医療大麻と糖尿病

■ II 型糖尿病の仕組み

糖尿病。誰もが名前は知っている病気。しかしこれが具体的にどういった身体の異常なのか、改めて考えてみましょう。

糖尿病は文字通り、尿の中に糖分が含まれる病気です。逆に言えば、健康な人の尿には糖分は含まれません。なぜ尿と一緒に大切な糖分が排泄されるようになってしまうのか? それは過剰に摂取した栄養を、身体がもうこれ以上は吸収できないからです。

 

 

食事から摂取した糖分は、小腸から吸収され血液中に入ります。(血液中の糖分量を血糖値といいます。)この糖分は全身の細胞の中に取り込まれ、エネルギーとして利用されるのですが、この、血液から細胞へ糖分が入っていくときの「入場係」の仕事を担うのが、すい臓で作られるインスリンと呼ばれるホルモンです。

糖尿病の患者さんでは、このすい臓が過労で具合が悪くなったり、糖を取り込む細胞のゲートが開きづらくなったりしています。(これを専門用語で「インスリン抵抗性が上がる」と言います。)その結果、本来は血液中から細胞に取り込まれるはずの糖分が、血中に留まったままとなり、行き場がなくなって尿から体外に捨てられるのです。

 


(注:糖尿病には主にI型と Ⅱ 型が存在し、この二つは異なるメカニズムで発症する病気ですが、
今回はより一般的な Ⅱ 型糖尿病に限って話をします。)

■ 糖尿病と合併症

このようにして、糖尿病の患者さんの血糖値は常に高い状態になります。

高血糖自体は、よほどでない限り、自覚症状を生みません。けれど、想像してみてください。本来、水が流れるべき水道管の中をずっとオレンジジュースが流れているような状態です。だんだんと管の中がベタベタしてくると思いませんか?

そのせいで糖尿病の患者さんの血管は、長年かけて細い血管から順に、少しづつ詰まっていきます。そして最終的に、① 神経障害(しびれと感覚障害)② 網膜症(失明)③ 腎障害(進行すると人工透析)などの三代合併症や、心筋梗塞、脳梗塞などの比較的太い血管の病気を引き起こすのです。

■ 糖尿病の治療と医療大麻

糖尿病の患者と予備軍をあわせると、日本国内には約2000万人の患者さんがいます。糖尿病関連の医療費は年間 1兆2,000億円を超えています。
http://www.seikatsusyukanbyo.com/statistics/2017/009436.php
https://dm-net.co.jp/calendar/chousa/cost.php

糖尿病の治療は大きく

(1) 糖尿病自体の予防(食事療法、運動療法)
(2) 血糖をコントロールし合併症を予防(経口血糖降下薬、インスリン)
(3) 発生した合併症への治療(腎不全に伴う透析など)

に分けることができます。そして驚くべきことに、医療大麻はこれら全ての領域で有効ではないかと考えられているのです。

アメリカの医療大麻啓発団体である AAMC (American Alliance for Medical Cannabis) によると、糖尿病に対する医療大麻の利点として以下が挙げられています。

血糖を安定させる
微小血管の炎症を抑える
神経の炎症を抑制し、神経痛を緩和する
抹消血管を拡張し、微小循環を改善する
血圧を下げ、心疾患、腎障害などの大血管合併症を抑制する
筋痙攣の痛みを緩和する
腸管症状とそれによる痛みを緩和する

それぞれについて、以下で見ていきたいと思います。

■ 医療大麻と糖尿病予防

肥満とは、過剰に摂取したカロリーを身体に蓄えている状態で、糖尿病の前段階と考えられています。(糖尿病が進行し、すい臓がくたびれてくると逆に痩せてきます。)
https://dm-net.co.jp/seminar/07/

肥満はインスリン抵抗性を高め、インスリンの効きを悪くしますが、これは痩せることによって改善されます。そのため糖尿病予備軍や軽度の糖尿病患者さんは、適正な体重を維持することで、病気の進行を予防することが可能です。

以前の記事で紹介した通り、大麻は基礎代謝を高め、肥満を改善してくれる可能性があります。それはつまり、大麻が糖尿病を予防する可能性があるということです。実際に、2012年にイギリスの医学雑誌に報告された、1988〜1994年のアメリカ人1万人以上のデータを解析した疫学研究では、大麻を吸う人の間では、吸わない人と比べると、糖尿病の人数が、なんと半分以下であったことが明らかになっています。
https://bmjopen.bmj.com/content/2/1/e000494

■ 医療大麻と血糖コントロール・合併症予防

糖尿病と診断された患者さんにとって重要なのは、なるべく血糖値を正常に保ち、神経、腎臓、目などの合併症を予防することです。

これまでに複数の研究で、大麻の使用がインスリン抵抗性を改善し、血糖維持に役立つ可能性が指摘されています。
https://www.ripublication.com/ijbb17/ijbbv13n1_01.pdf

2013年にAMJに報告された疫学研究では、大麻使用者の方が痩せており、かつインスリン抵抗性の値が17%低かったことが明らかになっています。
https://www.amjmed.com/article/S0002-9343(13)00200-3/abstract?cc=y=

また2014年にカナダのイヌイットを対象とした調査でも、やはり同様に大麻喫煙者の方が痩せており、インスリン抵抗性が2割ほど低いことが明らかになっています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/oby.20973

これは体重減少に付随する影響だと思われますが、大麻が持つ抗炎症作用や抗酸化作用自体も、糖尿病の合併症を予防するのに一役買っていると考えられます。たとえば CBD は糖尿病患者において、TNF-α、VEGF、酸化ストレスなどを減らし、網膜の血管透過性の亢進と炎症を抑え、糖尿病性網膜症の発生を予防する可能性があることが指摘されています(動物実験)。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16400026

■ 医療大麻と糖尿病合併症治療

そして既に発生した合併症の治療にも、医療大麻は有用と考えられています。

CBDは抗炎症、神経保護作用を有しますが、たとえばこれは合併症の一つである脳梗塞の治療薬として有望視されています。実際にラットを用いた実験では、CBD の投与下では、脳梗塞のダメージを 30%ほど減少させることができたとのことです。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S000294401062086X
https://www.diabetes.co.uk/news/2015/apr/cbd-compound-in-cannabis-could-treat-diabetes,-researchers-suggest-95335970.html

また大麻が糖尿病による神経痛を緩和する可能性も指摘されています。以下は2015年にカリフォルニア大学から報告された研究で、16名の痛みを伴う糖尿病性ニューロパチー患者に大麻とプラセボを投与したところ、大麻は用量依存性に痛みを緩和するという結果が得られました。
https://www.diabetes.co.uk/news/2015/apr/inhaled-cannabis-reduces-pain-in-diabetic-peripheral-neuropathy-patients,-study-suggests-95680845.html
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25843054

 

このように、医療大麻は糖尿病患者さんに対して、一石三鳥とでも言うべき幅広い恩恵をもたらす可能性があります。今後、より一層の研究の進歩が期待されます。

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

 

参考:

https://www.diabetes.co.uk/recreational-drugs/cannabis.html
https://www.medicalnewstoday.com/articles/316999.php
https://www.forbes.com/sites/andrebourque/2018/12/05/can-cannabis-treat-or-even-prevent-diabetes/#cbbfd7c4a529

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