大麻を吸うと太る? やせる?

■ 肥満症という病気

ファッション誌の美容広告。サプリメント。健康本。
やせたいという願望は、世代を超えて女性に共通のようです。

医学的に言う肥満とは、体重 (kg) を身長 (m) で二回割った値 (BMI) が25以上の場合を指します。肥満は糖尿病、高血圧などの生活習慣病の原因となり、長期的に健康を損なう可能性があります。また自己肯定感や幸福感に直結している場合もあるでしょう。やせることで貴方の人生は大きく変わるかもしれません。

日本の女性にとって、理想のボディイメージは BMI:18 程度という報告があります。これは医学的に理想とされる 22 よりかなり細い体型です。本記事が扱うのは医学的な意味においての肥満であり、「自分は太っている」と感じている方の大半は、肥満には該当しないことを強調しておきます。)

■ 肥満症の原因と治療

肥満は、運動不足や食べ過ぎなどの生活習慣を映し出す鏡と一般的には考えられていますが、実はそれほど単純ではありません。最近の研究では、生活習慣以外にも、腸内細菌や遺伝など、様々な要素が関わっていることが明らかになっています。

太っている人は怠惰、というのは偏見で、同じ物を食べて、同じ仕事をしていても、太る人もいれば、痩せる人もいるのです。

https://toyokeizai.net/articles/-/262020?page=3
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/4/104_703/_pdf

とはいえ、体重を減らそうと思ったときに歩む道は、基本的には一つ。食事制限と運動です。

1kgの体脂肪は、約 7000 kcal にあたります。したがって、月に1kg 痩せようと思ったら、理論上は1日 250 kcal 摂取量を落とす、または消費を増やせばいいわけです。ちなみに、これは炭酸飲料 500 ml で1本分に相当します。コンビニのアイスや板チョコ一枚も、だいたい 250 kcal 以上はあります。

巷には数々のダイエット法が存在しますが、要はいかにして、このカロリーバランスを楽に是正するかという話をしているのだと思います。

ちなみに痩せ薬というのは、基本的に病院では処方されません。(サノレックスという処方薬が存在しますが、筆者は目にしたことがありません。武田が数年前にオブリーンという抗肥満薬の製造販売認可を取得しましたが、効果が乏しい事を理由に、保険適応が認められないという異常事態となり撤退しています。
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=62116

■ 大麻を吸っていると太る?

大麻には、食欲を増進させる作用があることが広く知られています。俗に「マンチー」と呼ばれますが、これは医薬品として希有、かつ優れた特性です。というのは、ガンを含む慢性疾患では、多くの場合、身体が弱るにつれて食事が喉を通らなくなるからです。これは非常に辛い症状であるにもかかわらず、現代医学には有効な手立てがありません。

一方で、嗜好品として使用する場合、「マンチー」が食べ過ぎを助長し、肥満につながるのではないかと危惧されます。(実際に大麻の受容体をブロックする薬は食欲を減らすので、やせ薬として使用されていたことがありますが、自殺が増えて回収となったのはうつ病の項で記載した通りです。)

しかし、不思議なことに、研究結果が示したのは逆の結果でした。

■ 大麻を吸っている人の方が痩せている

21世紀初頭に、アメリカで行われた二つの疫学調査のデータを解析したところ、どちらの調査においても、大麻を定期的に使用している人の方が、まったく使用しない人に比べて、肥満の人の数が 3〜4 割少ないという結果が示されたのです。

https://academic.oup.com/aje/article/174/8/929/155851

二つの独立した調査の結果はほぼ同じ値を示しており、その後の再解析研究では、大麻を吸っている人と吸っていない人を前向きに3年間追跡したところ、喫煙者の方が体重増加が少ないという結果が得られました。

また2006年に報告された CARDIA studyにおいても、大麻の使用者に肥満が少ないことが確認されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16893701?dopt=Abstract
https://academic.oup.com/ije/advance-article/doi/10.1093/ije/dyz044/5382155

更に、2014年に報告されたカナダの調査結果では、日本人と同じモンゴロイドであるイヌイットの集団でも、やはり大麻喫煙者の方が肥満の割合が低いことが報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25557382

どうやら、大麻を吸っている人の方が、吸わない人よりスリムなようです。

■ 大麻の使用は代謝を高める?

 

これまでの複数の研究で、大麻ユーザーのカロリー摂取量は、非使用者と比べて多いことが示されています。それだけではなく、大麻喫煙者は非喫煙者よりも運動量も少ないようです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11415485?dopt=Abstract
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16893701?dopt=Abstract
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28641129

食事は多く、運動は少ない。にも関わらず、やせている。一体これは、どういったことなんでしょうか?

仮説として考えられるのは、大麻が基礎代謝を活性化するということです。そして、そこには内臓脂肪から分泌される善玉ホルモン、アディポネクチンが関与していると考えられています。

かつて内臓脂肪は、単にエネルギーを蓄える貯蔵庫だと思われていましたが、近年の研究でアディポカインと呼ばれる様々なホルモンを分泌する、内分泌器官としての機能も司っていることが明らかになっています。カロリーの過剰摂取によってエネルギーを蓄え過ぎた脂肪細胞が肥大化すると、脂肪細胞は TNF-α や MCP と呼ばれる悪玉ホルモンを多く分泌するようになり、一方でアディポネクチンと呼ばれる善玉ホルモンの分泌は低下します。悪玉ホルモンは、全身に顕微鏡レベルの慢性炎症を引き起こし、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の原因となると考えられています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/54/7/54_7_480/_pdf

大麻草には抗炎症作用があり、この悪玉ホルモンによる慢性炎症を抑え、善玉ホルモンの分泌を再活性化する可能性があります。このアディポネクチンの活性化は、骨格筋の基礎代謝を上昇させることが知られています。
https://care.diabetesjournals.org/content/39/10/1777.long
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/9/105_1746/_pdf

慢性炎症が抑えられ、アディポネクチンの分泌が増え、筋肉の基礎代謝が向上することで、肥満が改善される。これは見た目の問題だけでなく、生活習慣病の予防に繋がると考えられています。実際に、大麻使用者はやせているだけでなく、II 型糖尿病の原因となるインスリン抵抗性が低かったという研究結果が得られているのです。
https://www.amjmed.com/article/S0002-9343(13)00200-3/abstract?cc=y=
https://www.ripublication.com/ijbb17/ijbbv13n1_01.pdf

■ 最後に

一言に大麻といっても、THCを多く含むものから CBD製品まで、様々なラインナップが存在します。肥満との関係も、それぞれ異なるはずです。カンナビノイドのバランスや使用法によって、代謝がどのような影響を受けるのか、今後より一層の研究が望まれます。

 

文責:正高佑志(医師)

 

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