日本と真逆?!カリフォルニア州における嗜好用大麻合法化後の使用実態 ―「Impact 64」調査から見えるもの

2025.10.11 | 安全性 海外動向 | by greenzonejapan
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日本と真逆?!カリフォルニア州における嗜好用大麻合法化後の使用実態 ―「Impact 64」調査から見えるもの
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はじめに:
2016年、カリフォルニア州では住民投票により「Proposition 64(Adult Use of Marijuana Act)」が可決され、21歳以上の成人による嗜好用大麻の使用が合法化されました。以降、同州はアメリカ国内でも最大規模の大麻市場を形成しています。
今回紹介するのは、サンディエゴ大学を中心とした研究チームが実施した「Impact 64」研究の一環で、2022年末から2023年初頭にかけて行われたオンライン調査の結果です。この調査は、カリフォルニア在住の成人約15,000人を対象に大麻使用の実態を明らかにし、特に現在の使用者(直近3か月以内に使用した人)の特徴や使用状況を詳細に分析しています。本記事では、この調査から浮かび上がったカリフォルニアの大麻事情を、統計データを交えながら紹介していきます。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40489356/

・調査方法
研究チームは「Impact 64」と名付けた多段階調査を行いました。まず専門家やユーザー、販売者へのインタビューを経て質問票を作成しました。その後、探索的な小規模調査を行い本格的な大規模調査につなげました。最終的に、15,208人がスクリーニング調査を受け、そのうち5,178人が詳細な質問票に回答しました。その内訳は以下の通りです。
・現在の使用者(過去3か月以内):4,020人
・過去に使用したことがあるが最近は使っていない人:523人
・一度も使用したことがない人:635人
このサンプルは2020年のカリフォルニア州国勢調査に基づき、年齢・性別・人種・収入層が州人口と一致するように調整されています。

・大麻の使用率と頻度
調査対象者のうち、37%が「現在使用している」と回答しました。これは同州の他の調査(直近30日間使用率:約17%)に比べて高い数字です。今回の調査は「過去3か月以内の使用」を「現在の使用」と定義したため、より広い層を含んでいると考えられます。
さらに注目すべきは使用頻度です。現在の使用者のうち:
非常に頻繁(1日複数回):38%
頻繁(週4日〜毎日):33%
時々(週3回以下):30%
つまり、使用者の半数以上が「ほぼ毎日」大麻を使用していることになります。これは米国全体の平均を上回る傾向です。

・使用者の特徴
統計分析によると、非常に頻繁に使用する人には以下の特徴が見られました。
男性の割合が高い(65%)
学歴が低め(高卒以下が多い)
年収が低い(5万ドル未満の層が多い)
若い頃から大麻を使い始めている(17歳以下での開始が多い)
一方、使用をやめた人(元使用者)は年齢層が高く、アジア系住民の割合が比較的多いという違いも示されています。

・使用される製品の種類
使用者の91%は複数の大麻製品を併用していました。主な使用形態は以下の通りです。
花(喫煙・ヴェポライザー):80%
Vape製品:66%
エディブル:61%
クリームやパッチなど:20%
飲料:15%
濃縮物(ダブなど):18%
特に「非常に頻繁に使用する人」ほど、濃縮物や花を好む傾向が強いこともわかっています。

・購入経路とライセンス意識
大麻の入手先として最も多いのはディスペンサリー(店舗)で77%、次いでデリバリーサービスが35%、友人や家族からが32%、自家栽培は12%でした。興味深いのは、購入者の94%が「自分の購入先はライセンスを持っている」と考えていた点です。実際に合法かどうかの確認は難しいものの、消費者にとって「ライセンスの有無」が重要な基準となっていることがうかがえます。

・使用場面と併用行動
大麻を使用する場所として最も多いのは自宅(93%)でした。そのほか、友人宅(31%)、パーティー(29%)、屋外(24%)、車内(22%)なども挙げられています。使用するシーンは以下のように多岐にわたります。
家での娯楽(75%)
創作活動(45%)
公共の娯楽(38%)
さらに36%はアルコールと同時に、24%はタバコと、9%は他の薬物と併用していました。

・健康への影響
使用者の多くは大麻が健康にポジティブな効果をもたらしていると回答しています。
精神的健康の改善:81%
感情面の安定:82%
身体的健康の改善:62%
集中力・頭の冴え:63%
人間関係の改善:57%
仕事のパフォーマンス向上:42%
一方で、ネガティブな影響としては「頭がぼんやりする(21%)」「やる気の低下(21%)」が挙げられました。少数ながら妄想や記憶力低下を報告する人もいました。

・医師とのコミュニケーション
現在の使用者の78%は「主治医と大麻について話すことに抵抗はない」と答えていますが、実際に医師が使用を把握しているのは66%にとどまりました。また、62%の使用者は「処方薬の代わりに大麻を使っている」と回答しており、医療現場との情報共有が不十分であることが懸念されます。

・情報源
大麻に関する情報は主にインターネット(51%)と友人・家族(50%)から得られており、医師やセラピストから情報を得ている人は1割台にすぎません。頻繁に使用する人は、ディスペンサリーの販売員(いわゆる「バドテンダー」)からの情報を重視する傾向が見られました。

・まとめと考察
本研究から、カリフォルニア州における大麻使用は以下のような特徴を持つことが明らかになりました。
・成人の約3分の1が直近3か月以内に使用している
・使用者の半数以上が毎日使っている
・製品は多様化し、喫煙・ヴェイプ・エディブルが主流
・購入先はディスペンサリーが中心で、多くが「ライセンスあり」と認識
・多くの人が精神的・感情的な健康改善を実感
・一方で、情報源は医師よりもネットや友人に依存
合法化によってアクセスは確実に広がり、日常生活における使用が定着している一方で、医療との橋渡しが不十分であるという課題も浮き彫りになっています。日本ではまだ議論の途上にある大麻政策ですが、カリフォルニアの事例は「合法化後に何が起こるのか」を知る貴重な参考材料となるでしょう。

執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師)

経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。

研究分野:臨床カンナビノイド医学

活動: 2017年に一般社団法人Green Zone  Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。

書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン)

所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)

更新日:2025年9月2日

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