大麻とぜんそく、肺への影響について

大麻には様々な摂取方法が存在しますが、喫煙するのが一般的です。同じく喫煙するタバコが、呼吸器に対して悪影響を与えることが明らかになっているため、大麻も同じように、肺への負担が大きいような印象を持たれています。

しかし歴史を紐解けば、大麻は古くは喘息の治療薬として用いられており、また最新の科学的知見は、大麻とタバコの間には大きな違いがあることを教えてくれます。

■ 喘息(ぜんそく)とは

喘息とは、空気の通り道である気管支に慢性の炎症が生じ、狭窄や過敏状態となる病気です。なんらかの刺激によって、発作性の呼吸困難や咳を引き起こします。喘息を含むアレルギー性疾患の患者数は劇的に増加しており、厚生労働省によると、平成17年には国民の3人に1人が何らかのアレルギー性疾患、喘息患者は400万人とされていたのが、わずか6年後の平成23年には、国民の2人に1人がアレルギー疾患、喘息患者は 800万人と報告されています。

 


https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000111693.pdf

■ 喘息の標準治療

喘息の治療として、まず大切なのは発作を誘発する刺激を回避することです。ダニやホコリなどのアレルゲン、極端な寒暖差、タバコの煙、風邪などは気道に刺激を与え、発作を誘発することが知られています。

薬物療法は、発作が起きないように日頃から炎症を抑える「コントローラー」と、発作が起きた際に症状を緩和するための「リリーバー」に分類されます。

コントローラーの領域では過去十数年の間に、吸入ステロイドとβ刺激薬と呼ばれる薬を配合した新薬が開発され、これによって喘息関連の入院や死亡は減少しました。現代医学の恩恵と言っていいでしょう。

■ 伝統医療の中で

一方、大麻草もかつては喘息の治療薬として世界各地で使用されていました。

古くは紀元前1550年頃にエジプトで書かれたパピルスにも、その記録は残されています。日本でもかつて喘息の治療薬として利用されていた歴史がありますし、1920年代、大麻が規制される前のアメリカでも鎮咳薬として使用されていたそうです。


■ 現代医学による再発見の兆し

その後、1930年代にマリファナ課税法の導入によって大麻の医療使用は一旦、忘れ去られます。現代医学が喘息に対する大麻の有効性を科学的に「再発見」したのは 1970年代のことでした。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の呼吸器内科学教授、Dr. ドナルド・タシュキンは人工的に喘息発作を誘発させた8名の患者に2%THCの大麻とプラセボ(偽薬)を投与し比較しました。するとプラセボを使用したときは発作が収まるのに30〜60分かかりましたが、大麻を吸入した時は発作は速やかに改善しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1099949

(なおタシュキン教授は大規模な疫学調査の結果、予想に反して大麻が肺がんのリスクとならないことを発見したことでも知られています。
https://www.scientificamerican.com/article/large-study-finds-no-link/

しかし好意的な結果が示されたにも関わらず、その後、人を対象としたこの領域での臨床研究は法的規制の関係から行われていないようです。一方で、大麻の有害性を追求する研究には、惜しみなく公的資金が投入されました。しかしその結果、大麻の安全性が皮肉にも示されたことは注目に値します。

■ データが示した予想外の結果

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)が1985年から20年間、4都市で大麻またはタバコを喫煙する 5,115名を前向きに追跡した研究は、その規模や研究デザインから、大麻が肺機能に与える影響の研究の決定版と言えるでしょう。(5,000人から 20年間データを取り続けるというのは大変な労力です。)
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/1104848

当初、研究者達はタバコほどではないにせよ、大麻の喫煙は肺機能を損なうと考えていました。しかし結果は予想外のものでした。以下の図は、タバコと大麻をこれまでに吸ってきた喫煙量を横軸に、一秒率(喘息やCOPDで低下する値)を縦軸に取ったものです。

黒がタバコの喫煙者の値で、吸えば吸うほど肺機能が悪化していることがわかります。
一方、グレーが大麻の喫煙者です。こちらは一定量までは、むしろ肺機能が改善し、その後緩やかに低下しています。吸い始める前と同じ値になるのは、およそ30ジョイント・年であり、これは 365 × 300 = 10,950本の大麻タバコを生涯で吸った時点ということになります。(1万本の大麻タバコというのは相当な量です。)

また肺活量に関して、同じ評価を行ったのが以下の図です。こちらもタバコに関しては、吸えば吸うほど低下していますが、大麻に関しては、緩やかに上昇しています。

この結果を受けて、主任研究員のマーク・プレッチャーは、「通常の大麻使用の範囲で肺機能が低下する心配はない」とコメントしています。


https://m.youtube.com/watch?v=OgzoEMDM-c0#
https://www.ucsf.edu/news/2012/01/98519/marijuana-shown-be-less-damaging-lungs-tobacco

この結果の背景にあるメカニズムは、基礎研究により明らかになりつつあります。

2014年のヒトの気管支細胞を使った研究では、THCがCB1受容体に作用することで気管支が拡張することが示されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24467410

また THC が持つ抗炎症作用が、COPD や気管支喘息患者の慢性の気道炎症に治療的に働く可能性も考えられています
https://www.nature.com/articles/npjpcrm201671

つまり、大麻が含むカンナビノイドの医療作用は、タールなどの刺激性化学物質物質のもたらす害を上回ると考えられるのです。

■ CBDと喘息

CBDに関しても、動物での実験は行われています。

2015年に報告されたラットを使った研究では、CBDは喘息に関わる炎症性のサイトカインを減らす可能性が示されました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4458548/

しかしながら、6種のカンナビノイド(THC、CBD、CBG、CBC、CBDA、THCV)を投与し、気管支の拡張作用を評価した研究では、THCとTHCVだけが有効であり、CBD には有意な気管支拡張作用は認められませんでした。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25655949

現時点では、CBD が喘息に対してメリットがあるかどうかははっきりしません。

■ 大麻の呼吸器へのダメージとリスク

とはいえ、大麻は肺にとって全く無害ではありません。

大麻の煙には、カンナビノイド以外にもタールなどの多くの刺激性化学物質が含まれます。大麻が喘息発作時に「リリーバー」として機能する可能性はあるものの、一方で煙の中の刺激物質が喘息発作を誘発したり、慢性の気道炎症を引き起こす可能性も指摘されています。

大麻の喫煙者が咳、痰などの呼吸器関連症状を有する割合は、非喫煙者のおよそ2倍と考えられています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21348589?dopt=Abstract&holding=npg
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17296876?dopt=Abstract&holding=npg
https://link.springer.com/article/10.1007/s12016-017-8644-1
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9517614

もともと気道に問題を抱える方は、原則的には喫煙での大麻摂取は避けるべきでしょう。

■ まとめ

厳しい法規制の中で行われた限定的なエビデンスからも、大麻の長期使用は COPD などの重篤な肺機能障害には繋がらない事が示されています。また喘息患者にとって、大麻が発作時のリリーバーとして役立つ可能性については今後、さらに研究が行われるべきでしょう。

一方で、ICS/LABAなどの安全かつ有効な治療薬が安価に入手できる現状では、喘息単体で医療大麻の使用を推奨する妥当性は乏しいと考えられます。持病の一つとして喘息がある場合、その他の治療に対して医療大麻を使用する際に、喘息にも良い効果が期待できるかもしれません。

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

参考文献:

https://www.thegrowthop.com/cannabis-health/cannabis-medical/cannabis-and-asthma-how-good-are-cannabinoids-for-bronchial-spasms
https://www.nature.com/articles/npjpcrm201671
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2720277/

 

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