ドラべ症候群家族会とブコラムを巡る物語

「てんかんの治療薬ということなら、ドラべ症候群の家族会が力になってくれるかもしれないよ。」

—可愛い後輩のことを気にかけてくれていたのだろう。小児科に転向した先輩医師が、ある日思いついたように連絡してきてくれた。

アメリカの世論を動かしたシャーロットちゃんもドラべ症候群だし、興味を持ってくれるかもしれない。ウェブページからメールを送ってみるとすぐに返事がきて、私は代表の方とお会いする約束をした。苗字からなんとなく、ニットキャップを被った屈強な男の人をイメージしていたのだけれど、現れたのはすらっとした女性だった。

彼女はカンナビジオールの事について、とてもよく知っていた。自分の子どものことだ。真剣さの度合いが違うのだろう。そして家族会が当面の目標として、ブコラムの承認を目指して活動していることを教えてくれた。


ブコラムとは、てんかん発作が起きたときにレスキューとして用いられるミダゾラムという薬の口腔内投与剤である。

てんかんの発作とは、脳の神経回路のネットワークを、異常な電気がぐるぐると回って止まらなくなる現象だ。火事のときに最初の対応が重要であるように、てんかんの発作でも小火の間に速やかに鎮火すれば、大事に至らずに済む。救急車を呼んで病院に到着し、薬が投与されるまでの時間は、家族にとっては永遠にも感じられるだろう。そして実際に、その30分が生死を分ける局面がある。自宅でミダゾラムが使えることで、救われる命はあるのだ。

ミダゾラム自体は、鎮静や麻酔の導入、痙攣発作を抑える薬として、どこの病院でも使っている。(ドルミカムと言ったほうが通りはいいかもしれない。)普段、血管の中に投与しているものを、口の粘膜から剤形を変えて投与するだけのことだ。今すぐにでも使ってよさそうに思える。

でも物事はそう簡単にはいかない。剤形が変わって、名前が変わると、もう一度治験を行い、安全性や有効性を確認する必要があるらしい。

治験というのは、手間と時間とお金がかかる。5年間という時間をかけて、家族会は要望書を書き、ひとつひとつと署名を集め、今年になってようやく治験の実現までこぎ着けた。この治験がしかし、最後の難関として立ちはだかっている。

ブコラムは”発作時のレスキュー”だ。つまり、目の前に発作が起きている子どもがいて初めて、治験参加への扉が開けることになる。治験を行っている病院は限られていて、誰もが参加できる訳ではない。というか、現実的には検査入院中、しかも日中に発作が起きたケースくらいしか、参加が不可能だ。

『このままでは治験に必要な症例数が集まりません。協力をお願いします』と、家族会の集会で担当の先生は悲痛な顔で訴えていた。


家族会の方々とは、私が作った資料を学会のブースで配ってくれたり、人を紹介してくれたりと、やりとりがある。ある日、メールの返事が来ないのを不思議に思ってメンバーのFacebookページをみにいくと、そこには簡単には言い表せない激情が綴られていた。

この11月に、家族会のメンバーのお子さんが重積発作で2人、立て続けに亡くなられたこと。
こんなに一生懸命、正攻法でブコラムの承認活動を行ってきたのに、間に合わなかったこと。
ブコラムの承認が進まない横を追い抜いて、どうでもいい新薬が迅速承認されていくこと。

京都の集会で、親切にして下さった家族会の方々と子ども達の顔が思い浮かぶ。何か、コメントをしようとクリックした僕の手は、固まったまま、次の言葉が出てこなかった。ただ涙がこぼれた。


それから数日。家族会から止まっていたメールの返事が来た。みんな、悲しみを超えて前へ動いているという。

二日前に、Change.orgで、ブコラムの早期承認を求める署名サイトが立ち上がった。そして、家族会のメンバーが、国会へ陳情に行くことが決まった。

そもそも治験とは、医薬品による健康被害から患者を守るために課せられたものであったはずだ。その治験制度が、救える患者の命を奪っている。

目の前のおかしな仕組みに、ちゃんと声をあげていくこと。それが今、この国に必要なことだと私は思っている。必要なのは、少しの勇気と行動。ワンクリックで救える命。

Green Zone Japanはブコラムの早期承認活動に賛同します。
下記のリンクより、電子署名が可能です。
何卒、御協力をお願いします。

https://www.change.org/p/%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%

文責:正高佑志(医師)

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