大麻草でがんは治せるか?

Green Zone Japan 理事の三木が昨年 Kindle版で自主出版した本をご紹介します。著者のジャスティン・カンダーは若いジャーナリストで、現在はカリフォルニア州に住み、ディスペンサリーで医療大麻製品の開発や患者のサポートをしています。本書は、これまで世界各地で行われている数々の研究結果をまとめたものです。詳しい内容については、本書から抜粋した下の<日本語出版にあたって>をご覧ください。

 

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<日本語出版にあたって>

大麻草が昔から世界各地で病気の治療に使われてきた、という事実は、さまざまな文献から明らかになっています。日本でも第2次世界大戦の前までは、「印度大麻草」と「印度大麻エキス」が鎮痛、鎮静、睡眠剤として販売されていました。ところが 1945年の終戦後、GHQ の命令によって大麻取締法が制定され、現在は、嗜好品としてはもちろん、医療用に使うことも、それどころか研究することさえ許されていません。

一方アメリカでも、大麻草は 20世紀初頭までは医薬品として使われていましたが、1937年にマリファナ課税法ができ、長い禁止の時代に入ります。そこから再び大麻草の医療目的の使用を合法化しようという動きは、1996年にカリフォルニア州で 「Proposition 215」 が住民投票により可決したのが始まりでした。それから 20年、合法化の波は静かに広がり続け、連邦法では大麻はスケジュール I のドラッグに指定されたまま、2016年9月現在、 25州とワシントンDC で医療大麻が合法化されている(*)ほか、2013年以降、CBDに限って使用が認められた州もその他に 16州 あります(ただし州によっては、限られた量の THC が許されている場合もあります)。日本とは状況が大きく違ってきているのです。

* その後合法化の動きはさらに拡大し、2017年9月現在は、医療大麻は 29州とワシントンDCで合法です。

「医療大麻が合法である」と聞くと日本人は、それはすなわち医者が大麻を処方し、病院でも使用されているということと考えがちですが、実際は違います。「合法である」というのはつまり、特定の疾患の症状改善あるいは治療のために大麻を使用しても「罪に問われない」という意味にすぎず、「管理・規制のもとに州政府によって運用されている」ということとは違うのです。そして、たとえ州法では合法であっても、連邦法で禁じられているものを医師が患者に処方することは許されません。医師は患者を診察し、大麻を医療目的で使用することを勧める推薦状を書くことができるだけで、医療大麻患者と認められた患者は、ディスペンサリーへ行って製品を買うか自分で大麻を栽培して自分の薬を手に入れなければなりません。また各州によって規則もまちまちです。つまり言うなれば、医療大麻は今でも「民間療法」なのです。

ところがその民間療法は近年、欧米を中心に、猛烈な勢いで進化し、洗練されつつあります。

1996年にカリフォルニア州で医療大麻が合法化された頃、その使用目的と言うと、がん治療に使われる化学療法に伴う吐き気を抑えたり、エイズ患者に食欲を起こさせて体力の消耗を防いだり、原因のわからない疼痛を抑えたり、また末期患者の苦痛をやわらげる、といった、「症状緩和」がほとんどでした。嗜好用に大麻を使っていた人たちが、自分たちの経験の中から大麻にこうした効果があることに気づいたのです。大々的なネガティブキャンペーンによってすっかり悪役となった大麻ですが、たしかに症状を抑える効果があるのだから必要な人には使わせてあげよう、といういわば「温情法案」が Proposition 215 であり、この法が別名「compassionate use act(人道的使用法案)」と呼ばれる所以です。なぜこの、カウンターカルチャーを象徴する嗜好品にこうした効果があるのか、その理由は明らかではありませんでした。

カリフォルニア州で医療大麻が合法化されるわずか2年前、1994年に、イスラエルのラファエル・ミシューラム博士らが、人間の体内には「エンドカンナビノイド・システム」があることを発見しました。人体には、大麻草に含まれるカンナビノイドという化合物と同じ性質を持つ内因性カンナビノイドと、それが結合して作用する受容体が存在するのです。このことがわかると、大麻が人体に影響を及ぼす、その作用機序に関する研究は新時代を迎えました。エンドカンナビノイド・システムは人体のホメオスタシスを司る重要な系であり、カンナビノイド受容体が体じゅうに存在していることを考えると、大麻にさまざまな医療効果があっても不思議ではないのです。「近代カンナビノイド研究の父」と呼ばれるミシューラム博士の功績を描いたドキュメンタリー映画『The Scientist(科学者)』にもありますが、現在、世界中で、さまざまな疾患に対してカンナビノイドがどのように作用するか、その研究が盛んに行われています。

一方、リック・シンプソンという一人のカナダ人が、大麻草全草から有効成分を抽出・濃縮したオイルで自分の皮膚がんを治し、大麻草オイルでがんが治ると主張し始めたのは 2000年代初頭のことです。医師でも研究者でもないリックにはもちろん、その作用機序などはわかりませんでした。けれども彼はそのオイルの作り方を公開し、それを試した人の中に、どうしてなのかはわからないけれど、医者がさじを投げたがんが治ってしまった、という人が続出したのです。

アメリカでは現在、大麻草全草から抽出した高濃縮のカンナビノイド・オイルは通称 “RSO (Rick Simpson Oil)” と呼ばれます。そして本書に登場する臨床例の多くは、俗に「リック・シンプソン・プロトコル」として知られる手順をベースにしていることがわかります。

エンドカンナビノイド・システムの解明が進むにつれ、大麻草オイルでがんが治るのはなぜなのかが少しずつ明らかになろうとしています。「なぜなのかはわからないけれど治ってしまった」人たちの後を追いかけるようにして、現在、猛烈な勢いで、その作用機序を解明するための研究が進んでいるのです。つまり医療大麻研究の矛先は今や、がん治療に関して言えば、「がんの苦痛をやわらげる」から「がんを治す」という第2のフェーズに移行しつつあると言えます。

リック・シンプソンが自分の経験から編み出したオイルの製造法や使用の方法も、それを作って販売することが合法的にできる地域が広がるにつれ、より洗練されています。アメリカでは連邦法による規制のせいできちんとした臨床試験はなかなか行えませんが、オイルに含まれる THCCBD の割合や用量、摂取のしかたなど、カンナビノイドを使ったがん治療の実際の事例をデータベース化しようという努力も始まっています。医師、大学や研究所がそれを行う場合もありますし、長らく「人道的使用」を支援してきた民間の医療大麻ディスペンサリーや、ケアギバーとして患者に大麻草から作った薬を提供してきた人たちの知識と経験が非常に重要で、このあたり、日本の漢方医学と重なる部分もあります。

本書は、第1章でエンドカンナビノイド・システムについて、また内因性カンナビノイドとがん治療の関係について説明したあと、第2章で、がん治療における植物性カンナビノイド、つまり大麻草の有用性に関する世界各国の研究の成果を要約しています。第1章・第2章で紹介されている 80 を超える研究論文はすべて、査読を経て医療ジャーナルに掲載されたものです。ここまではかなり専門性が高い内容なので、医師や研究者でない方には難しいと思いますが、欧米を中心に世界各地でどんな研究が行われているか、そのことを知るだけでも非常に有意義だと思います。そして第3章では、大麻草抽出物でがんが寛解した、あるいは完治した、という実在の方々の体験談をまとめています。なお、著者も結論で述べていますが、ここに集められた例はほんの一部にすぎません。

医療大麻について考えるとき、私はよく「虹」を思い起こします。虹はさまざまな神話や聖書にも登場しますが、なぜああして7色のアーチが空に浮かぶのか、その仕組みがアイザック・ニュートンによって科学的に説明されたのは 17世紀も終わりに近くなってからのことです。もちろん、科学的に説明がつかないからといって、それがそこに存在しなかったわけではありません。同様に、ひょっとしたら私たちは今、その仕組みはまだよくわからないけれど否定しようのない、「医療大麻」という名の虹を目にしているのかもしれません。

大麻草によるがん治療の研究は始まったばかりで、まだまだわからないことだらけです。だからこそ、日本の医療従事者・研究者の方々がこの世界的な潮流に乗り遅れないように、日本でもその研究が許されるべきだと思います。そして、がんを患う患者が大麻草による治療を試すという選択肢さえない日本の現状が変わるきっかけになってほしい、そういう思いでこの本を翻訳しました。私たちが、科学的に説明できないから空に虹などかかっていないことにしよう、という愚かな判断をせずにすむように、この本を読んで、大麻草に医療効果があることを一人でも多くの人が知り、その仕組みを解明すべきと考えてくださることを願ってやみません。

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