大麻の合法化で社会に混乱は起きるか?

2021.11.09 | 大麻・CBDの科学 安全性 海外動向 | by greenzonejapan
ARTICLE
大麻の合法化で社会に混乱は起きるか?
2021.11.09 | 大麻・CBDの科学 安全性 海外動向 | by greenzonejapan

大麻の所持で若者を逮捕し未来の可能性を狭めるべきではないという意見は、少しづつですがこの国でも理解を得つつあります。一方、さらに踏み込み、大麻を合法化し積極的に活用すべきだという主張に対しては、現時点では世論の同意が得られているとは言い難い状況です。確かに依存性や精神活性がある物質を流通させることに対して、使用経験のない方が不安を抱くのは当然でしょう。しかし近年、日本に先んじて大麻を解禁した地域から、合法化が社会に与えた影響についての学術的な報告が続いています。

①大麻を合法化すると、大麻依存症は増えるか?

大麻を合法化した地域では、大麻を吸う人の数が増えることは事実です。実際にカナダで行われている国民調査では、カナダ人の27%が過去1年以内に大麻を使用したことが報告されています。

しかしそのうち、毎日使用すると回答したのは18%でした。学生の95%は大麻の使用が原因で欠席することはないと回答し、出勤・通学の直前に大麻を頻繁に使用すると答えたのは5%でした。(この中には医療目的で大麻を必要としている方が多く含まれることは解釈上、重要です。)

この数字から、カナダで大麻依存の可能性があると考えられるのは、最大でも大麻使用者の5%以下と考えられます。一方で我々が行った調査では、日本国内で大麻を使用している方々が依存症に該当する割合はおよそ8~10%でした。つまり大麻使用者のうち、依存状態に該当する割合は違法な日本より合法なカナダの方が低いと考えられるのです。この仮説を裏付けるデータとして、実際にアメリカでは大麻の規制を緩和するほど、大麻依存症に該当する患者が減ることが示されています。

日本の場合、元々の大麻使用率が低いため喫煙者が劇的に増えると、それに伴い大麻依存症の絶対数は増加する可能性は十分に考えられますが、大麻が合法的になることで、お酒や睡眠薬などから大麻へ切り替え、現在の依存状態を脱却する方が増えることが見込まれます。(実際に日本の大麻使用者にはその他の薬物から大麻に移行した方が含まれることは、我々が実施している聞き取り調査でも語られています。)そのため、この功罪を評価するには、諸々の薬物依存に加え、ギャンブル依存や買物依存の患者数、自殺者数まで含めた包括的な視点からの検討が必要となるでしょう。

②大麻を合法化すると、若者の大麻使用は増えるか?

合法化に伴い最も懸念されるのが青少年への影響です。2018年に嗜好大麻を解禁したカリフォルニア州では、カリフォルニア大学サンディエゴ校精神科のNeal Doranらにより、合法化が18-24歳の若者の大麻使用に与える影響は無視してよい程度であったと報告されています。カナダの国民調査では、合法化後の大麻使用開始年齢は平均が20.0歳となっており、これは合法化以前(2017年)の18.6歳よりも上昇しています。2021年に報告されたカルガリー大学のRebecca Haines-Saahの分析によると、合法化以前に懸念された青少年への悪影響は合法化から3年間を経た現時点で認められていないと報告されています。

未成年への影響が想定されたほどではない理由は、違法性こそが未成年にとっての大麻の最大の魅力であったことが考えられます。10代の頃にタバコを吸った経験を思い出すと納得がいくのではないでしょうか。極端な話ですが、合法化により大麻が養命酒のような扱いになることで、ファッショナブルなものではなくなるのかもしれません。

③大麻を合法化すると、大麻関連の交通事故は増えるか?

大麻の使用が一過性の運転能力の低下を引き起こすことはメタ解析でも示されています。”吸ったら乗らない”の徹底が重要であるのは間違いがありません。しかしそのことは必ずしも合法化により交通事故が増えることを意味しません。(また睡眠薬やお酒も運転能力に悪影響を与えますが合法的に使用されていることを考慮するのも重要です。)

大麻使用罪の導入を議論する有識者会議で、監視指導麻薬対策課は嗜好大麻を合法化したワシントン、コロラドの両州で交通事故死亡者数が増えたと主張しています。当該のデータに関してはアメリカでも注目が集まっており、合法化の負の側面ではないか?と取り上げたメディアが存在するのは事実です。しかしこの件について統計的な解析を行ったテキサス大学デルシートン医療センターのJason Aydelotteらは、この増加は統計学的には有意ではないと結論しています。さらに2006年から2018年の間に、交通事故で入院した患者からTHCが検出される確率を米国6州で調べたところ、その間の大麻合法化と大麻作用下の運転事故の増加には関係がないことが示されました。(この期間に大麻の影響下での交通事故件数が最も増えたのは厳罰政策を貫いたテキサス州でした。)逆に合法化地域では、吸ったら乗らない教育を徹底することで、酩酊運転の割合は低下していくことが明らかになっています。

④大麻を合法化すると、その他のより危険な違法ドラッグの使用は増えるか?

大麻がその他のハードドラッグの入り口になるという理論(ゲートウェイ仮説)は、国際的には既に説得力を失っていますが、日本では未だに広く流布している考え方です。これについても合法化後のデータは改めてNoを突きつけています。

2021年3月に報告されたフィラデルフィア・テンプル大学のJeremy Mennisの調査によると、嗜好大麻を合法化したコロラド、ワシントンの両州で若年層の麻薬(オピオイド)、覚醒剤、コカイン依存での入院件数を比較したところ、合法化前後で明らかな違いは認められなかったとのことです。その他の合法化地域でも、大麻の合法化に伴いその他の違法薬物の使用が問題となっているという報告は認められません。

カナダにおいても、合法化前は医師会や学会が懸念を表明していました。しかしそれらは杞憂であり、メリットの方が大きかったことが現時点では共通認識として確認されています。こうした背景があり、大麻の合法化は広がり続けているのです。

 

執筆:正高佑志(Green Zone Japan代表理事 医師 著書に”お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)”)



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

«
»