合法化によって減る「大麻使用障害」を考える

大麻は日本人が考えているよりも安全という話を、これまで何度かしてきました。しかし、全く副作用がないのか?と問われれば、そうではありません。大麻に関連する健康被害として、精神科の病名一覧である DSMーV には「大麻使用障害=Cannabis use disorder」という病名が載っています。これはアルコール使用障害と並列の概念で、大麻の使用に伴って起きる問題を包括する疾患概念です。

診断基準は以下の項目のうち2つ以上を満たすこととされています。

A:意図したより大量、または長期間に使用してしまう
B:使用をやめようとするけれど上手くいかない
C:大麻を入手、使用するため、復帰するために多くの時間を費やす
D:大麻への強い渇望がある
E:大麻の使用が原因で仕事や生活に支障が出る
F:社会的、対人的な問題が生じて悪化しているにも関わらず使用を続ける
G:大麻のため、他の活動が疎かになる
H:物理的に危険な状況でも大麻を継続的に使用する
I:大麻によって健康被害が出ているとわかっても使用を続ける
J:極端な耐性がついてくる
K:離脱症状が出現する

ご存知のとおり、海外では大麻の合法化が加速しています。そうすると、大麻使用障害の患者も増えるのではないかという懸念があります。

このことに関して、コロンビア大学の公衆衛生大学院の研究チームによる「大麻州法の改正と大麻使用、大麻使用障害の関係性 2004〜2012年:大麻規制の未来」という論文を紹介します。


https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S095539591830272X

舞台はアメリカ合衆国です。アメリカは州ごとに大麻規制の状況が異なり、カリフォルニア州のように極めて寛容な地域から、未だに厳罰を課す州までさまざまです。この研究では各州を (1) リベラル (2) 中間 (3) 保守的のいずれかに分類し、グループ毎の大麻使用率と大麻使用障害の罹患率を比較しました。

すると、保守的な州と比べると、リベラルな州では大麻使用が多いことが明らかになりました。それ自体は予想通りです。意外だったのは、大麻使用者が多いリベラルな州の方が、大麻使用障害と診断される人は少なかったのです。これは一体、どういうことでしょうか?

大麻使用障害の診断基準をもう一度見て頂くと、なぜこういう現象が起きたかは推し量ることができます。例えばBは、「やめようとするけれど上手くいかない」という項目です。合法化するとやめないといけない理由が減ります。Fの「対人問題が生じても大麻を使用し続ける」という項目も、違法行為をやめろ!という軋轢がなくなるので、合法化に伴い低下することが想像できます。Cの「入手、使用するための時間」も合法化すると少なくなるでしょう。Dの「強い渇望」も、いつでも欲求が満たされる状況では発生しづらいはずです。Eの「大麻が原因での生活や仕事の支障」というのも、最大の問題は逮捕だと、日本の現状を見てもご理解頂けると思います。このように、合法化することで、大麻使用障害の診断基準のおよそ半分は、問題ではなくなってしまうのです。

この現象をさらに深く理解するには、病気とは何かを考える必要があります。たとえばお酒を飲み過ぎると、記憶が飛んだり、翌日も嘔気や頭痛が出現します。これは二日酔いと呼ばれ、病気とはみなされていません。それでは仮に、同じ症状が謎の白い錠剤を飲まされて起きた症状だったら、心配になって病院に駆け込む人も出てくるでしょう。すると、これは病気とみなされるでしょう。

大麻を違法な薬物と考える人の目には、大麻使用による一過性の被害妄想は、「大麻精神病」という病気に見えます。一方で、大麻を嗜好品の一種と考える人にとっては、ちょっとした「バッドトリップ」にすぎません。人々の意識が変わることで、リベラルな州では、大麻で起きる些細な問題はお酒で言うところの悪酔いの範疇と考えられるようになっているのかもしれません。

このように大麻使用障害の診断は絶対的なものではなく、社会背景を大きく反映する病気と言えるのです。

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

 

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