医療大麻看護師 リサ・ブキャナンに訊く

2017.11.19 | GZJ | by greenzonejapan
ARTICLE
医療大麻看護師 リサ・ブキャナンに訊く
2017.11.19 | GZJ | by greenzonejapan

 

医師とともに、医療の現場にはなくてはならない看護師。患者に近いところで彼らの声を聞き、患者やその家族のニーズを一番よく理解し、彼らの気持ちに寄り添えるのは、看護師という立場の人たちかもしれません。医療大麻の合法化と普及に看護師が果たす役割は大きい、と来日したイーサン・ルッソ博士もおっしゃっていました。今回は、ワシントン州の認定看護師であり、医療大麻の使い方を患者に指導しているリサ・ブキャナンさんにお話を伺いました。

GREEN ZONE JAPAN(以下 GZJ):まず、あなたのお仕事について聞かせてください。

Lisa Buchanan(以下 LB):「クオリティ・オブ・ライフ」を高めるのが私の仕事です。私は公認看護師になって 25年になりますが、同時にアメリカに3万人ほどいるがん看護専門看護師の一人でもあります。がん看護専門看護師になるには専門の資格試験に合格し、最低5年間、病院またはクリニックでがん患者の看護の経験が必要です。

私は以前からカンナビスには興味を持っていました。というのも、私が看護師になって間もない頃、患者の多くが嗜好目的で大麻を吸っていて、医療効果があると彼らから聞いていたからです。それと、腫瘍を専門とする整形外科で働いたことがあって、背中や膝や腰の関節の手術を受ける人がたくさんいたし、軟部組織の肉腫の患者とかもいたんですが、患者の一人に、自分がカンナビスを使っていて、それが痛みを抑えるのに役立っているということをとても堂々と公言する人がいたんです。その人は背骨に腫瘍があって——ものすごく痛いのよ——、何度も手術を受け、化学療法も受けていたんだけど、カンナビスが痛みの軽減に役立つと言うのね。すごい、と思いました。それで私の大麻を見る目が変わったんです。他にも、ステロイド系の薬を飲んで興奮して眠れない患者で、大麻を吸うと眠れると言う人もいました。

大麻の医療利用についてもっと情報が欲しいと言ったら、その患者にヘンプフェストに行くように勧められて。行ってみたら、素晴らしい人たちと知り合えたんです。大麻を栽培している人、本を書いている人、制度を変えようとしている人…。びっくりしたわ。そしてたくさんのことを学んだの。それから自分でも勉強を始めました。

私はがん患者に化学療法を行うクリニックで働いていたんだけど、そこの治療は強烈で、4日間続けて抗がん剤を投与するんです。ひどい吐き気が伴うのよ。そこの患者も多くの人がこっそり大麻を使っていました。建物の外に出て大麻を吸うわけ。私が「あなた、大麻の匂いがプンプンよ」と言うと、「わかってるけど、吐き気が治まるんだ」って言うんです。その頃、合成 THC のマリノールが処方されていたんだけど、大麻を吸うほどは効かないの。それがどうしてだったのか今はわかるけど——つまり、THC 100% でしょう? CBD とか CBN とか、他のカンナビノイドは含まれないし、テルペンも一切含んでいないわけだから。マリノールを処方された患者は、やっぱり化学療法の間は大麻草を使っていたわ、それで吐き気と痛みが緩和されるわけですからね。こうして私は患者からすごく色々教えてもらって、もっと知りたくなったんです。

そこの仕事を辞めた後、肺がんと、頭部・頸部のがんの外来患者を看護するようになりました。肺がんなのに大麻を喫煙するなんて、と言う人がいるけど、大麻の喫煙は肺がんの原因にはならないのよ。それに大麻は吸いすぎて死ぬということが絶対になくて、安全なんです。そこは大事なところよね、安全だから、誰でも色々試して自分に合うものを見つけることができるんです。私は看護師だから、その点にとても興奮するの。だって患者は色々な意味で自分の治療のしかたを選べないでしょう? 病気になって、たくさんのことがあっという間に起こって、自分では何もコントロールできない。でも大麻は自分で色々試して自分に効くものを見つけられる。自分で自分の症状をコントロールできるというのはとても励ましになり、力が湧きます。それによって、生活の質を低下させている医薬品の摂取量を減らせるとなればなおさらね。

大麻草は誰にでも合うわけではないかもしれないけど、興味を持ってもらえるのは嬉しいし、それで効果があれば私はとても幸せです。

GZJ: それから病院勤めを辞めて独立したそうですね?

LB: そう、Paisley Nursing Group という自分の会社を作って、医療大麻についての教育をメインにしています。患者で医療大麻とその効果に関心があっても、誰に相談していいかわからない人が多いんです。私が患者に医療大麻について話すときは、他の処方薬と同じように、作用発現時間とか、作用の仕方とか、作用持続時間とか、摂取方法などについて説明します。

摂取方法は重要です。どういう道具を使えるか、症状に合うのはどういう方法か、どういう気分になりたいかなどによって変わってきますからね。選択肢がたくさんあるのは良いことだわ。

GZJ: 具体的にはどういうふうにするんでしょう? 看護を担当している患者がいるということですか?

LB: 私は直接看護をするわけではなくて、使い方を教えるだけです。患者はクリニックからの紹介で私のところに送られて来ます。しっかりしたリサーチで得られるエビデンスにもとづいた医療大麻の話を聞くためにね。そういう患者から連絡があると、まず会って1〜2時間話をします。

GZJ: 患者は自分の症状をあなたに説明して、あなたがアドバイスするわけですね?

LB: ええ、どんな製品が市場にあるか、それぞれの製品がどんなふうに働くかを説明したり、最新のリサーチ結果を紹介したり。たとえば一番最近の、食欲に関する研究の結果によると、2.5 mg 程度のごく微量の THC が食欲増進には一番効くということがわかっています。つまり食欲を増進するには大麻をたくさん摂る必要はなくて、ほんの少しでいいんです——摂りすぎると逆に食欲を失うのよ、一般的に言われていることと違ってね。

それから CBD。精神作用がないから CBD を摂りたがる人が多いけど、CBD と THC は効能が異なるし、CBD は THC と一緒に摂ったほうが効果があります。でも THC はネガティブなイメージが強いから、そのことをなかなか受け入れられない人がいるんです、ハイになるのが怖いのよね。

GZJ: でも THC の精神作用に対しては耐性がつくのでは?

LB: ええ。ビールと同じです。初めてのときはすぐに酔っぱらうけど、慣れてくればそんなに酔わなくなるでしょう?

GZJ: あなたは大麻ショップでも働いているんですね?

LB: ええ、医療大麻コンサルタントとして Dockside Cannabis で働いています。Dockside は医療大麻患者のコープ[訳注:生協。医療大麻患者が互いに薬を提供し合う互助組織]として始まったお店で、製品のクオリティコントロールにはとても厳しいの。殺虫剤が使われている製品は扱わないし、製品はひとつ残らず検査済みです。カンナビノイドでは THC と CBD の含有量は必ず表記しないといけないし、先見の明がある会社は最近ではテルペンの含有量も表記しています。テルペンが多く含まれていればアントラージュ効果も高いし、消費者にとっては歓迎ね。

DSC04206.JPG

お客の中に80代の女性がいるんだけど、ひどい関節炎で、自分では服を着たり食事をすることもできなかったんです。その人がご主人に連れられて店に来て、初めて大麻を使ってみたのね。THC と CBD が含まれた軟膏を手に塗ったら、ほんの数分で痛みが取れて…。二人とも嬉しくて泣いていました。動かせなかった指が動かせるようになったんだもの。それと一緒に、不安神経症のためにベープペンも買って、その日から使っているけれど、とても気分が良いと言っているわ。そういうのを見ると本当に嬉しくなりますね。

大麻が合法だとは言っても、それは病院で処方してもらえるという意味ではないから、患者はショップで自分に合う製品を見つけなければなりません。そういうときに、私のように看護師資格のある者や、医療大麻コンサルタントのアドバイスが役に立つんです。どんな製品があって、どんな成分で、どういうふうに使えばいいのか、それに、探している通りの割合の成分を含んだ製品がなければ、どれとどれを組み合わせて摂ればいいかがわかっていますから。

お客はよく、以前買った製品のパッケージを持ってきて、これはあまり効かなかったんだけど、他に何を試したらいいだろうかと訊きます。これは素晴らしかったから、同じ効果のあるものが欲しい、という場合もあります。乾燥大麻の場合、大麻草は農作物だから、いつも必ず同じ品種の製品が店頭にあるとは限らないんだけど、たとえばあるお客が気に入っている品種に含まれているテルペンがわかれば、それに近いものを探してあげることもできます。だから、経験豊富なコンサルタントやバッドテンダー[訳注:Budtender。大麻ショップの、製品に詳しい店員のこと]が店にいることが大事ね。

ワシントン州のように、医療大麻と嗜好大麻がどちらも合法化されている州では、21歳以上であれば誰でも、身分証明書があれば店に入ることができます。海外からの旅行客ならパスポートね。誰がいつ来店したとかそういう記録は一切残りません。気軽に入ってどんな製品があるのか見てみるといいと思うわ、思ったほど怖いところじゃないってわかるから(笑)。

GZJ: 医療大麻を買いに来る客と嗜好大麻を買いに来る客はどう違いますか? どちらのお客の方が多い?

LB: あえて言うなら、医療大麻を買いに来る人の方が多いかしら。一番多い症状は、疼痛、ストレス、不眠、不安感。それと食欲増進ですね。ただ、大麻は大麻であって、作用が違うわけではないから、それが医療大麻なのか嗜好大麻なのかは使う人の意図次第だと思います。とにかくハイになりたくて THC の含有量が最高のものを欲しがる人もいるし、リラックスしたい、よく眠れるようになりたいという目的で大麻を使う人がいれば、たとえ医師の許可がなくてもそれは医療利用だと私は思うの。もちろん、ハイになるのがいけないことだとは思いません、お酒を飲んで酔うのと変わらないもの。大麻に対してネガティブなイメージを抱くのはもう古いと思います。

ただし、医者から大麻使用の許可を受けている医療大麻患者の場合は税金が安くなるのと、一度に買える量が嗜好大麻の3倍なのは違う点ですね、医療大麻患者は嗜好目的で使う場合より多くのカンナビノイドを必要とする場合がありますから。それと、医療大麻患者のデータベースに登録していれば[訳注:ワシントン州では医療患者データベースへの登録は任意]、医者の指示によって6株から15株の大麻の栽培も許されています。登録していない場合は4株まで。大麻を規制する法律は州によって違うから、詳細は norml.org が参考になります。

いつも思うのは、大麻に対するネガティブな印象、思い込みが邪魔をして病気の早い段階で大麻を試さない人がいるのは残念だということ。試していたら生活の質が向上したかもしれないのに。重病で、他に手立てがなくなって必死で大麻に辿り着く人が多いですね。たとえばツェルベルガー症候群のマディもそういう一人です。

マディは未熟児で生まれたの。30週くらいだったかしら。退院して、はじめはお乳が飲めなくて、栄養チューブを使っていたんだけれど、その後、1歳になった直後にてんかん発作が始まって。次から次へと発作が起きて、生活の質どころではなくて、薬も効かないし、医者は、もうできることは何もない、とホスピスケアを勧めたんです。でも母親のメーガンはそれを受け入れられなくて、インターネットでてんかん発作のことを調べ始め、医療大麻に救われた子どもたちがいることを知ったのね。そしてマディにも大麻を使い始めたんです。

マディは生まれつき目が見えず耳も聞こえないんだけど、てんかん発作が始まる前は手振りで会話ができたんです。でも発作が始まってからはそれができなくなってしまったの。医療大麻を使い始めたとき、最初は CBD だけだったのね。ある程度の効果はあったけれど、そのうち効果が頭打ちになってしまって。それで THC を加えたらものすごい効果があったんです。手振りもまたできるようになったし、今は THC でてんかん発作が抑えられているの、本当に驚きです。マディの病気が遺伝的なものなのか、エンドカンナビノイドシステムの不全のせいなのか、マディは、そして私たちの誰もが脳の健康のためにカンナビスを摂るべきなのか——答えはわからないけれど、これはとても興味深いケースで、マディの一家からは学ぶことが多いと思います。母親のメーガンは素晴らしい活動家です。(リサがマディについて書いた記事はここで読めます。)

GZJ: マディは今いくつ?

LB: 11月で5歳です。ツェルベルガー症候群はとても稀な病気で、ほとんどの場合、生後6ヶ月までに死んでしまうのよ。マディは今、肝臓に問題があるんだけど、でも元気です。カンナビスでつながるコミュニティがマディの一家を支えています、薬を寄付したりしてね。それがなければおそらく経済的に厳しいと思うし、ある特定の品質の薬を安定して手に入れるのは現在の制度ではなかなか難しいですからね。

私はとにかく、みんなに大麻を試してみてほしいと思っているんです。自分の症状に効き目があるかどうかね。

GZJ: 医者に紹介されてあなたのところに来る患者の教育の他にはどんな活動を?

LB: 年に何回かはカンファレンスで講演をしたり、Cannabis Nurse という雑誌に記事を書いたりしています。それと、私は American Cannabis Nurse Association のメンバーでもあるんだけど、この団体は、エビデンスベースの知識と経験に基づいてカンナビスを使って患者を介護する看護師を、がん看護専門看護師と同様の専門資格として確立しようとしています。看護師として医療大麻を使う際の、14ページにわたる詳細なガイドラインがあるんですよ。

GZJ: 連邦政府レベルで医療大麻が合法化されることは将来あり得ると思いますか?

LB: そうなるといいと思います。アメリカには医療保険がない人が多いし、オピオイド系の薬でたくさんの人が死んでいきます。大麻は色々な症状に効いて、副作用がなくて安全で、何よりも大切なのは、生活の質が向上するということ。それなのに、試してはいけないという理由がないでしょう?

GZJ: 理性的に考えればそうですよね。

大麻合法化の敵は、アルコール、タバコ、そして医薬品業界なんです。大麻を庭で育てたり簡単に手に入れることができると薬が売れなくなるから。大麻の医療効果についてはまだ研究が始まったばかりですが、研究が進むにつれて、今分かっている以上のさまざまな効果が明らかになると思っています。

 

“医療大麻看護師 リサ・ブキャナンに訊く” への4件のフィードバック

  1. 上野 誠也 より:

    とても良い記事で思わず夢中で最後まで読んでしまいました。

    嗜好、医療両方のリアルな現状をわかりやすく伝えられていて、大麻に対して否定的な方々に是非読んで貰いたいと感じました。

    ここ日本でも、1日でも早く、せめて議論だけでもされる日が来ることを切に願います。

    • greenzonejapan より:

      お読みいただきありがとうございます。こんなに素晴らしい薬草があるのがわかっているのに、研究さえ許されない日本の現状は本当に残念ですね。

  2. Dub Hammer より:

    新しい情報ありがとうございます。ジャマイカの子どもたちに絵の書き方寺子屋をやりながら日本をどうにかこうにか目標まで盛っていきたいです。

  3. 竹ノ下望 より:

    日本も看護師が医療大麻やCBDについて情報を発信していくようになると良いですよね。私も看護師です。お医者さんの話や海外の話を噛み砕いて、簡単な看護師目線での話。できるといいな~、まだまだ勉強が必要ですが(-_-;)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

«
»