米国で合法化が進む大麻市場では、「どのくらいTHCが含まれているか」という情報が、製品ラベルに必ず記載されています。これは、医療目的の利用者が適切な用量を調整するため、また娯楽利用者が期待する効果を得るためにも欠かせません。しかしその表示は本当に正確なのでしょうか?
コロラド大学ボルダー校の研究チームが行った最新の研究(Scientific Reports誌、2025年)では、コロラド州のディスペンサリーで販売されていフラワー製品178点とコンセントレート製品(ワックス・ダブなど)99点のTHC含有量を実測し、ラベル表示と比較しました。
・主な結果
コンセントレート製品の96%はラベル表示が±15%以内で正確であった。
一方でフラワー製品の場合は56.7%のみが表示の±15%以内であった。30%は表示より多めに記載(過大表示)、13%は少なめに記載されていた(過小表示)。
実測されたTHC濃度は、どちらの製品群でも表示値より低い傾向があった。
つまりコンセントレート製品の表示は比較的信頼できるが、フラワー製品は実測値とラベルの乖離が大きいことがわかりました。
・なぜ差が出るのか?
研究チームはフラワー製品の非均質性(部位による成分差)やサンプリングの方法が、誤差の一因である可能性を指摘しています。一方、コンセントレートは製造過程で均質化されるため、測定結果が安定しやすいと考えられます。
・THC以外の成分にも注目
研究ではカンナビゲロール(CBG)という非精神作用性カンナビノイドが、CBDより多く含まれているケースが多いことも判明しました。現在、CBGは表示義務の対象外ですが、今後の規制や研究で注目される可能性があります。
・研究が示すこと
消費者や医療利用者は、特にフラワー製品のラベル表示を過信しすぎない方がよいでしょう。また規制当局は、表示の精度向上と検査体制の厳格化を検討する必要があるかもしれません。カンナビスのラベル表示は、単なる「目安」ではなく、利用者の安全や公衆衛生に直結する重要な情報です。今回の調査は、独立した検証の必要性と、ラベル精度の改善に向けた取り組みの重要性を改めて示しました。
またこの研究結果から、大麻のフラワーに処方箋医薬品としての均質性を求めることは難しいことが明らかになったと言えるでしょう。日本においても処方箋医薬品とは別に、生薬としての大麻が流通できる制度を構築することが重要だと考えられます。
参考:Giordano G, et al. Accuracy of labeled THC potency across flower and concentrate cannabis products. Scientific Reports. 2025;15:20822.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12216457/pdf/41598_2025_Article_3854.pdf
執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師) 経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。 研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。 書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン) 所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員) 更新日:2025年8月3日
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