エドワード・マー博士に訊く – Part 2

 

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GZJ: CBD はどのようにしててんかんに効くのでしょうか?

EM: 完全にわかっているわけではないんですが、知られている結合作用にしたがって、複数の作用機序があります。主要な3つの機序としては、まずアデノシンの活性化。それから GPR55 や TRPV1 と V2 を阻害するということ。これらは従来の抗てんかん薬の作用機序とは異なっています。そのことが、難治性のてんかんに効果がある理由かもしれません。現在の抗てんかん薬にはない新しい作用が CBD にはあるのかもしれない。

GZJ: てんかんに対する CBD の正確な作用機序はまだ解明されていないということですね。

EM: そうです。CBDが作用する受容体は複数あって、CBDは「dirty drug」と呼ばれています。セロトニン受容体にも作用するし、グリシン受容体も活性化するなど、理論的には色々な説明が可能ですが、まだ正確にはわかっていません。

GZJ: 近年日本では、イーケプラ(レベチラセタム)、ビムパット(ラコサミド)などの新しい抗てんかん薬が手に入ります。こうした医薬品と CBD はどういう関係にあるのでしょうか?

EM: CBD は今でも補助療法という位置付けです。まだ研究中だということです。ご存知のように、エピディオレックスは FDA に承認されましたがまだ手に入りません、DEA によるスケジュール変更が済んでいませんからね(訳注:このインタビューは 9月11日に行われたが、その後 DEA によってエピディオレックスはスケジュール V に変更された)。スケジュールが変更されて発売されれば、従来の抗てんかん薬とは違う市場が生まれます。なぜなら、たとえばイーケプラは SV2A を介して作用し、それによって神経伝達物質を抑制するわけですが、CBD にはこの作用はないわけですから。

GZJ: 5年後にはエピディオレックスは普及していると思いますか?

EM: 思います。難治性のてんかんに対する治療法は現在あまりないわけですからね。さらに、医師がエピディオレックスを使うことに慣れるに従って、適応外使用も増えると思います。従来の抗てんかん薬が効かない患者はたくさんいますから。だから時間とともに、レノックス・ガトー症候群とドラべ症候群以外のてんかんにもエピディオレックスが使われるようになっていくと思います。

GZJ: それはCBDの正確な作用機序の解明に役立つと思いますか?

EM: ええ、思います。商品の発売後に行われるリサーチは多いですし、発売されれば独自の研究ができますからね。

GZJ: 将来的に、難治性ではないてんかんの第一選択治療に使われる可能性はあるでしょうか?

EM: 可能性はあると思いますが、現実的には、第一選択治療を決める基準はまず、FDAが定める適応症にあるかどうか。多くの医師は、適応症に示されていない症状についてその薬を第一選択治療に使うことはしないと思います。何年もの経験の蓄積の後に、最初にエピディオレックスを選ぶ人がいるかもしれないが、今度はその他にも考慮すべき要素があります。価格、入手しやすいかどうか、その疾患に対する効能、その他。だから人々が CBD を第一選択治療に選ぶかどうかは予想が難しいですね。ドラべ症候群とレノックス・ガトー症候群以外の疾患ではその可能性は低いでしょう、初めのうちはね。何年も経てばわかりませんが。

 

 

GZJ: 価格について伺います。エピディオレックスの年間費用は $32,500 (およそ370万円/2018年10月時点)ということですね。すでに医療大麻が合法な州ではディスペンサリーで高 CBD の製品を買うこともできるし、病院でエピディオレックスを処方してもらうこともできるようになるわけですが、価格を比較するとどうなんでしょう?

EM: イーケプラ、ビムパットを自分のお金で買うとしたら、エピディオレックスと価格は近いです。ただし保険が効きますから実際に患者が支払う金額はもっとずっと少ないですが。エピディオレックスの価格は他の抗てんかん薬に近いんです。エピディオレックスの価格と、シャーロッツ・ウェブなど、各州で製造される CBD製品を比較すると、CBD1mgあたりの価格はあまり変わらないんですが、用量に差があります。リアルム・オブ・ケアリングが最近公表したデータによると、患者が摂っている用量の中央値は体重1キロあたり 2mg/day で、これはエピディオレックスが目安としている用量の10分の1です。つまり費用の差は、服用している量の違いなんです。

GZJ: なるほど。保険がカバーする金額について伺いたいんですが、たとえば年間のコストが $32,000 程度の抗てんかん薬を使っている場合、実際に患者が支払う金額はどれくらいなんですか?

EM: その人が買っている保険契約の内容によりますが(訳注:アメリカには日本のような国民皆保険制度は存在せず、民間の医療保険に加入する必要がある)、月額 $30〜80といったところでしょうか。メディケイド(訳注:民間の医療保険に加入できない低所得者・身体障害者に対して用意された公的医療制度)の対象の人なら無償か、払うとしても月額 $4 程度の小額です。

GZJ: 話を戻しますが、産業用ヘンプから抽出された CBDオイルの成分は、シャーロッツ・ウェブよりもエピディオレックスに近いと考えて差し支えないでしょうか?

EM: そう思います。

GZJ: 産業用ヘンプ由来の CBDオイルをエピディオレックスと同様に治療に使うことは可能でしょうか?

EM: その効能は近いのではないかと私は思いますね。大麻草の茎から抽出した CBD オイルには THC は含まれていないことを前提にすれば、エピディオレックスに非常に似ているわけですからね。

GZJ: 原材料が何であれ、CBD は CBD であるということですよね。

EM: そうです。

GZJ: 問題はクオリティコントロールだと思うんですが。

EM: まさにそこが一番の問題です。製造過程の管理はなされているか、残量農薬や重金属が含まれていないか、その他もろもろの品質的な懸念ですね。エピディオレックスに関してはそうした点はクリアになっていますが、産業用ヘンプ由来の CBDオイルのさまざまな製品がそうした点をクリアしているかどうかは不明です。

GZJ: マウスを使った実験では、CBD はさまざまなてんかんモデルに効果を示しています。それは人間のてんかん患者においても確認されているのでしょうか。

EM: それはまだわかりません。エピディオレックスについて公表されている研究はレノックス・ガストー症候群とドラべ症候群に関するものです。それ以外のてんかんについても治験は行われていると聞きますがその結果はまだ公表されていません。

GZJ: CBD単体の製品とフル・スペクトラムの製品の違いについてですが、CBD単体の製品が効能を示すのは、フル・スペクトラムの製品が効能を示す病態のうちの限られた一部である、と考えてよいでしょうか。

EM: 一言でお答えすると、わかりません。私はてんかん専門医ですから、CBD が効くかもしれない疾患全体についてのそうした大きな質問にお答えすることはできないんです。糖尿病やある種のがんに対する CBD の効能が研究されていることは知っています。GW製薬もそうした疾患について、フル・スペクトラムではなく純粋な CBD の効能を研究しています。

GZJ: パーキンソン病もですか?

EM: GW製薬はパーキンソン病についての研究はしていないと思いますが、コロラド州の研究者の中に、さまざまな THC と CBD の割合の製品を使ってパーキンソン病の、おそらく運動症状以外の症状の治療を試している人たちがいるのは知っています。

 

コロラド州にあるシャーロッツ・ウェブの畑

 

GZJ: 2002年に博士がコロラド州に移られてから今日まで、コロラド州の人々の医療大麻に対する態度に変化は見られますか? 医療大麻について知っている人は増えていますか?

EM: そう思いますね。2002年には私は神経科の研修医だったんですが、大麻を使っているということを口にする人がたまにいました。私の患者には退役軍人が多く、兵役中に大麻を使ったことがある人が多くて、わりとオープンにそのことを担当医である私に話したわけです。私は興味を持って、患者に無記名のアンケートを行いました。すると、3分の1近くの患者が大麻を使っていたんです、私に隠れてね。怖いのは、CBD や THC には代謝酵素を阻害する作用があるので、他の抗てんかん薬の血中濃度を危険なレベルにまで高めてしまう可能性があるということです。でも患者は大麻を使っていることを私に教えてくれなかったし、私も尋ねる必要があると思っていなかったんですよ。でもそのアンケート調査をして以来、患者には尋ねることにしています。

GZJ: 患者から医療大麻を使いたいと言ってきたら、何を勧めますか? CBD 主体のもの、それとも THC 主体のものですか?

EM: それは微妙な質問ですね、コロラド大学の教員という立場では医療大麻を処方することはできませんから。でももうすぐエピディオレックスが処方できるようになりますけどね。THC については、けいれんを助長するという研究結果と抑えるという研究結果が混ざっていて複雑な化合物なんですが、CBD には、私が知る限り、けいれんを助長するというエビデンスはありません。だから CBD の方が試すには安全と言えるでしょう。

GZJ: でも、CBD を試して効果がなかったとしたら、THC を加えることを勧めますか?

EM: それもやはり私から直接患者に言えることではないんですが、患者の中には、自分で試してみた結果、THC を加えたら効果があったという人はいますよ。一つの例ですが、2013年にシャーロッツ・ウェブが有名になったとき、シャーロッツ・ウェブを買おうとした成人の患者がいたんです。でもシャーロッツ・ウェブは在庫が品薄で、小児てんかん患者が優先されたため、その患者は別の、もっとTHCを多く含む品種から作った製剤を購入しました。たしか THC:CBD の割合が 1:10 くらいだったと思います。それがよく効いて、発作がほとんど起こらなくなりました。3ヶ月後、シャーロッツ・ウェブの次の収穫があり、その患者もシャーロッツ・ウェブを入手して使ったんですが、以前と同じ頻度で発作が起きるようになってしまったんですよ。

GZJ: その人の場合は THC の方が効いたのかもしれないということですね。

EM: ええ。興味深い例ですね。

GZJ: 博士はプレゼンテーションの中で、「大麻草全草から抽出するフル・スペクトラムのCBD製剤」と「精製された純粋な CBD」という2種類の製品があるけれども、どちらの製品も患者にとっては福音であるとおっしゃいました。エピディオレックスが承認された今、この先患者にとって理想的な道筋はどういうものだとお考えですか?

EM: 医薬品として承認されたわけですから、難治性てんかん患者に医師がエピディオレックスを処方し、その効果を評価できるようになることが理想だと思います。やがて、適応症以外の患者もエピディオレックスを使うようになれば、その効果の全体像を掴むことができる。それが確立できれば、さらに研究が進み、医学界全体に役立つと思いますよ。医薬品として承認されたのだからスケジュール I という分類は変更されざるを得ず、それが変更されれば研究が容易になる。資金提供者も、研究を実施する病院も、法的な理由で恐れる必要がなくなりますからね。

GZJ: 医師や研究者の医療大麻に対する態度は変化していますか?

EM: はい。2013年の時点では、医療従事者、特にコロラド州の小児科医には、シャーロッツ・ウェブに対する強い拒否反応がありました。でも当時から、私の発表について、公には言えないけれどこっそりとお礼を言ってくれる人もいました。多くの人が、カンナビノイドの持つ潜在的な医療効果を理解していたんだと思います。自分の経験に照らして、カンナビスは少なくとも他の抗てんかん薬と同程度には安全であると思ったのでしょう。私が症例検討会で言いたかったのは、動物実験ではあるにしろ、これだけしっかりしたデータがあるのだから、臨床研究できないのはおかしいではないか、ということでした。幸いエピディオレックスが承認されて研究が可能になりました。

日本に入ってきている産業用ヘンプ由来の CBD製剤が、エピディオレックスに成分としては似ているというのは利点ですね。フル・スペクトラムではないという点でも似ているわけです。

GZJ: クオリティコントロールがしっかりしているということが前提ですけれどね。

EM: そう、品質の管理はもちろん保証されなければなりません。コロラド州が犯した過ちから学ぶべき点です。しっかりした検査体制を作り、その製剤の正確な内容を自分できちんと確認することができれば、医師の理解も得やすくなると思いますね。


エピディオレックスが処方薬として認可されるという特別なタイミングで大麻によるてんかん治療の可能性について伺えたことはとても幸運でした。このインタビューの後に DEA(麻薬取締局) はエピディオレックスを「スケジュール V」に指定。CBD そのものがスケジュール I でなくなったわけではありませんが、これでエピディオレックスという CBD 製剤を病院で処方することが可能になったわけで、治験への道も大きく開けました。今後のアメリカでの展開を注視したいと思います。

インタビュー:正高佑志・三木直子
文責:三木直子
校閲:正高佑志

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