「吸う」から「食べる」へ:ニューヨークの若者に広がる最新大麻スタイルとVapeScan研究

2026.01.26 | 海外動向 | by greenzonejapan
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「吸う」から「食べる」へ:ニューヨークの若者に広がる最新大麻スタイルとVapeScan研究
2026.01.26 | 海外動向 | by greenzonejapan

近年、アメリカ合衆国を中心に大麻の合法化が進み、その使用形態や社会的な受容は劇的な変化を遂げています。特に若年成人の間では、従来のような「大麻を吸う」というスタイルだけではなく、電子タバコ(Vape)やエディブル(食用大麻)など、多種多様な製品が普及しています。

本記事では、ニューヨーク(NYC)エリアの若年成人を対象とした最新の追跡調査「VapeScan研究」の結果に基づき、現在進行形の大麻使用のトレンド、製品の多様化、そして公衆衛生上の課題について、専門的な視点から詳細に解説します。

VapeScan研究とは:調査の背景と目的

VapeScan研究は、ニューヨーク市周辺に住む18歳から50歳の若年成人を対象とした、観察型縦断コホート研究です。この研究の主な目的は、電子タバコ(e-cigarette)の使用が健康、特に心肺機能に及ぼす潜在的な影響を調査することですが、同時に大麻使用の実態についても詳細なデータを収集しています。調査が行われた2021年から2024年にかけては、ニューヨーク州(2022年12月29日開始)およびニュージャージー州(2022年4月21日開始)で娯楽用大麻の合法販売が開始された時期と重なっています。この社会的な変化が若者の大麻使用パターンにどのような影響を与えているのかをリアルタイムで捉えた点が、本研究の大きな特徴です。

多様化する大麻使用のスタイル

かつて大麻といえば「燃焼させて吸う(喫煙)」ことが一般的でしたが、現代の若者の間ではその使い方は非常に多様かつ複雑になっています。VapeScan研究の第2回訪問(Visit 2)時点でのデータによれば、大麻使用者が利用している製品や摂取方法は以下の通りです:

エディブル(経口摂取製品): 51.2%
Vape(電子デバイスによる吸入): 29.0%
喫煙(従来の燃焼スタイル): 28.1%
CBD製品: 31.8%
トピカル(塗り薬などの外用剤): 3.7%

特筆すべきは、エディブル(食用)の利用率が最も高いという点です。これは、煙を吸い込むことへの抵抗感や、より手軽に、あるいは目立たずに摂取したいというニーズを反映している可能性があります。

エディブルとCBDの浸透

エディブルに関しては、過去1ヶ月間に「1〜10日」使用したと答えた人が31.5%、「10日以上」使用した人が4.5%でした。また、1回あたりの摂取量(単位用量)は、10mg以下のTHCを含む製品を利用している人が34.2%と最も多く、低用量での利用が一般的であることが伺えます。

一方、CBDについても、大麻やニコチンを吸引しない「非物質使用グループ(コントロール群)」の人々の一部が、CBDのみを使用しているケースが確認されました。CBDの摂取経路としては、経口摂取(31.9%)が最も多く、次いで外用(10.1%)、吸入(7.2%)の順となっています。

「新規使用」の増加

今回の調査で明らかになった事実の一つは、大麻使用を開始する人の割合が、使用を止める人の割合を大きく上回っているという点です。第1回訪問(Visit 1)から約12ヶ月後の第2回訪問までの変化を追跡したところ、以下の傾向が見られました:

新規開始者: 第1回時点で大麻(Vapeまたは喫煙)を使用していなかった人のうち、20.9%が第2回時点までに使用を開始していました。
使用中止者: 第1回時点で大麻を使用していた人のうち、第2回までに止めた人はわずか6.3%に留まりました。

この結果は、全米規模の調査データ(12歳以上の大麻開始率に大きな変化はないとする報告)とは異なり、ニューヨークのような合法化が進む都市部では、若者の大麻使用が急速に拡大している可能性を示唆しています。

ポリサブスタンス・ユース(複数物質の併用)の実態

現代の若者におけるもう一つの重要なキーワードが「ポリサブスタンス・ユース(多剤併用)」です。VapeScan研究では、大麻とニコチン(電子タバコ)の併用が非常に一般的であることが示されました。

ベースライン調査(Visit 1)における参加者の分類は以下の通りです:

電子タバコと大麻の両方を使用(デュアル・ユース): 33.6%
電子タバコのみを使用: 34.7%
大麻のみを使用: 4.0%
いずれも使用しない(コントロール群): 27.7%

このデータから、大麻使用者のほとんどが電子タバコ(ニコチン製品)も併用しているという実態が浮き彫りになりました。特に、両方を使用する「デュアル・ユース」群は他のグループに比べて年齢が若い(中央値25歳)傾向にありました。

教育レベルと使用傾向の相関

興味深いことに、物質使用の有無と教育レベルの間には統計的に有意な関連が見られました。 調査結果によると、「物質を使用しないグループ」は、他のグループに比べて大学院卒以上の学位を持っている割合が高く、高校卒業以下の割合が低いことが示されました(p<0.001)。一方で、大麻や電子タバコを使用するグループには、高校卒業以下や大学在学中の若者がより多く含まれていました。

 

研究の限界と今後の課題

本研究は貴重な洞察を提供していますが、いくつかの限界も存在します。 まず、この調査は電子タバコの研究のために募集されたコホートに基づいているため、ニューヨークの若者全体を完全に代表しているわけではない可能性があります。また、データは参加者の自己申告に基づいているため、情報の正確性に偏りが生じるリスク(想起バイアスなど)も考慮しなければなりません。しかしながら、大麻が世界で3番目に使用されている薬物であり、アメリカでも急速に法環境が変化している現状を鑑みれば、このような縦断的な調査は極めて重要です。

まとめ:私たちが知っておくべきこと

VapeScan研究から得られた知見をまとめると、以下の3点が重要です。

1.大麻使用は「吸う」から「食べる・Vapeする」へと多様化している。 ひとくちに「大麻」と言っても、その摂取方法によって体への影響やリスクは異なります。

2.合法化地域では使用開始率が高い。 簡単に手に入るようになったことで、これまで使用していなかった層、特に若年成人が新たに使い始める傾向が強まっています。

3.複合的な健康リスクへの理解が必要。 ニコチンとの併用や、製品に含まれる不純物など、私たちがまだ十分に理解できていない健康への影響が数多く存在します。

大麻の社会的な受容が進む一方で、その科学的な解明はまだ道半ばです。私たちは、単なる「流行」としてではなく、将来的な健康への影響を冷静に見極めるための継続的な関心を持つ必要があるでしょう。

参考文献 Cannabis products and trends in a cohort of young adults: The VapeScan longitudinal study (McGraw K. et al., 2025) Tob. Induc. Dis. 2025;23(December):194 VapeScan Study context in NYC/NJ Table 1 & Participant characteristics Results of initiation and quitting trends Discussion on types of use and health implications Comparison with national data and study limitations

執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師) 経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。 研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone  Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。 書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン) 所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員) 更新日:2026年1月27日

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