医療大麻製剤の国内治験へむけて 秋野公造議員にきく

2019.11.07 | GZJ 国内動向 | by greenzonejapan
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医療大麻製剤の国内治験へむけて 秋野公造議員にきく
2019.11.07 | GZJ 国内動向 | by greenzonejapan

遡ること 2019年 3月19日、公明党の秋野公造参院議員が日本国内での大麻由来医薬品を用いた治験に向けて国会質疑を行ったことを受け、2019年 4月15日、参院議員会館にて、秋野議員にお話を伺いました。

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正高: 秋野先生は医師、厚生労働省医系技官を経て、現在は参議院議員という立場から医療政策のスペシャリストとしてご活躍されています。今回、先生が国会の場で大麻由来医薬品の治験に関するご質問をされたことで、新たな可能性が初めて開けた訳ですが、まずは議員になるまでの話などを教えてください。

秋野: はい、私は長崎大学の医学部を卒業して医師になりました。長崎大学の第一内科に入局しましたが、神経、内分泌代謝、膠原病、消化器などを専門とする診療科です。米国にて勤務し、その後、基礎研究にも取り組んでいたことがありますが、長崎大学より、教授会にて決めて頂いて、厚生労働省に出向後、医系技官として採用試験を受け、合格しましたので、そのまま厚生労働省で働きました。30代後半の大きな転機でした。

厚労省では、薬害エイズ、肝炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、ハンセン病と、国と製薬企業に対して激しい薬害訴訟が起きた疾患の対策に関わりました。それまでは医師として患者さんから『ありがとうございました』と言われることが多かったように思いましたが、入省してからは、時には怒声、罵声を浴びながら仕事をすることになりました。

精神的にも肉体的にもとても厳しい仕事でした。中には体を壊してしまう方もいました。薬害の問題は、被害者の救済、医療提供体制の構築、研究、障がい施策もあるし、一般対策として国際関係、就労の話もありました。HIVに感染したのではないかと不安に思う気持ちは HIV/AIDS 患者が一番よくわかるのではないかと、患者さんが運営する HIV検査センターの創設にも関わり 10周年を迎えました。このように、患者さんとの多岐にわたる取り組みが私の議員活動の原点になっていることは間違いなく、今でも患者さんと仕事ができることを幸せに思っています。厚労省では他にも、羽田空港検疫所支所長を務めました。新型インフルエンザの世界的大流行の時期でしたので迅速かつ正確な判断が迫られる仕事でした。

正高: そのおかげもあってか、日本では特に大きな問題にならなかったように記憶しています。

秋野: 検疫所も頑張ったのです。問題を未然に防ぐ仕事なので、なかなか評価されづらい仕事ではありました(笑)。

正高: その後、議員になられたのでしょうか?

秋野: はい。公明党からお話を頂いて、出馬を決意しました。これまで旧厚生省、旧労働省出身の議員はいるけれど、省庁再編して長くなるのに厚生労働省出身の議員がいないと背中を押してくださった方もいらっしゃいました。公明党は結党55年になりますが、大衆福祉が党是です。私の経験がうまくマッチすれば幸いです。

正高: 議員になってから取り組まれたお仕事について教えていただけますか?

秋野: 二期目の当選確実を知らせるTV番組のテロップに「ミスターピロリ菌」と紹介していただきましたが、まずは、胃がん予防のためのピロリ菌の除菌を保険適用にするよう国会質疑を積み重ねました。国は胃がんとピロリ菌との関係をそれまで 認めてこなかったのです。原因として認められていないことを、薬の効能書きに書きこむことはなく、また薬の効能書きに書いていないことを保険適用にできるはずもなく、時間だけが過ぎていきました。そこで、国会質疑を通じて、胃がんとピロリ菌の因果関係を国に正式に認めさせることができました。政策を実現するためには国会での質問が一つの手段となります。

正高: こうやってお話を伺うと、先生の活動は医師の頃から一貫して社会的弱者の側の立場から、エビデンス(根拠)を元に解決方法を提案、合意形成、政策実現という流れがあるように感じました。今回の医療大麻製剤の件もどのような背景から国会での質問に至ったのかーその辺を詳しくお聞かせ頂けますか?

秋野: ありがとうございます。私は、てんかん学会の大澤真木子理事長(当時)や聖マリアンナ医科大学の太組一朗先生に教わって、てんかん対策に取り組んできました。政策としては、てんかん診療の質をあげること、具体的には、てんかんとともに生きる患者さんに、てんかん診療の質が高い医療機関を示すこと、すなわち都道府県が申請して国が指定する『てんかん診療拠点病院』制度の創設を実現しました。全国で 13 の施設が、てんかんの外科的治療が出来ることなどを評価されて選定されています。( ※ 現在は 15の医療機関が選定されている。)

てんかんという病気は割の方はすでに承認されている医薬品を適切に投与することで症状を抑制できます。外科治療が選択肢に加わって、喜ばれている方が増えても、今なお3割近くのてんかんは難治性であり、症状を抑制できないのです。新しい治療を必要とする方は、沢山おられます。そこで米国で承認された大麻由来医薬品の話が出たのです。

エピディオレックスはレノックスガストー症候群、ドラべ症候群の二つのてんかん症候群に薬事承認が下りています。これは一つのエビデンスです。

このような流れの中で、てんかん診療拠点病院に選定された沖縄赤十字病院から『大麻由来医薬品を治療に使いたい』という要望書を頂きました。沖縄の病院からの要望ですので、 3月19日の参議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会にて、大麻由来医薬品は施用することも、施用を受けることも、施用のために輸入することも認められていませんが、治験の手続きの中で用いることが出来ないか? と質疑するに至りました。厚生労働省は「限定して可能」と答弁し、沖縄及び北方担当大臣も厚生労働省と協力すると答弁しました。ですから、すでにこの問題は厚生労働省だけの問題ではなく、内閣府も共有した問題ということにもなったのです。

正高: それはとても大きなことですね。まさに秋野先生の政治家としての手腕が発揮され素晴らしい流れができたと思います。

秋野: ありがとうございます。でも、きっかけは実は正高先生から始まっているのです。その沖縄赤十字病院の医師とは、前述の聖マリアンナ医科大学の太組先生が兼任しており、そこに大麻由来医薬品または大麻由来薬物の話をもともと持ち込んだのは正高先生だと聞いていますよ。また丁度、聖マリアンナ医科大学に、てんかんの厚生労働科学研究班が設置されたタイミングもあって治験へ向けてうまく話が進みました。なお、研究班が設置されたのは6年ぶりのことでした。

正高: そう評価して頂けるのはありがたいです(笑)。僕がなぜ聖マリアンナ医科大に医療大麻や CBD の話をしたのか、少し説明させてください。

そもそも国内で流通している CBD サプリメントは、成分的にはエピディオレックスに近いと考えらえるので、てんかん患者に劇的に効いたという話が出てきてもおかしくないと思い、気にかけていたところ、私の Facebook に、生後半年のお子さんを持つ親御さんから相談があったのです。そのお子さんは大田原症候群(てんかん症候群一つ)と診断され、一日に何十回も発作が起きていました。標準治療を全て試してみたが効果がないため、CBDオイルを試してみたいというお話でした。

CBDサプリメントは価格が高いため、てんかんの子供に内服させる場合も臨床試験で使われるほどの量は飲ませていないケースがほとんどだと思われました。なので、販売業者さんに協力してもらい、体重1kgあたり一日 18mg という、治験での投与量を服薬してもらった結果、なんと大きな発作は完全に消失して、脳波も改善が得られたのです。

この症例報告を我々がパンフレットにしたものを、ドラべ症候群の家族会の方々が横浜で行われた日本てんかん学会に持ち込み、聖マリアンナ医科大の先生の目に止まったという流れです。

秋野: それはすごい!

正高: 一つの症例報告がこのような形で繋がり、とてもよかったと思っています。今後、医療大麻の臨床応用に向けては、薬剤の研究や症例報告に加え、大麻に関する正しい知識の啓発活動も大切だろうと考えています。僕自身は研究の立場に携わるより、むしろを啓発活動を中心にやりたいと思っています。そもそも研究はてんかんや小児神経の分野などでも、すでに実績をだされている立派な研究者の方がたくさんいますから。

秋野: とても大切なことだと思います。普及啓発は医療の背景を持った人が、治験の当事者となる専門家や研究者とは別組織でなさった方が良いのです。これからは、専門家における合意形成に始まり、患者さんやそのご家族を交えた合意形成、国民に周知を続けながら、私たち立法府も交えた合意を経て、行政府に合意を働きかけると話は円滑に動くと思います。行政から積極的に動くことはありません。「困っている人がいて、その解決策にはエビデンス(根拠)もあり、それでみんながまとまるのなら、動きましょう」というスタンスです。行政が判断しやすい環境を作ることも重要です。

そもそも、国民の理解のもとに治験が進むことが望ましいわけですから、正高先生をはじめ普及啓発をしている方の役割はものすごく大きくなります。今現在も映画のイベント(『Weed the People』自主上映会 )やTシャツの制作販売(Legalize It!  )などなさってますよね。これらの取り組みで治験について理解が進むことを祈念しています。

正高: その他にも最近は、CBD に関するパンフレットを作成し、作用機序や効能、併用に注意を要する薬物や法的な扱いのことなど、知っておくべきことについて、医師の立場での注意喚起など行なっています。そういった形で緩やかな形での繋がり(アソシエーション)が形成できればと思っています。アンダーグラウンドの活動家やアーティストも、こうやって応援してくれる政治家の先生もみんなで仲良く、うまくやっていこうよ、というスタンスです。いい関係を作ってお互いに協力していた方が結局は物事が早く進むと思います。

秋野: 平成30年診療報酬改定においては、透析などの腎代替療法に関して、七つの学会と患者が公開されたシンポジウムのような場所で一つの結論をもって合意した、という経緯が改定の大きな後押しになりました。繰り返しになりますが、関係者の合意が整えば行政も判断しやすいのです。やはりお互い手を取って協力していくことはとても大切ですね。正高先生には、関係する学会で専門家と患者の合意形成へ向けて議論を主導して頂きたいと思います。

正高: 早速、日本カンナビノイド学会や日本てんかん学会などに働きかけてみたいと思います。

もう一つ質問させていただきます。今現在 CBD 製剤の治験の道が拓けたわけですが、今後 THC に関してはどうなるとお考えでしょうか? 医学的に考えれば、モルヒネが使え、コンサータ(メチルフェニデート)が使え、大麻だけが使えない、というのはとてもおかしな話だと思うのですが、秋野先生から何か言えることはありますか? さらに言うと、医療大麻を推進する人たちがもっとも気にしているのは、製剤だけではなく、カリフォルニア州のように自分たちで大麻を育てて自由に大麻を使えるようになるのか? という点です。この辺に関してはどのようにお考えでしょうか?

秋野: 3月19日の国会質疑においては、CBD や THC に触れた議論は行なっていません。あくまでも大麻由来医薬品を用いた治験を行うことができるかというやりとりだけです。

よって、今後 CBD や THC など成分を含めた議論になる可能性について、ハッキリと申し上げることはありません。しかし、正高先生が大事な指摘をなさいました。薬事承認を受けた大麻由来医薬品については国会で議論し、結論を得ましたが、薬事承認を受けていない大麻由来薬物を治験に用いることができるのかについては議論できていません。今後、国会で質疑したいと思いますので、ご指導をお願いします。

正高: 是非、国の見解を明確に質してください。期待しています。そのうえで、大麻取締法の改正についてどうお考えになりますか?

秋野: まずは、治験を成功させて、医薬品を目指さないことには次の議論もないと思っています。大麻由来医薬品の安全性と有効性を明確にする手続きが治験です。医薬品として投与する量も明確に定まっていないうちに、利用者に大麻由来の製品を提供する考えは危険です。受け入れられません。もしも結果として、医薬品医療機器等法に基づいて、我が国で医薬品として承認を受けることができたならば、大麻取締法を改正する必要性について議論は起こるでしょうが、今は一つ一つの治験を無事故でクリアしていくことが大切だと思っています。治験が成功しないことには法改正する立法主旨はないと思います。

正高: 私もそう思っています。さて、国際政治や経済との関連の話も質問させて下さい。アメリカでは昨年末に農業法の改正があり、THC が 0.3 パーセント未満の大麻の栽培に関してはトウモロコシや小麦と同じ扱いになって、たくさんの人々が簡単に大麻を栽培できるようになりました。日本に輸出されるような準備がすでに整いつつありますが、日本もそういったアメリカの動向に影響を受けるのでしょうか?

秋野: 都道府県知事が発行する大麻取扱免許には栽培免許と研究免許の2種類があります。次は、栽培に係わることですね。こちらもアメリカの法律が変わったからといって、日本の法律が変わるということはないでしょう。それぞれの国には、それぞれの国内法があります。

正高: WHO が、国際薬物条約にて提案されているスケジュール変更について国連に勧告を行いました。その勧告を受けて、国連麻薬委員会において 53か国による採決となりますが、この動きをどう考えますか。

秋野: WHO の議論を受けて、各国とも国内法との整合性を検討しているのだと思いますが、それぞれ事情は異なりますので、簡単にまとまることはないと思います。

正高: 治験にかかる時間はどのくらいになるのでしょうか?

秋野: 医薬品として薬事承認を行う時には、慎重に何段階もの手順を踏まなくてはなりません。さらに、大麻由来医薬品の治験については「限定して可能」という立場ですから、そもそも国が提出された治験計画を認めるかどうかなど、超えるべきハードルはまだまだあるかと思います。

正高: やはり小児のてんかん領域が、大麻の効果、研究が進んでいる分野だから、まずはここからしっかりと治験で結果を出していくことが大事ということですよね。

秋野: そう思います。米国 FDA が薬事承認した事実は重いとはいえ、、我が国はあくまでも「治験は限定的可能」という立場ですから、やはり一つ一つ積み重ねていくしかないのです。それでも道は開かれました。また、民意も大事で、大麻と聞くだけで不安に思われる方もいらっしゃると思います。まずは関係者が治験の成功に向けて、一つの方向を向いて力を合わせることを願っています。

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終始、丁寧かつ気さくに対応して下さった秋野先生。
より一層の御活躍を期待しております。

 

秋野公造オフィシャルサイト(http://akino-kozo.com/
インタビュアー:正高佑志(Green Zone Japan/熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)
企画・執筆:白石健二郎(https://kenjiroushiraishi.com)

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