京都大学薬学部 金子教授への反論 – 警視庁のプロパガンダに立ち向かう・その2

前回、警視庁のパンフレットの誇張を指摘しました。

が、これで終わりではありません。

このパンフレットには、続編が存在しています。2018年10月9日付けで発表された「大麻を知ろう②」に掲載された京都大学薬学研究科の金子周司教授のインタビュー記事は、誇張を超えてねつ造の域に達しています。そのため今回、Green Zone Japan は金子教授の発言に対して、エビデンスを引用しつつ反証します。

(金子教授の発言全文は以下のリンクから確認できます。)
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/drug/drug/taima_interview.files/02.pdf

 

金子教授:「薬としての大麻の研究は既に終わっている。」

GZJ:これは事実関係と矛盾します。

近年、医療大麻に関する研究論文の数は爆発的に増えています。
https://t.co/MFdXnzUH48
これまでに研究が積極的に行われている領域は、HIV・AIDS(261本)、慢性痛(179本)、多発性硬化症(118本)、嘔気・嘔吐(108本)、てんかん(88本)などで、2000年以降、医療大麻関連の論文数は 9倍になっています。筆者(正高)は連日、twitter(@yuji_masataka)にて医療大麻に関する新着論文を紹介しています。御確認下さい。

金子教授:「THC と CB1 が結合すると絶対にうまくいかないという結論が出ている。カンナビノイド研究における世界トップのドイツ人が言っていた。

GZJ:THCを単離した製剤では精神症状が問題となることがありますがこれは CBD などの他のカンナビノイドとの併用で軽減されることが判明しています。実際に THC : CBD を1 : 1で含む大麻草由来のサティベックスという製剤が世界 30ヶ国で販売されていますが、市販後の大規模調査でも安全に使用され、乱用はなく、副作用は問題にはなっていません。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5113923/

 

また、世界トップのドイツ人という匿名情報は、信頼に値しません。本当にそのような発言があったなら、名前を公開して頂きたく存じます。

金子教授:「大麻の引き起こすのは『幻覚』で、『感動しやすくなる』『色が綺麗にみえる』『食べたものがおいしくなる』などの作用を示す。」

GZJ:幻覚という日本語の一般的な用法と、教授の用法は乖離しています。手元の大辞林では、幻覚とは「現実には存在しない対象を知覚する現象」と定義されています。

大麻が引き起こす五感の変化に関しては、むしろ「錯覚」という表現がふさわしいでしょう。

 

大麻以外に「錯覚」を引き起こすものの代表に、恋愛があります。恋をするとラブソングから受ける印象が変化したり、景色が輝いてみえるという体験は、誰にでも一度はあるのではないでしょうか?

まれに大麻草が幻覚様の症状を引き起こすことは報告されています。しかしその大多数は、元々統合失調症に罹患していたり、統合失調症の家族歴を有するなど、体質的に脆弱性が認められるケースであり、健康なボランティアを対象とした治験では幻覚は極めて珍しく、それも全草より単離された THC の摂取後がほとんどであると、ジョンズ・ホプキンス大学のバレットらが指摘しています。
https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/can.2017.0052

錯覚と幻覚の違いは医学的には重要なので、医学生は授業で習います。教授が「幻覚」という恐怖を引き起こす強烈な単語を、誤りと知りつつもあえて使用したなら、これは悪質な印象操作と考えられるでしょう。

金子教授:「危険ドラッグで事故が起きた」

GZJ:危険ドラッグが安全性上問題がある点には私も同意しますし、大麻においても基本的に使用時の自動車の運転は控えるべきだと思います。

けれどここで、唐突に危険ドラッグの話を持ち出す理由がわかりません。そもそも、危険ドラッグと大麻は別物です。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3035942/
(※ 危険ドラッグとは「法規制を避けるためにデザインされた、違法薬物に似た合成薬物の総称」であり、合成カンナビノイド系、覚醒剤系、オピオイド系、幻覚剤系、麻酔系など、あらゆる種類の化学物質を含みます。現在は法改正により全て違法となっています。)

天然の大麻が、100種類以上の様々なカンナビノイドを含むのとくらべ、危険ドラッグ(合成カンナビノイド)は単一の化学物質で成り立っています。これはたとえるなら、

大麻=100種のスパイスが混ざったカレー
危険ドラッグ=唐辛子の塊

のようなものです。唐辛子だけをバケツ一杯食べたら、普通の人はお腹の痛みでのたうち回ります。だからといって「カレーを食べるのは危険!」ということにはなりません。また薬物の使用と運転に関して言えば、最も多くの事故を引き起こしているのはアルコールです。論理的にはそちらを問題視すべきです。

(ちなみに大麻に関しては、既に合法化されたコロラド州とワシントン州では、明らかな死亡事故件数の増加は認められていません。
https://blog.norml.org/2018/03/21/study-traffic-fatalities-have-not-increased-as-a-consequence-of-legalization/
またカナダの合法化から一ヶ月が経ちましたが、交通事故件数の上昇は認められなかったことが報道されています。
https://www.cbc.ca/news/politics/pot-impaired-driving-no-spike-1.4906550

金子教授:「日本で大麻が合法化なんかされたら大変なことになりますよ。健康被害だけじゃない。事件事故が起きてもそれを罰することができなくなる。日本の社会秩序をめちゃくちゃにしていいんですか?」

GZJ:アメリカ西海岸のワシントン州では、2012年に嗜好大麻の合法化が行われていますが、合法化後にむしろ犯罪発生率は低下したと報告されています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167268118300386
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/07/180724110031.htm

カリフォルニア州では今年(2018)の元旦から大麻が合法化されていますが、その後、秩序が崩壊したという話をききません。カナダも10月17日に解禁したので、無法地帯になるかどうか、まもなくはっきりすると思われます。

ちなみに合法化しても事件や事故が起きたら罰することはできます。アルコールは合法ですが、アルコールが原因の交通事故は罰せられています。

金子教授:「一回で依存症になります。」

GZJ:なりません。金子教授は依存症の定義を理解できていません。一般の方の為に Wikipedia のリンクと、専門の方のために WHO のガイドラインを貼っておきますので、各々定義を確認してください。

https://ja.wikipedia.org/wiki/薬物依存症
http://www.wpro.who.int/publications/docs/ClinicalGuidelines_forweb.pdf

金子教授:「長期間使用すると海馬が萎縮します」

GZJ:参考文献の記載がないので定かではありませんが、おそらく教授が念頭に置いているのは 1971年のLancet に掲載された論文ではないかと考えられます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/4143590
しかし後の研究で、これは誤りであったと反証されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/576460

2016年のオーストラリアの研究チームの報告によると、大麻のヘビーユーザーでは海馬の体積は1割程度の縮小が認められましたが、CBDの併用はこの萎縮を抑制しました。また重要な点ですが、萎縮が認められた大麻ユーザーでも使用を中止し経過を観察したところ、海馬の体積は回復したと報告されています。
https://www.nature.com/articles/tp2015201#author-information

2018年の双子のデータベースを用いた研究では、大麻の使用と脳の体積に明らかな関連は無かったと報告されています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/add.14252
さらに近年の研究ではむしろ、大麻は神経細胞を保護する可能性も指摘されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22625422

脳への悪影響を心配されるのであれば、これも大麻よりお酒について語るべきです。
https://www.medicalnewstoday.com/articles/320895.php

金子教授:「化学合成したものの方がシンプルでコントロールしやすく、天然物は複雑で危ない。」

GZJ:これは科学ではなく、個人の信条、信仰です。ナチュラリストの逆、ケミカリストとでも呼ぶのでしょうか? 信仰の自由は認めますが、サイエンスの場に持ち込むべきではありません。

金子教授:「医療用としての大麻は、確かに心の痛みを止めるとか食欲を増やす効果があります。」

GZJ:御指摘の通りです。特に心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する治療として期待されており、アメリカで退役軍人を対象とした大規模試験が遂に始まりました。結果が待たれます。

 

金子教授:「食欲を増やす薬は他にありますから大麻は必要ありません。」

GZJ:具体的に何のことを指しているのでしょうか? 少量のステロイドや六君子湯などの漢方薬が処方されることがありますが効果は乏しく、食欲を増す薬の選択肢は極めて乏しいのが臨床現場の実感です。

大麻が、がんやエイズはじめとした、徐々に消耗していく病気に伴う食欲低下を改善することや、抗がん剤によって引き起こされる吐き気や食欲不振を和らげてくれることに関しては、驚くべき効果が報告されています。
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/07/180717094747.htm
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30343297
食欲に関して、これほど劇的に効く薬が他にあるなら御教示頂ければ幸いです。

金子教授:「医療費が払えない人が大麻を使う」

GZJ:それは教授の偏見です。アメリカでは高学歴、高収入層も代替医療に高い関心を持っています。何故、人々が医療大麻を使うかに関しては、デイヴィット・カサレッド先生のTED talkをご覧下さい。

 

金子教授:「皆保険でみんな薬がもらえるからいらない。」

GZJ:クローン病患者である成田賢壱氏は、アメリカ在住中は大麻のみで病気のコントロールが可能で、かかる費用は微々たるものでした。ところが日本に帰国後は高額な分子標的治療薬が必要となり、更に薬の副作用で結核になり手術を受け、多額の医療費を支払っておられます。
https://twitter.com/kenichinalita/

医療費は毎年増加し続け、日本の皆保険制度は崩壊の危機と叫ばれています。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018092700947&g=eco
医療費削減は急務です。医療大麻の合法化は、医薬品の処方を減らすことが研究結果として指摘されています。
それは医療費削減へとつながります。

https://www.jamda.com/article/S1525-8610%2817%2930429-2/fulltext#Effects%20of%20Legal%20Access%20to%20Cannabis%20on%20Scheduled%20II–V%20Drug%20Prescriptions

金子教授:「大麻は対処療法で他に優れた鎮痛薬や抗不安薬があるから必要ない。」

GZJ:この瞬間も、日本中に耐えがたい痛みに苦しんでいる患者さんが沢山おられます。大麻草およびカンナビノイド製剤は、従来の鎮痛薬とは全く異なるメカニズムで効果を発揮し、一部の患者さんには劇的な効用を示します。たとえば線維筋痛症の疼痛に関しては、現在処方されている薬より大麻の方が効果があることが示されています。詳しくはこちらにある過去記事をご参照ください。

疼痛に関しては、オピオイド製剤の適正な利用を啓発することも重要です。オピオイドもまた麻薬というレッテルにより、日本では必要以上に怖がられていますが、オピオイドが免許制で処方可能であるのに対し、カンナビノイドは例外なく禁止されているのは制度上の矛盾です。

金子教授:「CBDには依存性はないけれど副作用が強い。仕方なく使っている。」

GZJ:CBDは現在、Epidiolex という商標名でアメリカでてんかん患者に処方可能となっています。第 III 相試験が行われましたが、生命の危機につながる重篤な副作用は認められませんでした。アメリカの麻薬取締局は、CBD製剤である Epidiolex をスケジュール Ⅴ に分類しています。これは日本で広く処方されているベンゾジアゼピン系の睡眠薬より安全性が高いという評価になります。

http://www.greenzonejapan.com/2018/06/30/cbdが病院で処方される日/

金子教授:「アメリカは合法化されたからオープンに吸えると思ったら大間違い

GZJカリフォルニア州では大麻に限らず、飲食店やホテル内は全面禁煙ですので、煙草を吸えない場所では大麻も吸えません。また公園や海水浴場など、公共の場所でも吸えません。したがって旅行者が喫煙できる場所は限られてきますが、個人宅などプライベートな場所ならば吸うことが許されます。2018年1月1日から嗜好大麻も合法化されたカリフォルニア州では、大麻は極めてオープンに扱われています。下の写真は大麻を販売する専門店(ディスペンサリー)の一例です。特にいかがわしい印象はなく、誰でも身分証一枚で安心して購入することができます。

金子教授:「薬物は戦争やテロの資金として悪用されている」

GZJ:だからこそ政府が管理すべきということでカナダ、メキシコを筆頭に欧米諸国は合法化して課税する流れになっています。日本でも合法化すれば反社会勢力の資金源を絶つことに繋がるでしょう。

金子教授:「大麻を吸って『平和』だとかいっている人、全然かっこよくないですよ」

GZJ:これは「ネーム・コーリング」と呼ばれるプロパガンダの手法で、相手に悪いレッテルを貼り、それを非難して、相手の評価を落とすというやり方です。ヒトラーが野党を追い落とすときに使った手法として知られています。

金子教授:「今更『大麻の有効性を発見した』なんていうのはウソつけって話」

GZJ:Pubmed に載っている論文は全て査読を経ています。つまり専門家が内容に偽りがないか評価し、問題のないものだけが掲載されるということです。そのような科学的な研究を土台に、世界保健機構もついに大麻の違法薬物としての分類を見直す会議を今年行い、現在結果発表が待たれています。世界中の大麻研究者をウソつき呼ばわりするからには、それなりの根拠を提示するべきではないでしょうか。

金子教授:「いい加減な言葉に惑わされないで、信頼できるソースを調べてくださいね。」

GZJ:そうさせて頂きました。おかげで大変勉強になりました。


以上が我々の反論になります。カール・ポパーによれば、科学の本質は反証可能性にあり、常に過去の誤りを修正しつつ、真理へと近づくものです。金子教授からの反論を、我々は歓迎します。

パンフレットの情報発信元:
警視庁 組織犯罪対策第五課 銃器薬物対策第二係
電話:03-3581-4321(警視庁代表)
金子教授の教室 HP:http://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/channel/

文責:正高 佑志(医師)
監修:三木直子(Green Zone Japan) / Convict 切原旦陽 @convictNo798 on Twitter

2 Replies to “京都大学薬学部 金子教授への反論 – 警視庁のプロパガンダに立ち向かう・その2”

  1. ありがとうございます。このような活動に大変感謝致します。

  2. 応援してます より: 返信

    凄い反証力ある文章。病気で苦しんでいる人々に少しでも選択肢があればいいのに
    こんな単純なことを考えれない、京大教授、社会システム残念(>_<)

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