「大麻を使うと覚醒剤に手を出す」は本当か? ゲートウェイ仮説を否定する調査結果を報告しました

2025.07.01 | GZJ 大麻・CBDの科学 | by greenzonejapan
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「大麻を使うと覚醒剤に手を出す」は本当か? ゲートウェイ仮説を否定する調査結果を報告しました
2025.07.01 | GZJ 大麻・CBDの科学 | by greenzonejapan

一般社団法人Green Zone Japanの正高佑志、三木直子と片山宗紀、松本俊彦( 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 )、太組一朗(聖マリアンナ医科大学脳神経外科)らの合同研究チームは、2025年6月、査読付き学術誌「Neuropsychopharmacology Reports」において、日本の大麻使用者を対象にした大規模な二次解析研究の成果を発表しました。本研究は、「大麻が他の違法薬物使用の入り口になる」とするいわゆる「ゲートウェイドラッグ仮説」の日本における妥当性を検証したものであり、その前提に対して新たな科学的疑義を提示する内容となっています。

【研究の概要】
本研究は2021年1月に実施された匿名オンライン調査のデータを用い、3,900名の日本人大麻使用者の薬物使用履歴を分析したものです。SNSなどを通じて広く参加を募り、回答者の大多数(81.5%)は20代〜30代の成人男性でした。使用薬物の順序や移行パターンを可視化したところ、大麻は多くの場合「3番目」に使用されており、アルコールやタバコが使用の出発点となる傾向が明らかとなりました。加えて、大麻使用後に覚醒剤やコカインなどの違法薬物に移行する確率は低く、統計学的にも「ゲートウェイ効果」が確認されないことが示されました。

【主な研究成果】
・大麻使用者の約55%は他の違法薬物に移行していない

・大麻使用者が覚醒剤使用へと移行するオッズは0.08

・違法薬物全体に対しても移行オッズは0.78と少数派

・大麻よりも先にアルコール(96.3%)やタバコ(93.8%)を使用しているケースが圧倒的多数

【研究の意義と提言】
本研究はこれまで政策決定の根拠として扱われてきた「ゲートウェイ仮説」に対し、日本における実態と整合しない可能性を示しました。さらに、薬物使用の背景には年齢・学歴・社会的脆弱性といった社会的要因が大きく影響していることを示唆しています。2024年12月の大麻取締法改正施行により、大麻使用そのものに対しても刑事罰が科されるようになりました。本研究はこうした厳罰化政策が大麻以外の違法薬物へのアクセスリスクを逆説的に高める可能性があることに対して警鐘を鳴らすものです。

【論文情報】

掲載誌:Neuropsychopharmacology Reports(Wiley)
タイトル:Revisiting the Gateway Drug Hypothesis for Cannabis: A Secondary Analysis of a Nationwide Survey Among Community Users in Japan.
著者: 正高佑志、片山宗紀、梅村二葉、杉山岳史、三木直子、赤星栄志、岡千尋、旭雄士、松森隆史、太組一朗、村田英俊、松本俊彦
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/npr2.70033

日本語版原稿はこちらからお読みいただけます。

執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師)
経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。
研究分野:臨床カンナビノイド医学
活動: 2017年に一般社団法人Green Zone  Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。
書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン)
所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)

更新日:2025年7月1日

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