医療大麻、CBDと不眠症ー眠れぬ長い夜のために

■ 眠れない人はとても多い

貴方は最近ぐっすり眠れていますか?

日本では、成人の30%以上が入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠困難などいずれかの不眠症状に悩み、6〜10%が不眠症であるとされています。

2009年時点で睡眠薬の3か月処方率(少なくとも3か月に一回処方を受ける成人の割合)は 4.8% —つまりこの国では、大人の 20人に1人が睡眠薬を飲んでいるということです。この割合は年齢と共に上昇し、80歳以上の女性では 20% 以上が睡眠薬を使用しています。

不眠の原因は PTSD や不安障害などの精神的な原因から、がんに伴う痛み、理由がはっきりしないものまでさまざまです。いずれにせよ、不眠は生活の質や幸福感を損なうだけでなく、うつ病を始めとした精神疾患の前触れにもなります。

良質な睡眠をとることは、貴方を守ることに直結するのです。

■ 現行の不眠治療とその問題点

睡眠には、大きく二つの層が存在します。

ひとつが REM 睡眠。これは、脳は活動しており、身体が休んでいる状態です。金縛りが出現するのは、REM 睡眠の間だとされています。

もう一つが non-REM 睡眠。こちらは身体は活動しており、脳が休んでいる状態です。non-REM 睡眠は1〜4の4つのステージに分類され、ステージ 3 と 4 が熟睡感につながる深い眠りとされています。高齢者では老化に伴う生理現象として、このステージ 3 と 4 の深い睡眠が短くなります。そのために若い時のような熟睡感が得られなくなるようです。加えて、日中の活動量の低下などの生活習慣が不眠に拍車をかけます。

この問題を根本的に解決するには、生活習慣の改善こそが最も重要視されるべきです。しかし安易に睡眠薬が処方されるケースも多いようです。

睡眠薬として最も広く使用されているのが、通称「ベンゾ」と呼ばれる、ベンゾジアゼピン系およびそれに類似した系統の薬です。精神安定剤としても使用されるベンゾは切れ味の良い薬で、誰に対しても初日からある程度の効果を発揮します。そのため、日本では比較的気軽に処方される傾向がありますが、耐性がつくことによる増量と依存の形成や、特に高齢者での認知機能低下のリスクや脱抑制による不穏、筋弛緩作用による転倒増加などの問題点も指摘されています。

実際に、欧米圏ではベンゾの依存の問題は深刻に捉えられており、イギリスやオランダ、フィンランドなどでは、トリアゾラム(ハルシオン)は発売禁止措置になっています。フルニトラゼパム(サイレース、ロヒプノール)はアメリカには特別な申請無しでは持ち込めません。アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)はXANAXという商標名で販売され、レクリエーショナルドラッグとしての乱用が問題化しています。

このような海外の動向を反映してか、新薬の販売戦略の一環かは判然としませんが、ベンゾの長期処方は望ましくないとの観点から、漫然とベンゾ系睡眠薬を処方していると病院の利益が減るような制度が、本邦でも 2018年の診療報酬改定で導入されました。
https://www.medwatch.jp/?p=24669

■ 医療大麻と不眠

大麻を吸うと眠くなるというのは広く耳にする感想ですが、これも品種や摂取量によって異なり、一概には言えないようです。大麻の品種は大きくインディカ種とサティバ種に分けられますが、このうち、サティバ種は目が覚める方向に働き、インディカ種は眠くなる傾向が強いとされています。(どのような品種であっても大量に摂取した場合、催眠作用が認められます。)

大麻と睡眠の研究は1970年代に始まり一度は下火となるも、2000年代になってTHC、CBDなどの成分毎の評価が可能になった後に再度、盛り上がりを見せています。

科学的には、エンドカンナビノイドシステムが、体内時計と睡眠・冬眠などの行動の関連付けに関与している可能性が指摘されています。これは理論上、夜勤などによって体内時計が乱れることで生じる不眠に対し、医療大麻が有用である可能性を示唆します。
https://bpspubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1476-5381.2010.00790.x

実際に合法地域では、不眠に対し医療大麻は広く使用されています。2011年に報告された南カリフォルニアの二つの医療大麻クリニックに通院する 166名を対象にした後ろ向き研究では、不眠を訴える群と、訴えない群のいずれでも、入眠までにかかる時間の短縮を認めました。

図は横軸に患者番号を、縦軸にベットに入ってから眠るまでの時間(自己申告)をとっています。青が大麻を使用していないとき、黄色が大麻の使用時です。大麻を使用していないときには、長い人では寝付くのに 5時間以上かかっていますが、大麻を使用すると大半の人が15分〜30分で入眠できていることがわかります。

また使用者の 79%が睡眠の質の改善を自覚しました。(実際にその他の研究で、大麻はステージ 3、4の深い睡眠を増やすことが示されています。)

不眠の原因毎に見ていくと、カリフォルニア州の 2014年の調査で PTSD に伴う不眠に対して、大麻は広く使用されていることが判明しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3929256/#!po=45.0000

また、睡眠時無呼吸症候群に伴う不眠に対して、THC が有効かもしれないという結果も示されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3550518/

とはいえ、不眠に対する大麻使用に関しては、逆の結果を示す研究も認められています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6688758/

これは先述の通り、品種や体質、使用法によって作用が様々であることが影響していると考えられます。実際に、睡眠薬として大麻を使用することには、以下のような問題点も懸念されます。

■ 問題点

まず第一に懸念されるのは依存です。大麻は肉体依存は形成しませんが、常用者の9%程度が精神依存を形成すると報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21145178

長期の使用に伴い、耐性がついて使用量が増えることも懸念されます。

また大麻の常用者が急に大麻をやめようとすると、睡眠に支障をきたすこともあるようです。これはつまり、大麻を睡眠薬として使用する場合は結局、病院で処方される睡眠薬と同じような問題が起きる可能性があるということです。

■ 大麻とベンゾの安全性比較

それでは、大麻と睡眠薬(ベンゾ)では果たしてどちらが安全性が高いのでしょうか? この問題に関しては、イギリスで2007年と2010年に、David Nutt による調査が行われ、Lancet 誌にて報告されています。

https://www.researchgate.net/publication/6424313_Development_of_a_rational_scale_to_assess_the_harm_of_drugs_of_potential_misuse

https://www.researchgate.net/publication/285843262_Drug_harms_in_the_UK_A_multi-criterion_decision_analysis

2007年の身体的有害性に焦点を当てた評価方法では、大麻の方が安全性が高いという意見が多数派でした。

(画面左側から順に危険性が高いと判断された薬物。ベンゾは 7番目。大麻は 11番目。)

一方、2010年に行われた社会への影響などを含む、より広い視点からの評価では、ベンゾに軍配が上がりました。

(なおこの調査でも、使用者本人への被害ではベンゾの方が有害と判断されています。大麻が問題視された最大の要因は「経済コスト」でした。つまりお金がかかることが大麻使用の最大の問題ということです。イギリスのような寒冷地では栽培が屋内で行われること、流通が違法であることも影響していると思われます。)

(大麻は8番目。ベンゾは10番目。)

また2018年に BMJ open に掲載されたオーストラリアの家庭医へのアンケート調査では、大麻とベンゾ系でどちらがより安全と感じるか? という質問に、大麻の方が安全と回答した医師の方が3倍多いという結果でした。


https://bmjopen.bmj.com/content/8/7/e022101

これらの結果を参照する限り、少なくとも、大麻の安全性がベンゾジアゼピン系睡眠薬と比べ、著しく劣るということはないように思われます。

■ 睡眠とCBD

そうは言っても大麻草には抵抗感があるという意見は一般的です。今、そのような層に対して、CBD が新たな角度からのアプローチを可能にしています。

CBD単体での研究は、未だ大規模なものは行われていませんが、小規模試験では中等量以上で睡眠を促す作用がある可能性が報告されています。以下の研究では、160mgのCBDを摂取した群では、プラセボと比較し睡眠の改善を認めました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7028792

不眠の原因は千差万別ですが、CBD が PTSD に伴う睡眠障害に対して有効である可能性も示唆されています。2016年には Scot Shannon により、性的虐待によって PTSD となった10歳の少女の不安を伴う不眠に対し、CBD が著効したと報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5101100/#__ffn_sectitle

また、以下の研究では、パーキンソン病に伴うレム睡眠行動障害に対してCBDが有効である可能性が示されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24845114

 

■ まとめ

不眠症治療において薬物の果たす役割は限定的であり、漫然とした長期使用を避け、非薬物療法のサポートに限られるべきでしょう。とはいえ、薬物の助けを借りることで事態が好転する場合も、多くあります。その際には自分の症状や体質にあったものを、選択できることが重要ではないでしょうか。

医療大麻もベンゾジアゼピン系などの従来の睡眠薬と並んで、その選択肢の中に加えられることが望まれています。

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

参考文献:

睡眠に関する基礎知識
http://www.hsc-i.jp/05_chousa/doc/suimin_program/no5.pdf

日本睡眠学会診療ガイドライン2013
http://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf

Cannabis, Cannabinoids, and Sleep: a Review of the Literature
https://www.med.upenn.edu/cbti/assets/user-content/documents/s11920-017-0775-9.pdf

 

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