THC と CBD の黄金比は存在するか?

皆さんは『Weed the People — 大麻が救う命の物語』という映画はもうご覧になったでしょうか? 医療大麻でがんを治療する子どもたちを追ったこのドキュメンタリー映画では、盛んに THC と CBD の割合が話題になります。

病気や症状によって、適切な THC:CBD 比はさまざまであると専門家は考えていますが、今回はその仮説を裏付けるような論文を紹介します。


8月6日に「症状毎の THC と CBD の効果の違い」という論文が、ノースカロライナのデューク大学から報告されました。

著者のディヴィット・カサレッド先生は、以前にTED talkで、なぜ人々が医療大麻を求めるのかについての素晴らしいトークを披露しています。

 

カナダの医療大麻患者を対象としたこの研究には、「Strainprint」というアプリが使用されています。(日本では残念ながらダウンロードできません。)

このアプリは、医療大麻の使用者にとって日記のような役割を果たします。使用している製品と生産者(カナダで医療大麻製品として販売され、アプリに登録されている商品のみ対象)、摂取量、自分が治療している症状、症状の改善具合などを記録すると、同じ症状に対して大麻を使用している人のデータを参照することができます。

このアプリを通して集積された 895,512件のデータから、(1) 神経痛、不眠、うつ、PTSDのフラッシュバック、食欲低下、不安という6つの症状に対して (2) 検査によりTHC:CBD含有量が測定済みの製剤を (3) ベポライザーで摂取したケースだけを抽出し、分析しました。

結果、2,431人の合計 26,180件の医療大麻の使用データが得られました。以下がその結果になります。

 

それぞれの症状を、患者さんは大麻の使用前、使用後に0〜10までの 11段階で評価しています。たとえば「神経痛」に関しては平均して、使用前 6.14点だったのが使用後には 3.45点になりました。2.69点の改善です。改善率は42%になります。おおむね、痛みが半減したと言えるでしょう。同じようにして「食欲不振」は 77%、「PTSDのフラッシュバック」は 78%、「不眠」が 71%、「不安症状」が66%、「うつ症状」が 61%改善されました。

大麻を一服すると、平均して不安が 2/3 に減るというのは劇的な医療効果と言っていいのではないかと思います。

またこの結果を、大麻使用の前後で 3点以上症状が改善したケースを「有効」と判定し、摂取した大麻の THC:CBD 比毎にわけて、有効率がどう変化するか解析しました。

その結果が、以下の表になります。

 

 

たとえば、6本ある線のうち、一番下のラインは神経痛に関するデータを示しています。横軸上で一番左の0%とは、THC:CBD=0:10、つまりCBDだけを含有する大麻製剤を使用した患者さんのうち、痛みが 3点以上改善した人の割合が 20%弱だったことを示しています。

この線は右肩上がりになっており、50%つまり THC:CBD = 1:1 の製剤を使用した患者さんでは、およそ 40%の患者さんが、100%つまり THC:CBD = 10:0 の製剤を使用した患者さんでは 50%の患者さんが、痛みの充分な改善を得たことがわかります。

このデータによると、神経痛、不眠、うつに関しては THC が多い方が効果が高まる傾向があり、フラッシュバックと食欲低下に関しては THC の割合と症状改善は大きな影響がありませんでした。

また不安に関しては、THC:CBD が 1:1 が最も効果が高いという結果が得られました。

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この研究の最大の問題点は、全てが患者さんの自己申告に基づいていることです。診断名も、症状の改善度も、患者さん自分でアプリに打ち込んだデータを信用するしかありません。「うつである」と答えた人が客観的にみて「うつ」であったかどうかは、確認しようがないのです。

理想を言えば、前向きの RCT というデザインで評価を行うべきでしょうが、時間と費用や法的な問題で不可能なため、このような後ろ向きコホート研究で評価するのが、現時点での限界と思われます。

またそれぞれの症状の原因についての詳細な情報がないことも問題です。たとえば、「食欲不振」の患者さんの中には、末期がんの人もいれば、拒食症の人もいると思われますが、この研究ではそれらを区別せず、一緒に解析しています。

また THC の精神作用によって多幸的になることで、プラセボ効果がかかる可能性も筆者により指摘されています。

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この研究結果から言えることは、まず、この研究で得られた症状の改善効果は劇的であるということです。選択バイアスやプラセボ効果による影響を含めた結果ではありますが、今回の調査に参加した患者群においては、標準的な抗うつ薬や神経痛の治療薬と比べた場合に、医療大麻の有効性は劣ることはないように思われます。

そして重要なのは、症状毎に適切な THC:CBD の割合は異なるということでしょう。一言にラーメンと言ってもあらゆる形態があるように、医療大麻にも様々なバリエーションがあります。神経痛に対する理想的なレシピと、不安障害に対する理想的なレシピは異なることが、このように示されたことは非常に重要な意義があるでしょう。

そして、現時点では THC:CBD の割合だけが注目されていますが、理論上は、CBG、CBDA、CBN などのその他のカンナビノイド、そしてリナロール、βカリオフィレンなどのテロペノイドの含有量のバランスも、薬効に影響を与えると考えられます。さらに言うなら、Aさんの不安に対する理想的なレシピと、Bさんの不安に対する理想的なレシピも違うはずです。

幾多の品種の中から、貴方にとっての理想的な株との出逢いを探していく。この世界のどこかで、きっと貴方の症状にジャストフィットする品種が待っている。それこそが、医療大麻が持つ希望なのだと、私は思います。

 

文責:正高佑志(医師)

2 Replies to “THC と CBD の黄金比は存在するか?”

  1. 正高さんに乾杯。敬意に値します。

  2. 賛同いたします。

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