それは医療大麻か? (1) ー小嶺麗奈さんと拒食症

2019.11.21 | 病気・症状別 | by greenzonejapan
ARTICLE
それは医療大麻か? (1) ー小嶺麗奈さんと拒食症
2019.11.21 | 病気・症状別 | by greenzonejapan

田口淳之介さん、小嶺麗奈さん、KenKenさん、JESSEさん。
10月になり、大麻で逮捕された芸能人への判決が相次いでいます。

関連報道を眺めていて、興味深いことに気がつきました。4人のうち、3人が大麻の医療用途の側面に言及しているのです。

小嶺さんと拒食症

まずは小嶺麗奈さん。報道によると、2006年に田口さんとの交際を開始して以降、ファンからの罵詈雑言を浴びせられ、うつ病、および摂食障害に罹患していたそうです。また、逮捕後に薬物依存治療プログラムの適応があるか判断するため受信した国立精神・神経神医療センターでは、依存症ではないもののパニック障害と診断され、そちらの治療を行うべきと勧められたようです。
https://jisin.jp/entertainment/entertainment-news/1756390/
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201907110000924.html

そうしたストレスから逃れるために、2009年から大麻を10年間にわたって使用し「実際に使用して、自分が抱えていた怒りや不安が解消されました」と供述しています。これは自己治療として大麻を医療目的に使用していたと主張しているようにもきこえます。

うつ病、パニック障害、摂食障害のいずれも、医療大麻の適応疾患と考えられています。この中でも、特に摂食障害は薬物療法の選択肢が乏しい病気です。

摂食障害は、拒食症と過食症を併せた疾患です。患者の90%は女性で、10〜20代の発症が多い傾向にあります。拒食症が原因で夭折したカーペンターズのカレン・カーペンターの例が示すように、最初は周囲からのちょっとした指摘をきっかけにダイエットに励むようになり、その結果として摂食障害を罹患することは珍しくないようです。私も実臨床上で経験がありますが、特に拒食症は命に関わる重篤な病です。

医療大麻と拒食症

(http://motivation.site.wesleyan.edu/spring-2017/why-can-people-with-anorexia-nervosa-bear-hunger/)

大麻が食欲を亢進させることは広く知られていますが、拒食症に関しての臨床研究は非常に限られています。アメリカでも、拒食症を適応疾患として明記する州は少数派です。しかし、ガンやAIDS/HIV感染に伴う食欲不振に対しては、医療大麻やカンナビノイド医薬品の効果は科学的に認められていますし、拒食症に関しても、有効性を報告する声は多く認められています。

拒食症(AN)に対し大麻が期待される理論的背景として、AN患者でのエンドカンナビノイド・システム(ECS)の異常が考えられています。

ベルギーのルーヴェン・カトリック大学放射線科の研究チームが2011年に報告した論文によると、PET検査の結果、拒食症患者ではCB1受容体の発現が脳全体で亢進しているという結果が得られています。この結果を研究者らは、拒食症によってエンドカンナビノイドの基礎値が低下している為に、受容体が代償性に過剰発現しているのではないかと考察しています。もしそうだとすれば、植物由来のカンナビノイドを補うことで、症状の改善が得られる可能性はあるでしょう。

また、大麻が拒食症に効くメカニズムとして、もう一つの仮説が 2014年に動物実験によって示されています。拒食症の患者さんでは、特に食事に際して喜びを感じる機能が低下しており、大麻に含まれる THC は、味覚や嗅覚を増強し ECS に働きかけることで、食べる喜びを増強するのではないかというのです。
https://www.nature.com/articles/nn.3647

大麻を使っての研究は存在しませんが、THCを用いた小規模試験では良好な結果が得られています。

2013年、デンマークの研究チームの報告では、5年以上の拒食症に苦しむ患者 25名に合成 THC(ドロナビノール)5 mg/day を投与したところ、4週間の治療でプラセボと比較して 0.73 kgの体重増加が得られたと報告されています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/eat.22173

また 2017年にイスラエルの研究チームが報告した治験では、10名の慢性拒食症患者に 1〜2 mg/day という少量の THC を投与したところ、4週間後に9名中7名で体重の増加が得られたそうです(1名は副作用で途中離脱)。

実際の数字をみてみると、一番多い患者では1か月で4.5 kgの体重増加が得られています。これだけでは長期的な作用に関してはなんとも言えませんが、少なくとも有望な結果と言えるでしょう。
https://cdn.doctorsonly.co.il/2018/05/08_The-Impact-of.pdf

とはいえ、拒食症の方に対して、医療大麻が手放しで推奨される訳ではありません。その最大の理由は、摂食障害患者には高い確率で、不安障害などのその他の精神疾患が併存しているからです。大麻に含まれるTHCは、ときに不安を増悪しバッドトリップを引き起こします。一人一人、効果には差があることが予想され、取り扱いには注意が必要です。

小嶺さんの拒食症がどの程度深刻なものだったのか、彼女の症状に対して、どのような作用があったのか、今のところ不明です。
いつか、本人の口から語られる日は来るのでしょうか?

(続く)

 

参考文献:https://www.leafly.com/news/health/medical-marijuana-for-anorexia-treatment

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

«
»