神変性作用がないんだから。THC だけだと、ハイになるからとか子どもが使うと危険だからとか色々言えるが、CBD に関しては、体制側がそれを非難する正当な理由がない。だから、医療大麻だけでなく、大麻の合法化全体を大きく前進させられると思ったんだ。そしてその通りになったと思うね。

CBD が認識された、つまりディスペンサリーに CBD が持ち込まれたのが 2010年だったことも重要だね。なぜなら、大麻オイルというものが登場したのがちょうどその頃なんだ。大麻から高濃度オイルを抽出するとすごく効果の高い薬ができる、ということがわかった。それまでは、ブラウニーとかバター、喫煙、それと乾燥大麻をベポライザーで吸引するという方法があったくらい。オイル、そして CBD が登場したことのインパクトは大きかったね。

GZJ:「オイル」というのは、リック・シンプソン・オイルのこと?

そう、彼の名前がついたオイルが最初に出た。彼のオイルは高THC だったけどね。それだけじゃなくて、彼のやり方も含め、色々な方法で抽出した高濃度オイルのことだよ。抽出の方法も溶剤も何種類もあるからね。だけどそれはみな、2010年頃に始まったことなんだ。僕が最初に入手したオイルはリック・シンプソン流のやり方でバスタブで作ってたけどね。今ではカプセルもあるし、THC と CBD の割合も選べる。あっという間に技術が発達したよ。でもなにしろ、CBD が再発見されたこと——「再」発見というのは、もともと大麻には CBD が含まれていたけど、大麻が禁止されたことで THC ばかりが求められるようになった結果、CBD が忘れられていたからだけど——、それと高濃度オイルの登場、この2つの重要な要素が医療大麻の状況を大きく変えたと思うね。

そしてそれはまた、全国的な大麻合法化運動にとっても大きな転換点にもなったと思う。それまでは、大麻に本当に医療効果があるのかどうかが議論の的だった。大麻をやりたいヤツがそう言ってるだけじゃないのか? ってね。でも今はもう誰もそんなこと言わない。実際に CBD でよくなってる子どもたちの写真を目の当たりにしているからね。そこはもう議論点じゃないんだ。今の僕たちの関心事は、どうすれば最良の効果を得られるのかということだよ。どうやって管理するかとか、どうやって商売にするかとか、色んな論点があるけど、医療効果があるかないかなんて誰も議論しない。

アメリカでは 29州とワシントンD.C. で医療大麻が合法で、そのほかに、CBD だけが合法の州がたくさんある。Project CBD の中では早い段階で話し合ったことだけど、CBD だけを持ち上げて THC を悪者にするのは正しくない。今もそういう主張はあるが、だんだん弱くなっているよ、科学に基づけば簡単に反証することができるからね。大麻には医療効果なんかないとずっと言ってた人たちが間違っていたことが証明されたのに、同じ人たちが今度は、CBD は良くてTHC は有害だと言うのを信じられるかい? Project CBD が注力しているのはそんなことじゃなくて、どうすれば一番効果的に大麻を医療に使えるか、どうすれば安全な医療大麻が手に入るようにできるかということだ。たとえば以前は殺虫剤使用に対する規制がなくて、汚染されている製品が多かったしね。

SONY DSC Emerald Pharms の店内で。

GZJ:ルッソ博士が日本にいらしたとき、一番多かった質問は、産業用ヘンプから作られた CBD オイルについてでした。日本では今それしか手に入りませんからね。それが最良の選択肢でないことはわかっていますが、試す価値のある製品はありますか?

ML:あると思うよ。積極的に勧めはしないけど、日本のように、それしか許されていないところもあるしね。そこそこの品質のものはあると思う。ただし CBD だけでは効果はあまり高くない。医療大麻を取り入れる医師や患者が増えるにつれて、CBD 単体ではなく、それ以外の成分、たとえば THC やテルペンも含まれていた方が医療効果が高いことははっきりしている。医療大麻のなにかしらの効果を体験するのは簡単だけど、最大の効果を引き出すのはなかなか大変なんだ。

産業用ヘンプにも2種類あって、繊維を採るためのものと、ヘンプシードオイルを作るためのものは品種が違う。繊維用のものからは CBD はほとんど採れないが、シードオイルのためのヘンプの方が含有成分が多い。きちんとした製法で作れば、まあまあな品質のものが作れるよ。コロラド州、ケンタッキー州、オレゴン州では、カリフォルニアで見つかった高CBD の品種を持ち帰って育て、完全に成熟する前に収穫するんだ、大麻草に含まれる THC が規制値を超える前にね。

GZJ:でもそれは全草から抽出する場合ですよね。

ML:CBD はトライコームに含まれていて、トライコームは花穂や葉にはあるが茎にはほとんどないからね。不可能じゃないけど、繊維用ヘンプの茎だけから CBD を作るなんて馬鹿げてるよ。大量の材料が必要だし、取り除かなければならない不要物が多すぎる。

日本の人が産業用ヘンプから作られた CBD オイルを使いたいなら、フレーバーが付いているもの、希釈剤を使っているものは避けた方がいい。

GZJ:最近は CBD クリスタルというものもありますね。

ML:オイルを精製して 98~99% の純粋なクリスタルにしたものだね。これに関しては誤解されている点がある。まず、CBD には医療効果があるから、純度が高ければ高いほど効果も高いだろうという誤解。CBD の効果は、他に何が組み合わさっているかが大事なわけだからね。単離された CBD が効く人も中にはいるかもしれないが、マウスを使ってクリスタルと全草から抽出されたオイルを比較した実験によれば、純粋なクリスタルの場合、効果が現れるには高用量で、かつ正確な量が必要だった。多すぎても少なすぎても効果がない。そして、CBD を高用量で摂る場合、薬物間相互作用が問題になる。市場の調剤の 60% は CBD と相互作用があり、問題を引き起こす可能性があるんだ。

これは息子のエイドリアンが詳しい分野で、Project CBD がこの点を初めて指摘した。薬物間相互作用は、問題になる場合もあるが、利点になる場合もある。たとえばカンナビスがオピオイド系の薬剤の効果を高めるとしたら、オピオイド系の薬の用量を減らすことができる。抗がん剤についても同じだ。これについては製薬会社による研究も行われていて、カンナビスと併用すれば抗がん剤の用量を減らしても同じ効果を出せるという結果が出ている。これはものすごく重要なことだよ。研究では CBD 単体についてしかわからないが、正しい方向性ではあると思う。Project CBD としては、CBD 単体を薬剤に使うのは構わないけど、それによってそれ以外の使い方を否定するべきではないと考えている。単離された CBD にできることは、医療大麻が持つ可能性の中のごく一部なんだ。

日本ではほんの微量でも THC の入ったものが許されないのだとしたら、クリスタルは選択肢の一つだね。汚染物質の心配はないから、他の薬と薬物間相互作用を起こすほどの高用量を摂らない限り安全でもある。ただし医療効果は限られるけどね。色々な選択肢が与えられていないのは気の毒だけど、役に立つものがないわけではないと思うよ。


 

GZJ:では話題を変えて、Canna Craft(カンナ・クラフト)と Care by Design(ケア・バイ・デザイン) について教えてください、

ML:僕の活動は、非営利組織である Project CBD が中心で、僕たちの活動内容は社会の状況の変化に伴って変化してきている。最初は教育・啓蒙が目的だったけど、CNNのドキュメンタリー放映後、とても対応しきれなほどの問い合わせがあって、いくつかの会社のコンサルティングを始めた。その一つが、のちに Canna Craft と Care by Design になる会社だった。僕たちは Care by Design というブランドの製品ラインのコンセプトを考えたんだよ。THC と CBD の割合が違う一連の製品を作ったんだ。ハイになりにくいものから始めて、自分に合う製品を自分で探すことができるようにね。CBD がほとんどのものから始め、自分が不快でないギリギリまで THC の量を増やしていく。今のところそれが、一番効果のある使い方に思えるね。Canna Craft はこのブランドを管理する会社だ。僕たちは Care by Design に製品のアイデアを提供して、それは採用されることもされないこともある。

SONY DSC

Care by Design の商品の一例。THC と CBD の含有の割合が違う5種の製品がある。

GZJ:このEmerald Pharms(エメラルド・ファーム) というのは?

ML:Emerald Pharms は、地球に優しい生き方や有機農業に関する教育センターとしてすでに有名だった Solar Living Center のオーナーに、施設内にディスペンサリーを作りたいと相談されたんだ。2014年だったかな。聞いたとたん、すごくいいアイデアだと思ったね。Emerald Pharms はとてもユニークな品揃えをしていて、CBD 製品では突出しているね。CBD 味噌とかCBD 入りココアムースまである。すごく美味しいよ。

 

 

GZJ:もうすぐカリフォルニアで嗜好大麻の販売が始まりますね(訳注:インタビューは 2017年9月)。何がどう変わるんでしょう?

ML:まだ運用に関する色々な詳細が決まっていないからはっきりしたことは言えないが、医療大麻の患者についてはそんなに大きく状況は変わらないと思うね。メディカルツーリズムが盛んになるだろう。Canna Craft も受け入れの準備をしているよ。カリフォルニア州はこれまでずっとアメリカの大麻生産の中心だったわけで、嗜好のために使いたい人はもうとっくに使っているから、嗜好大麻の利用者が極端に増えるとは思わない。増えるとしたら医療大麻として利用する人だろうし、そうあって然るべきだよね。

カリフォルニア州での嗜好大麻の合法化が遅れたのは幸いなことだったかもしれないね、それだけ医療大麻のことを色々学べたわけだから。とにかく今は変化のときだということを肝に銘じて、嗜好大麻も含めてうまく運用していけるといいと思うね。

 

文責:三木直子

 

“Project CBD 主催者 マーティン・リーに訊く” への1件のコメント

  1. 西条 ヨシヒロ より:

    CBDに大変興味があります。

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