大麻合法化は自動車事故を増加させるのか?

2021.03.20 | 国内動向 大麻・CBDの科学 安全性 | by greenzonejapan
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大麻合法化は自動車事故を増加させるのか?
2021.03.20 | 国内動向 大麻・CBDの科学 安全性 | by greenzonejapan

2021 年 2月 25日に開催された第2回有識者会議では、大麻が社会にもたらす問題点の具体的な検討が行われました。厚労省からは依存症や精神疾患の増加の可能性と共に、大麻作用下の酩酊運転による自動車事故の可能性が指摘され、嗜好大麻を合法化したコロラド州やワシントン州で、合法化前後で交通事故死亡者数が増加したという資料が提出されました [1]。

果たしてこれは大麻合法化の負の側面なのでしょうか?

コロラド州とワシントン州の実際

コロラド州とワシントン州は、他州に先駆けて嗜好大麻を合法化したことでモデルケースとして注目を集める立場にあります。両州で交通事故死亡者数、特に大麻成分が検出されるケースが増加したことについてはデンバーポストなどの地元メディアも特集を組み、合法化の影響について議論しています [2]。

まず指摘しておきたいのは、合法化から3年間の交通事故死亡率は、大麻合法化を行なっていない他州と比較すると、統計学的に有意な差ではないことがテキサス大学デルシートン医療センターの研究チームによって指摘されているということです [3]。

つまり死亡事故は合法化と関係なく増える傾向にあり、見かけ上、大麻合法化が悪さをしているように感じられている可能性があります。(たとえば、スマホ運転の増加などが関与している可能性が考えられます。)

その上で合法化に伴い大麻使用による酩酊下での自動車運転が増加しているのは、確からしいようです。しかし件数の詳細を確認すると、増加したと言っても飲酒運転の 10分の 1 程度の件数で推移していることがわかります [4]。

さらに合法化地域での広義の酩酊運転の推移を見ると、大麻運転が微増するのと対照的に飲酒運転が減少傾向にあるように見えます [4]。

これは合法化によって大麻の使用率が上昇し、アルコールの使用率が低下したため、結果的に飲酒運転から大麻運転へスライドしつつある可能性が考えられます。

つまりここでも、交通事故死亡を減らす上でどうすべきかを現実的に検討するためには、お酒と大麻のどちらがより交通事故リスクを高めるのかを検討することが重要となります。

大麻と飲酒の運転への影響

大麻の作用下で自動車の運転能力が低下することはこれまでの研究で明らかにされています。有識者会議で使用された監視指導・麻薬対策課作成の資料では、WHO の文献を引用し、事故リスクが 1.3〜2.0倍高まると指摘されています [1]。

またアメリカ運輸省が行なった Drug and Alcohol Crash Risk Study では、THC(大麻)による交通事故リスクの増加は 1.25倍、さらに年齢・人種・性別などでの補正を行なった場合には 1.05倍という結果が得られています [4]。

(また持続時間に関しては、シドニー大学が行った最新の研究によると、大麻の喫煙使用の場合、摂取から4時間後には運転能力への影響は無くなったとのことです [5]。)

一方で、飲酒の影響に関しては、同じ Drug and Alcohol Crash Risk Study の報告書には、6.75倍と記載されています [4]。

さらにこれは呼気中のアルコール濃度(BrAC)が高くなるほど、リスクが高まることが明らかになっています [4]。

日本で「酒気帯び運転」となる閾値である BrAC が 0.15 の時点で 12.18倍。 「飲酒運転」になる BrAC:0.25 に至っては、高過ぎてデータがありません。(私が調べた限り、飲酒運転の閾値は一般的には BrAC:0.08 とされているようです [4]。)

つまり現在の日本の法律では、アルコールによる運転リスクの上昇は、12倍までは合法的に許容していると言えます。

また運転のリスクを高めるのは薬物だけではありません。携帯電話を使用しながらの運転はハンズフリーの通話でもリスクは4倍程度とする研究結果があります [6]。メッセージのやりとりなどのテキスト入力に関しては、更に事故リスクが高まるのは間違いないでしょう。

このように、アルコールや携帯電話による事故リスクは合法的に許容しつつ、それよりも圧倒的に安全な大麻に関しては、交通事故リスクを理由に一切の禁止を継続するのは明らかな矛盾です。

合法化に伴い “大麻運転禁止“ の啓発を

とはいえ、大麻を含む精神作用のある物質の影響下での運転は行うべきではありません。合衆国各州でも [大麻を使用しての運転」は禁止されています。実は嗜好大麻の合法化を行なった州では、大麻使用者が「大麻運転」をする割合自体は低下している、つまり、運転マナーが向上しているという学術的な報告があります [7]。これは合法化の際に「吸ったら乗らない!」という啓発キャンペーンが行われるためと筆者らは考察しています。

本邦においても大麻使用下での運転には罰則を設けた上で啓発と合法化をセットで行うことで、交通事故に関連した大きな問題は生じない可能性が高いでしょう。

参考文献:

1:https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000744309.pdf
2:https://www.denverpost.com/2017/08/25/colorado-marijuana-traffic-fatalitie
3:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28640679/
4:https://www.nhtsa.gov/sites/nhtsa.dot.gov/files/812117-drug_and_alcohol_crash_risk.pdf
5:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33258890/
6:https://www.standard.co.uk/news/transport/drivers-are-four-times-more-likely-to-crash-when-taking-phone-calls-study-shows-a4120041.html
7:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33161068/

文責:正高佑志(Green Zone Japan 代表理事。医師。日本臨床カンナビノイド学会理事。)

 

“大麻合法化は自動車事故を増加させるのか?” への3件のフィードバック

  1. LyT より:

    影響下にある状態での運転禁止については啓蒙が必要なのは間違いないですね。
    しかしナビにテレビを出力しながらの運転が容認されている国で、運転中の影響を槍玉にするのはどうかと思います。

  2. やまも より:

    下記、単位が違うのではないかな?と思われますので検討をお願いします。
    アメリカであればBAC(Blood alcohol concentration)0.08で飲酒運転とされています。
    表の値はBrAC(Breath alcohol concentration)なので換算する必要があり、おそらく0.38mg/L。

    ただし、飲酒で交通事故のリスクが上がることに違いはありません。

    >日本で「酒気帯び運転」となる閾値である BrAC が 0.15 の時点で 12.18倍。 「飲酒運転」になる BrAC:0.25 に至っては、高過ぎてデータがありません。(私が調べた限り、飲酒運転の閾値は一般的には BrAC:0.08 とされているようです [4]。)

    • greenzonejapan より:

      やまも様 コメントありがとうございます。ご指摘の通り、BACと BrACを混同していました。確認しましたところ、BACを2100倍するとBrACに換算できるようです。
      https://draegerinterlock.com/responsible-drinking/blog/what-does-bac-stand-for-and-what-is-the-difference-to-brac/
      なので、なのでUSの飲酒運転の基準は、上記の表では0.16あたりとなり日本と同じレベルに引かれていることになります。
      お酒のリスクに対して寛容だが大麻のリスクに対しては厳しいという結論に違いはありませんが、日本が国際社会と比較し飲酒運転に寛容というのは私の誤りでした。
      ご指摘ありがとうございます。

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