エドワード・マー博士に訊く – Part 1

2018.10.18 | GZJ | by greenzonejapan
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エドワード・マー博士に訊く – Part 1
2018.10.18 | GZJ | by greenzonejapan

 

GREEN ZONE JAPAN(以下 GZJ: まず初めに、日本の印象を聞かせてください。来日はこれが初めてですか?

Dr. Edward Maa(以下 EM): ええ。非常に感銘を受けています。人も、文化も素晴らしい。アメリカ生まれの日本人は知っているけど、日本にいる日本人はまた違いますね。食べ物も美味しいし、公共交通機関がきちんとしていて移動もしやすいし、みんな親切です。

GZJ: 講演を聞きに来た人たちについてはどう思われましたか?

EM: 議題にとても関心があるように思いましたね。熱心に聞いてくださって、質問もたくさん出ました。知らなかったことを聞いて興奮しているのがわかりましたよ。

GZJ: 特に印象に残った質問、関心分野などはありましたか?

EM: 何度も質問されてびっくりしたのは、大麻で実際にてんかんが治癒するのでは、と考えている人がいるということです。てんかんという疾患が治って、そうしたらもう大麻を摂らなくてよくなるのではないかとね。でもてんかんはそういう病気ではないんです。標準治療でも、医療大麻のような代替療法でも、てんかんそのものが治癒するわけではありません。

GZJ: もともとどのように医療大麻に関わるようになったのか教えて下さい。

EM: 私がコロラド大学の特別研究員を務めたのは 2005年から 2007年までで、コロラド州では医療大麻が合法化されてすでに数年経っていました。私の患者の数人が、医療大麻を使うと調子がいいと言ったんですが、私は初め信じなかったんですよ。ときどき話を聞いたりはしたけれどあまり真面目にとりませんでした。でもそのうち、本当に医療大麻の効果が著しい患者が何人も現れたので、調査することにしました。コロラド大学病院神経内科の症例検討会で私の番が来たら発表しようと思ってね。

その時点ですでに存在していた、マウスを使った実験の論文をいろいろ調べてみて驚きました。カンナビジオールのてんかんに対する作用機序は、私が知っている抗てんかん薬よりも強力であるように見えたからです。そのデータを発表すると、神経内科の研究者たちも、私の論証の確かさに驚いたようでした。人間を使っての臨床データこそありませんでしたが——アメリカではまだスケジュール I の薬物ですから人間での治験はできないんですよ。でも、イスラエルのミシューラム博士、ブラジル、その他世界各地で行われた治験を紹介しました。ただ残念ながらそれらの治験はあまりよく練られていなくて、わからないことも多かったんです。それが 2006年のことです。

その後私はそのことはあまり考えていなかったんですが、2013年、アメリカてんかん財団(Epilepsy Foundation of America)コロラド支部の理事である私のところに、CNNの『WEED』に登場したばかりで、医療大麻がてんかんに効果があることをコロラド州の医療従事者に伝えようとしていたペイジ・フィギーがやってきたんです。私は彼女と直接会って話を聞き、その内容を他の理事や諮問委員会のメンバーに伝えました。

私は彼女の話の内容にとても感心しました。少なくとも彼女の娘には大きな効果があったわけですからね。だからと言ってすぐに医療大麻の擁護者になったわけではありませんでしたが、彼女の経験、それにその作用機序について以前調査した経験がありましたから、とても納得しました。それ以来この件に関与しているわけです。

GZJ: ゲディ博士ともお話をされていますね?

EM: 当時コロラド州では、ゲディ博士シャックルフォード博士の2人が医療大麻患者の認定証を発行する医師の中心的存在でした。コロラド州では、医療大麻の適応疾患の診断書があれば、州政府に手数料を支払って医療大麻感認定証をもらえます。それがあればコロラド州内のどのディスペンサリーでも医療大麻を買うことができます。

GZJ: 患者自身がディスペンサリーに行くわけですね?

EM: そうです。国の内外でよく誤解される点ですが、医師は実際には処方しないんですよ。患者本人がディスペンサリーに行き、ディスペンサリーの店員が、診断書に従って使用量を助言します。そういう店員に求められる資格(条件)は、犯罪歴がないということだけなわけですから、理想的な状況とは言い難いですね。ただしゲディ博士とシャックルフォード博士は割と具体的な指示を出していました。基本的には、医師の誰もが従う原則ですが、低用量から始めてゆっくりと増やしていきます。特に、大麻を使うのが初めての人は、初めは医療効果を持つ量よりも少ないところから始めてゆっくり増やしていくことです、THCの陶酔効果が問題を引き起こさないようにね。

>> CBD オイル その1:シャーロッツ・ウェブ <<

GZJ: さて、シャーロッツ・ウェブとは何なのか、もう一度整理したいと思います。CBDという言葉が普及してきていますが、日本人は、エピディオレックス、シャーロッツ・ウェブ、そして今日本で手に入るヘンプ由来のCBDオイルはどこがどう違うのかよくわかっていないので。

EM: この3つはどれも、大麻草(カンナビス・サティバ)という植物由来のものです。大麻草に含まれるカンナビノイドの中で1番多いのが THC、通常は2番目が CBD です。

シャーロッツ・ウェブというのは、その割合が逆でもともと CBD の方が THC より多い品種で、THC:CBD の割合が、1:20 から 1:30 です。それは大麻草では珍しいことなんですよ。シャーロッツ・ウェブという製品は、その品種の大麻草全草から、含まれる植物性成分をすべて溶剤を使って抽出します。溶剤を取り除くと、さまざまなカンナビノイドやテルペンなどの植物成分を含むタール状のものができます。

シャーロッツ・ウェブという品種は徹底的に検査されていて、その結果、CBD が主要な活性成分であることがわかっています。

GZJ: つまりシャーロッツ・ウェブというのは、たまたま CBD がより多く含まれている大麻草の品種で、それを医療大麻として利用したということですね。

EM: そうです。

GZJ: その後 2014年に更新された米国農業法(訳注:Agricultural Act of 2014。米国農業法は4年に1度更新される)の中で、THC含有量が 0.3%以下のカンナビス・サティバ(大麻草)が「ヘンプ」であると定義され、その結果、シャーロッツ・ウェブという品種はヘンプになったわけですね?

EM: そうです。この品種は、2014年の農業法の下では「ヘンプ」と呼ぶことができます。THC含有量が 0.3%に達する前に収穫するからです。「ヘンプ」の定義を満足させるため、大麻草の THC 含有量を監視して、0.3%に達したらその時点で収穫するんです。収穫せずにそのまま大麻草を成熟させるとその閾値を超えてしまいますから。それでもやはり THC よりも CBD の含有量が多いわけですが、「ヘンプ」と分類できるかどうかは THC の含有量で決まるんです。

GZJ: とてもデリケートなんですね。収穫が遅すぎればヘンプとして利用できなくなってしまうんですから。

EM: ええ。そして「ヘンプ」の定義に当てはまっていれば、州境を超えて販売することができるんです。

GZJ: なるほど。ちなみに、同じくヘンプに分類される ヘイリーズ・ホープについて教えていただけますか? これは、シャーロッツ・ウェブを栽培しているのとは違う人たちが、違う品種の大麻(ヘンプ)を栽培しているということですか?

 

 

EM: そうです。なぜ私がこのことを知っているかというと、私の患者の中に、シャーロッツ・ウェブを使ったけれど効果がなかったので他の製品を試し、ヘイリーズ・ホープを使ったら効いた、という人が何人もいるからです。それがどうしてなのかは説明できませんが。製品の詳細を知っているわけではありません。

GZJ: 興味深いですね。それはつまり、シャーロッツ・ウェブとヘイリーズ・ホープは、カンナビノイドのプロフィールが違って、それによって効く人が違うということですよね。ということは、この2つとはまた別に、他の人に効く品種があるかもしれないわけですね。

EM: その通りです。ヘイリーズ・ホープをどういう人がどれくらい摂っているのか、THC がどれくらい含まれているかなど詳しいことはわかりません。医師という立場で見ると、問題は、こうした製剤には非常に多くの有効成分が含まれていて、コントロールができないという点です。

GZJ:もともとは繊維や種子を採ることを目的として栽培されるのがいわゆる「産業用ヘンプ」だったのが、2014年にヘンプという言葉が定義されたことによって、初めから医療利用目的で栽培される、シャーロッツ・ウェブのような「医療用ヘンプ」とも呼べるものが登場したというのは非常に興味深いです。

>> CBD オイル その2:エピディオレックス <<

GZJ: では次に、エピディオレックスとは何なのでしょう。

EM: エピディオレックスというのは、大麻草からの抽出物を精製し、非常に高い純度で CBD のみにしたものです。これはGW製薬が開発した薬剤で、GW製薬は以前、CBDとTHCが 1:1 の割合で含まれるサティベックスという薬を開発しています。これは多発性硬化症の治療に使われています。エピディオレックスの成分はCBDのみです。

 

 

GZJ: 合成ではなく、精製されたものですね?

EM: はい。大麻草由来で、合成物ではなく、精製して CBD のみを残しています。

GZJ: ということは、シャーロッツ・ウェブとエピディオレックスの大きな違いは、シャーロッツ・ウェブが非常に多くの植物性成分——カンナビノイドやテルペンその他を含んでいる、いわゆる「フル・スペクトラム」の製品であるのに対し、エピディオレックスは単一成分である、ということですね?

EM: そうです。正確には100%ではありませんが、FDAの審査において「純粋なCBD」と認められるに足る純度があります。

>> CBD オイル その3:産業用ヘンプ由来 <<

GZJ: さらに、「産業用ヘンプ由来の CBD オイル」というものがあります。日本で手に入るのはこれです。これは先の2つとどう違うのでしょう。

EM: これについては実は私はよく知らなくて、日本に来て色々な人と話をしながら色々学んでいるんですが、日本の法律に従うと、植物性カンナビノイド製品は大麻草の花穂ではなく茎からのみ製造が許されているわけですね。茎に含まれるカンナビノイドはずっと少ないですし、抽出の方法も違うのではないかと想像します。でも茎には THC が含まれないから、茎から採れるのは主に CBD なんだと思いますね。おそらく、同じ濃度の CBD を抽出するためには、花穂などとくらべて大量の材料が必要なはずです。

GZJ: 国際的はおろかアメリカでは州境を超えて移動することが許されない医療大麻製品と違い、こうした産業用ヘンプ由来の CBD製品はかなり自由に流通ができ、健康食品やサプリメントとして扱われているわけですね。そして日本では、それが茎と種子から作られたものであることが条件で、またどんなに微量でも THC の含有は許されていません。

Part 2 に続く >

 

インタビュー:正高佑志・三木直子 
文責:三木直子 
校閲:正高佑志

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