がん患者の痛み管理における革命:大麻解禁がオピオイド処方に与える影響

2026.02.28 | 海外動向 病気・症状別 | by greenzonejapan
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がん患者の痛み管理における革命:大麻解禁がオピオイド処方に与える影響
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がん治療の進歩により生存率は向上していますが、患者が直面する「痛み」という課題は依然として深刻です。進行がん患者の65%以上が痛みを経験しているという報告もあり、その管理はクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を左右する極めて重要な要素です。これまで、がん関連の痛みに対してはオピオイド鎮痛薬が標準的な治療とされてきました。しかし、近年米国で進む大麻の合法化が、このオピオイド処方の動向に大きな変化をもたらしていることが最新の研究で明らかになりました。

2025年に『JAMA Health Forum』誌で発表された研究「Cannabis Laws and Opioid Use Among Commercially Insured Patients With Cancer Diagnoses」は、医療用および娯楽用大麻の販売店(ディスペンサリー)の開設が、がん患者のオピオイド処方にどのような影響を与えたかを詳細に分析しています。本記事では、この研究結果を基に、がん医療における大麻の可能性と課題について深く掘り下げます。

研究の背景と手法:300万人規模のビッグデータ解析
この研究の最大の特徴は、その規模と精緻な分析手法にあります。
対象データ: 2007年から2020年にかけて、米国の民間医療保険に加入している18歳から64歳のがん患者、延べ年間平均305万人のデータを抽出しました。
分析手法: 「合成コントロール法(Synthetic Control Method)」という統計手法を採用しています。これは、大麻販売店が開設された州と、開設されていない州(または時期)を比較することで、政策の純粋な効果を推定する高度な手法です。
評価指標: 以下の3つの指標でオピオイド処方の変化を測定しました。
患者1万人あたりのオピオイド処方率
処方1件あたりの平均投与日数(供給日数)
患者1人あたりの平均処方件数

主要な研究結果:大麻販売店の開設とオピオイドの減少

研究の結果、医療用大麻販売店(MCD)および娯楽用大麻販売店(RCD)の開設は、すべてのオピオイド処方指標の有意な減少と関連していることが判明しました。

1. 医療用大麻(MCD)の影響:劇的な減少
医療用大麻の利用環境が整うことで、オピオイドの使用は顕著に減少しました。
処方率: 患者1万人あたり41.07件の減少(約24.15%減)。
投与日数: 1処方あたり2.54日の減少(約9.67%減)。
処方件数: 患者1人あたり0.099件の減少(約5.17%減)。

2. 娯楽用大麻(RCD)の影響:緩やかだが確実な減少
医療用だけでなく、娯楽用大麻の販売店開設もオピオイド処方の抑制に寄与していましたが、その効果は医療用よりも小さい傾向にありました。
処方率: 患者1万人あたり20.63件の減少(約11.14%減)。
投与日数: 1処方あたり1.09日の減少(約4.30%減)。
処方件数: 患者1人あたり0.097件の減少(約4.74%減)。
これらの数値は、大麻ががん関連の痛み管理においてオピオイドの代替手段となっている可能性を強く示唆しています。

属性による差はあるのか?:公平な影響
研究では、年齢、性別、人種・民族といったサブグループによる影響の差も調査されました。歴史的に、女性や人種的・民族的少数派は痛みの治療において不当な格差(過小評価や過少治療)を受けてきた背景があるためです。しかし、今回の分析では人口統計学的な属性による有意な差は見られませんでした。これは、大麻の利用可能性が高まることで、属性に関わらず多様な患者ががんの痛み管理においてオピオイドに頼らない選択肢を等しく享受している可能性を示しています。

なぜ処方が減ったのか?:考えられるメカニズム
ソースによれば、オピオイド処方が減少した背景には、以下の2つの側面が考えられます。

患者側の行動変容: オピオイドによる副作用(便秘、吐き気、依存リスクなど)を避けたい、あるいはオピオイドだけでは十分に管理できない痛みを持つ患者が、自らの意志で大麻を選択している可能性です。特に娯楽用大麻については、医師が患者の使用を把握しきれないケースもあり、患者主導の代替が進んでいることが推測されます。

医師側の行動変容: 大麻が利用可能になったことで、処方者の行動が変わった可能性も指摘されています。一部の州では処方薬監視プログラム(PDMP)を通じて医療用大麻の使用状況を把握できるため、医師が慎重になり、オピオイドの処方量を調整している可能性があります。

興味深いことに、医療用大麻の場合、単に「法律が制定された日」よりも、実際に「販売店が開設された日」以降の方がオピオイドの減少幅が大きいことが示されました。これは、単なる法的解禁よりも、物理的なアクセスのしやすさ(供給体制の確立)が患者の治療選択に直結していることを物語っています。

研究の限界と今後の課題
本研究は非常に価値のあるデータを提供していますが、いくつかの限界も示されています。

因果関係の直接的な証明: この研究は大麻販売店の「開設」とオピオイド処方の「相関」をみたものであり、個々の患者が実際に大麻を使用したかどうかを直接観察しているわけではありません。そのため、大麻の鎮痛効果そのものを評価するには、さらなる研究が必要です。

対象の限定性: 民間保険の加入者(18〜64歳)が対象であり、公的医療保険(メディケア等)の対象となる65歳以上の高齢者や、無保険者の動向は含まれていません。

他政策の干渉: オピオイドの処方制限法など、他の州レベルの政策が同時に影響を与えている可能性も否定できませんが、感度分析の結果では、これらの影響を除外しても結論は変わりませんでした。

結論:がん医療における「新しい選択肢」
本研究の結果は、大麻ががん患者の痛み管理においてオピオイドの代替薬として機能している実態を浮き彫りにしました。オピオイドの過剰処方や依存が社会問題となる中で、大麻という選択肢が加わることは、患者にとってより個別化された、副作用の少ない痛み管理を実現する一助となるかもしれません。
もちろん、医療における大麻の使用にはまだ議論の余地があり、その有効性と安全性を科学的に確立するための長期的な研究が不可欠です。しかし、今回の「販売店が開設されるとオピオイド処方が減る」という明確なデータは、今後のがん治療ガイドラインや政策立案において無視できない重要な示唆を与えています。
がん患者が「痛み」から解放され、より自分らしい生活を送るための手段として、大麻がどのような役割を果たしていくのか。今後もこの分野の研究から目が離せません。

出典: Lozano-Rojas F, Bethel V, Gupta S, et al. Cannabis Laws and Opioid Use Among Commercially Insured Patients With Cancer Diagnoses. JAMA Health Forum. 2025;6(10):e253512.

執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師) 経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。 研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone  Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。 書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン) 所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員) 更新日:2026年1月27日

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