多発性硬化症と医療大麻、痙性+症候群という新たな概念について

多発性硬化症という病気

多発性硬化症(MS)は脳や脊髄などの中枢神経が、原因不明の炎症によってダメージを受け、さまざまな症状が出現する病気で、再発と寛解を繰り返すのが一般的です。日本では特定疾患に指定される程度には珍しいのですが、緯度が高い国(欧州北部や北米)では罹患率の高い病気です。

多発性硬化症の症状と治療

MSに対しては、この20年間で病気の進行を予防する薬(Disease Modifying Therapy)が開発されました。その結果、患者さんの寿命は延びた一方で、何らかの障害を抱えて生きていく方が増えたのも事実です。障害は生活の質(QOL)に大きな影響を与えますが、生活の質をどうやって高めるか? というのはあまり陽の当たらない分野です。

実際に、MS は以下のような様々な症状を引き起こします。

知覚変化、疲労、認知機能低下、痛み、視力障害、脳幹障害(ふらつき、めまい、吐き気、複視など)運動機能障害(痙性、運動失調、ふるえ、筋力低下など)、精神症状(不安、うつなど)、消化器症状、膀胱機能障害、不眠、発作的症状(けいれんなど)

現時点では、それぞれの症状に対してそれぞれの治療薬が処方されます。結果的に患者さんの薬の種類は増えていきます。多剤内服は、専門用語で「ポリファーマシー」と呼ばれ、さまざまな弊害を引き起こします。例えば、ある症状に対する薬が、別の症状を増悪させることがあります。実際に、痙性に対するバクロフェンは勃起障害を誘発し、疲労感に処方されるアマンタジンは性欲の減退を引き起こすことが知られています。

痙性と医療大麻、サティベックス

数ある症状の中で「痙性」はメジャーな障害の一つです。痙性とは筋肉が過剰に興奮した状態が続く麻痺の一種です。MS の患者さんでは、罹患年数と共に頻度と重症度が増悪していきます。実際に、英米の調査では MS 患者の 84%が何らかの痙性を抱えていると報告されています。痙性が出現すると動作が困難になるだけでなく痛みを伴い、生活の質に大きく影響が出ます。実際に「患者さんが何とかしたい症状」の上位にランクされています。

この痙性に対して、医療大麻が果たす役割が大きいことは科学的に証明されています。

GW 製薬が製造販売している THC:CBD = 1:1 の医薬品、サティベックスは、2010年に英国で承認されたのを皮切りに、欧州約30カ国で、MSの痙性に対する治療薬として認可され、病院で処方されています。

サティベックスがもたらした「痙性+症候群」という疾患概念

サティベックスが広く使用されるようになった今日、「痙性+症候群」という新たな疾患概念が提唱されるようになっています。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7090019/

痙性を和らげる目的でサティベックスを用いた治験では、痙性以外に痛み、不眠、排尿障害の改善が得られました。CAMS と呼ばれる大規模研究では失禁に対して著しい効果が確認されました(排尿障害も MS 患者の 75% が抱える重要な問題です)。

これらの症状はこれまでは別個に扱われていましたが、どれも中枢神経の脳幹〜運動野にかけての障害が原因で引き起こされ、相互に関連しています。サティベックスという単一の治療薬が効果を示すこれらの症状を「痙性+症候群」として、一括りにして扱おうというアイデアが上記の論文では提唱されています。

痙性を引き起こす病気は MS だけではありません。同じく痙性を伴う脳梗塞の後遺症、事故での脊髄損傷や HTLV-1 関連脊髄症(HAM)でも今後、医療大麻・カンナビノイド医薬品の有効性が検証されていくでしょう。

医療大麻がもたらす「疾患概念」の変化

重要なことは、サティベックスという治療法の出現が、「痙性+症候群」という新しい疾患概念を生み出したという点です。

現代において新しい病気は、疾患→治療の順でなく、治療→疾患概念の順で誕生します。医療大麻という治療手段が広まることによって、今後、他にもいくつもの疾患概念が認知されていくでしょう。その中でも最も重要なものが、エンドカンナビノイド欠乏症候群です。
https://www.youtube.com/watch?v=DHHBSiePwi8&t=5s

実は貴方の身近なところにも患者さんはいるのかもしれません。

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

 

 

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