妊婦は大麻を使ってもいいの? 胎児への影響について

大麻の安全性に関する話題で、重要なトピックの一つが妊婦さんの使用についてです。是非はともかく、これだけ大麻使用が一般化している世の中では、大麻を使用している女性が妊娠するということは日常的に起きています。実際に、ピッツバーグ医科大学の研究チームが初回受診の妊婦を対象に行った調査では、尿検査の結果、25.4%で大麻使用が認められました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4864182/

基本的には妊娠が判明すると大麻使用を控える方が多いようですが、中には妊娠期間中も継続して大麻を使用する方がおられます。また、妊娠に伴う体調不良に対して、医療目的で大麻を使用する場合があります。(妊娠中のつわりや、育児のストレスに対して有効であることが経験的に知られています。)そのような状況で、生まれてくる子どもに悪影響はないのかというのは切実な問題です。

現時点で、最も懸念されているのは知的機能への影響です。近年、大麻使用が胎児の脳機能に与える影響のレビューは、相次いで執筆されています。その中には、大麻の使用が後の知的機能に軽微な影響を与える可能性を示唆するデータが存在します。
しかしそこから得られる「結論」は、政治的意図に基づいて誇張され過ぎていると、コロンビア大学の心理学教授、カール・ハート博士は主張しています。

博士によると胎児期の大麻曝露のせいで知的障害や発達障害を引き起こしたと主張する学説には、充分な妥当性がないと言うのです。これまでの、誤解を招きやすいレビュー論文への反論として彼らが発表したのが、2020年5月に Frontiers in Psychology 誌に掲載された、「これまでの研究のまとめ:胎内で大麻に曝露しても知能は低下しない」というタイトルの論文です。


https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2020.00816/full

この研究では、2017年 12月までに発表された、妊娠中の大麻使用と胎児の認知機能への影響に関する論文を Pubmed などの論文検索ツールを使って網羅的に収集し、その中から必要な情報を含む 45本の論文をまとめて解析しました。
これらの論文のほとんどは、二つの疫学調査のデータを元に書かれたものでした。
一つ目が「オタワ胎児期前向き研究(OPPS)」と呼ばれる、カナダで白人ミドルクラスを対象に 1978年から行われた胎児期の薬物曝露(タバコ、アルコール、大麻)の影響を調べる研究です。
もう一つが「母体の健康実践と小児発達研究(MHPCD)」と呼ばれる、ピッツバーグでの黒人貧困層を対象にした疫学調査です。(その他にも7つの研究から書かれた論文が解析対象となりました。ジャマイカ人を対象とした1本以外は全て北米で行われた調査でした。)これらの調査では、生まれた子どもの知的機能をそれぞれ、0歳〜22歳まで評価していました。

結果として胎児期の大麻への曝露は、ほとんどの場合、影響がありませんでした。
対象となった論文で行われた統計学的評価 1,004件のうち、正常データと比較し大麻に曝露した方が知的評価が低かったのは 3.4% でした。逆に、大麻に曝露した方が知的評価が高いケースも 0.9% 存在しました。
知的機能が基準値以下を示したデータは1本だけでした。つまり、行われた研究の 99.7% は大麻を使用しても知的機能が正常の範囲内と示しているということです。過去30年間に世界中で行われた調査を全て総括した結果、得られたのがこの結果です。

胎内での大麻への曝露は、その他の低栄養、アルコール・ニコチン曝露、親の低学歴と密接に関係しています。これまで行われてきた疫学調査のほとんどでは、これらの交絡因子を除外するための基準データとの比較が行われていなかったことが「大麻曝露=知的機能への影響」という間違った帰結を導いたと著者らは主張しています。

今回、知的機能への影響は否定的との見解が示されました。とはいえ、これは数あるリスクの中の一つに過ぎません。その他の研究では、胎内で大麻に曝露すると 375gほど小さく生まれる可能性が指摘されています。

そして医学的なリスクは、数あるリスクのうちの一種に過ぎません。日本で妊婦が大麻を使用することの最大のものは法的なリスクです。逮捕、勾留などのストレスは胎児にも良い影響とはならないでしょう。総合的に考えると、現行法下での妊婦の大麻使用はいかなる理由においてもお勧めしません。

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

コメントを残す