安楽死の前に医療大麻を試みるチャンスを

指一本動かない ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さん本人の依頼を受けて、致死量の薬物を投与したとして嘱託殺人の容疑で二人の医師が逮捕されました。事件を契機に、ネットでは安楽死を巡る議論が盛んに交わされています。また維新の会はこれを機に国会で安楽死制度の導入議論を始めるべきと主張しています。

私個人としては、安楽死に反対するわけではありませんが、日本でそのような制度の導入を検討するのは時期尚早ではないかと考えています。というのは、安楽死よりも医療大麻の導入が優先されるべきだからです。

安楽死に絡めて医療大麻の話をすると、「このような文脈で大麻の話を持ち出すべきではない」というお叱りのコメントを頂くことがあります。しかし、このような文脈でこそ、医療大麻の話が議論されるべきだと私は考えています。

そもそもの大原則として、医療行為は侵襲性の低いものから順に試みられるべきです。たとえば、一日安静にしていれば自然と治る病気に対して、副作用のリスクのある薬剤を使用するべきではありませんし、抗生剤の点滴で良くなる病気に手術のような侵襲の高い治療法を適用すべきではありません。

そのような侵襲性の順でいうと、安楽死という医療行為は、苦痛を取り除く手段として最も侵襲性が高いものです。(一度行った安楽死を取り消すことはできません。)ですので安楽死というのは文字通り、最後の手段ということになります。

実際に 1991年の東海大安楽死事件では、日本の裁判所は安楽死の妥当性の条件として以下の4つを示しました。

① 患者が耐え難い肉体的苦痛に苦しんでいる
② 死が避けられず、死期が迫っている
③ 肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし、ほかに代替手段がない
④ 生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示がある

さて、問題はこの3つ目の要件である、「苦痛を除去するための方法を尽くし、代替手段が無い」という要素が、現在、医療の現場で果たされているのかどうかです。

今回の患者さんが患っていた ALSは、神経難病の横綱とでもいうべき疾患ですが、医療大麻が症状や苦痛の緩和に有用であると学術的に報告されています。(詳細は以前執筆した以下のブログをご参照ください)

http://www.greenzonejapan.com/2017/10/16/gregory_carter/
http://www.greenzonejapan.com/2017/09/07/als

ほとんどの州で医療大麻が違法であった 2004年に報告された論文で既に、アンケートに答えた ALS 患者の 10%が医療大麻を使用し、痛みの緩和やうつの軽減、食欲の回復を実感していると回答しています。この数字は、その後の合法化ラッシュによって劇的に増加していると考えられます。

実際に、2017年の時点で医療大麻を認めるUS29州のうち、19の州で ALS が適応疾患に含まれています。


https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5312634/

 

私は医療大麻によって、ALS が完治するとは考えていません。症状の緩和以外にも進行速度を遅らせることは可能かもしれませんが、それでも進行を完全にストップするというのは考えづらいように思います。

ひょっとすると最も重要なことは、大麻の精神作用がもたらす意識変容ではないかと思います。現在の日本では、身体が動かなくなってまで生きている価値がないという考えは支配的なように感じられます。

大麻やその他の精神活性のある物質(DMT や LSD などの幻覚剤)は、その精神作用により物事を違った角度から見つめ直す機会を提供します。その結果として、病気の受容が進む可能性は充分に考えられます。つまり、医療大麻の最大の効用は、病気を受け入れる精神状態の形成に役立つことなのではないかということです。

平たく言うと、大麻も LSD もオピオイドも全て試した上で、それでも生きているのが苦痛で仕方がないというケースに対してのみ、安楽死を行うかどうか検討がなされるのが倫理的な手順です。そのような観点から、安楽死制度の導入より、医療大麻の解禁が先であるべきと言えます。

もちろん、難病患者の苦痛を取り除く上で重要なのは、医療大麻だけではありません。緩和ケアの診療報酬適応領域の拡大や、ロボットスーツに代表される技術開発への財源確保なども、今回の件を機に語られるべきでしょう。それらと平行し、医療大麻の解禁も同じ目線で議論されるべきです。

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

 

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