偏頭痛と医療大麻・CBD

偏頭痛とは

偏頭痛は、典型的には脈打つような頭痛発作を繰り返す病気です。10代から20代で発症することが多く、緊張性頭痛に次いでメジャーな頭痛で、日本国内に 840万人程度の患者さんがいるとされています。頭痛以外にも、吐き気や光過敏、音過敏などの症状を伴うことがあり、程度や頻度はさまざまですが、生活に大きな影響を与えます。

偏頭痛のメカニズムとしては、脳血管の急激な拡張や三叉神経の炎症などの関与が考えられていますが(三叉神経血管説)、確定的なことは未だにはっきりしないようです。

治療としては市販の頭痛薬やロキソニンのほかに、脳血管の過度な拡張を抑制するトリプタン製剤と呼ばれる一連の処方薬が、いわゆる特効薬として処方されています。あまりに頻度が高い場合は、発作を予防するためにカルシウム拮抗薬や抗てんかん薬、β遮断薬などが処方される場合もあります。

また現在、この領域で注目を集めている新薬が、CGRP関連製剤です。

https://answers.ten-navi.com/pharmanews/18078/

三叉神経から放出される、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)と呼ばれる化学物質は CGRP 受容体と結合することで血管を拡張させ、炎症を引き起こすとされており、偏頭痛発作のメカニズムにおける重要な調節因子と考えられています。この CGRP 自体に結合する分子標的治療薬や、CGRP受容体をブロックする薬が現在、世界中で競って製品化されています。日本でも近日中に販売開始となる見込みです。

偏頭痛とエンドカンナビノイドシステム(ECS)

そもそも、偏頭痛はエンドカンナビノイドの不足によって引き起こされている病態なのではないかと示唆する研究結果が報告されています。

2007年、イタリアのペルージャ大学の研究チームが大変興味深い報告を行いました。


https://www.nature.com/articles/1301246

偏頭痛患者と健常者を集め、髄液中に含まれる化学物質の量を比較したところ、偏頭痛患者では内因性カンナビノイドの一種であるアナンダミド(AEA)が少なく、CGRP が有意に多かったのです。

また AEA と CGRP の値には、負の相関が認められました。

これらの結果から、AEA が何らかの理由で足りなくなることが CGRP の増加を招き、偏頭痛を引き起こしているのではないか?という仮説が成り立ちます。

これらの研究結果から着想を得たイーサン・ルッソ博士は 2008年、エンドカンナビノイド欠乏症候群(CECD)という疾患概念を学術的に提唱し、偏頭痛は線維筋痛症、過敏性腸症候群と並んで、内因性カンナビノイド不足によって引き起こされる疾患の代表格ではないかと論じられています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5576607/

偏頭痛が起きる分子レベルのメカニズムは非常に複雑ですが、内因性カンナビノイドおよび大麻由来のカンナビノイドは様々な経路で作用すると考えられています。

免疫細胞の一種である肥満細胞の発痛物質放出を抑制すること、TRPV1(痛みの受容体)の活性を阻害し、先述した CGRP の放出を抑制すること、また神経中枢にてグルタミン酸の放出を抑制することなどが考えられています。(詳しくは以下のリンクを御一読ください)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5928495/

偏頭痛と医療大麻

もしも偏頭痛が内因性カンナビノイドの欠乏によって引き起こされるなら、体外から大麻由来のカンナビノイドを補うことで治療するのは非常に理にかなった治療戦略と言えるでしょう。実際に、海外では偏頭痛に対する大麻使用は代替医療としては一般化しているようです。ドイツ、オーストリア、スイスで行われたアンケート調査では医療大麻使用者の 10.2% が偏頭痛に対して使用していると回答しました。

医療大麻は偏頭痛発作時の鎮痛薬としても、また発作頻度を低下させる予防薬としても有用であるようです。実際に過去1年で、この領域における学術報告が各国の研究チームから続々と成果が届きつつあります。

2019年11月にワシントン州立大学心理学部の Carrie Cuttler らは「頭痛と偏頭痛に対する大麻の短期および長期効果」と題した論文を『Journal of Pain』にて報告しました。
https://www.jpain.org/article/S1526-5900(19)30848-X/fulltext

彼らは「Strainprint」という医療大麻の記録&情報収集用のアプリ上で集められた、頭痛に対して大麻を使用した前後の痛み記録(頭痛に対して 12,293回、うち偏頭痛に対して 7,441回の大麻使用)を分析し、効果についての評価を行いました。(Strainprint は、以前紹介した研究でも使用されていました。)

すると、頭痛に対して大麻を使用した場合の 89.9%、偏頭痛に対して使用した場合の 88.1% で痛みの軽減が得られていたことが判明しました。

また痛みの程度としては、平均すると使用前の 50%程度に軽減していることが明らかになりました。

さらに詳しい分析の結果、鎮痛効果は男性の方が高く、花穂を喫煙するよりも濃縮した製剤(ワックスなど)を使用した方がより効果が高いことが判明しています。一方で、使用を継続するにつれて耐性が生じることも指摘されました。

なお、この研究では THC や CBD の含有比率による効果の違いについては明らかになりませんでした。

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2020年7月にはニューメキシコ大学の経済学部と心理学部の研究チームが「頭痛&偏頭痛に対する大麻草の鎮痛効果」と題する論文を、『Journal of Integrative Medicine』に発表しています。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2095496420300741?via%3Dihub

この研究では 2016年6月から 2019年2月までに、Releaf というアプリを使用し、頭痛に対する医療大麻の効果を記録した 699名が調査対象となりました。

偏頭痛に関しては、582回の大麻使用の記録が認められ、使用者の 94%が2時間以内に痛みの改善を自覚しました。痛みの程度は、大麻使用前は 6.44点/10点だったものが、大麻使用によって平均 3.3点/10点の鎮痛効果が得られました。(鎮痛効果がおよそ 50%程度という点で、先述の研究と同じ結果を示しています。)

また女性よりも男性で、そして 35歳以下の患者でより効果が高かったという結果でした。品種としては THC を 10%以上含むもの、またインディカ系に分類される大麻の方が鎮痛効果が高く、この傾向は特に女性と若年層で明らかでした。

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アメリカ合衆国だけではありません。イスラエルのトップ大学であるテクニオン・イスラエル工科大学の生物学者 Joshua Aviram らは、新たなカンナビノイドが重要な役割を果たしている可能性を指摘しています。

https://hemp.im/israeli-study-cannabis-alleviate-migraines/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7348860/#!po=32.3529

この研究では、偏頭痛の治療目的に大麻を使用した患者に対して質問票が配られ、大麻使用前の1か月間にあった発作回数と大麻使用後の発作回数を比較しました。発作の回数が半分以下に減った患者を「奏功者」、それ以外を「不応者」に分類したところ、全体の 61%が奏功者に分類されました。

効いた患者と効かなかった患者の間にどのような違いがあるのかを分析してみたところ、大麻の使用量(月に30g)、使用頻度(1日5回)などに関しては違いがありませんでした。

ここで筆者らが着目したのが品種の違い、およびそこに含まれるカンナビノイドの違いでした。患者達が使用した大麻の品種の成分分析を行ったところ、THC や CBD といったメジャーなカンナビノイドに関しては明らかな違いはありませんでした。けれども、著効した患者の品種からは未だ正式な名前を持たない「ms_373_15c」と呼ばれるカンナビノイドが多く検出され、効果が乏しかった患者の側からは「ms_331_18d」と呼ばれるカンナビノイドが多く見つかったのです。

これらは、カンナビノイドの中でも 0.28% と 0.11% を占める極めてマイナーなカンナビノイドですが、我々が未だ解明していないメカニズムで偏頭痛に対して薬効を発揮している可能性が期待されています。

CBDは偏頭痛に効くか?

CBD に関しても、偏頭痛に有効である可能性が指摘されています。

CBD は TRPV2 を刺激することで、偏頭痛の主要なメディエーターである CGRP の放出を抑制する事が基礎研究の結果、明らかにされています。
https://www.jneurosci.org/content/28/24/6231

また CBD はエンドカンナビノイド分解酵素である FAAH の活性を低下させる事が知られていますが、これも鎮痛のメカニズムとして注目されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5928495/

現時点では、人を対象とした学術報告は確認できませんでしたが、care by design というカリフォルニア州のカンナビス企業が 2015年に施行した調査では、CBD を豊富に含む大麻は偏頭痛・頭痛患者の生活の質(QOL)を著しく改善させたと報告されています。
https://www.projectcbd.org/sites/projectcbd/files/downloads/cbdpatientsurvey_september2015_carebydesign-6.pdf

新薬Aimovigとの比較

ここまでさまざまな研究報告の結果から、大麻が偏頭痛に対して効果があるのは間違いがないように思われます。次の疑問は、これが現在、巷を騒がせている処方箋薬と比べて、どれくらいの効果があるのかという点です。

冒頭で紹介した CGRP関連製剤のうち、先陣を切った Aimovig の数字を見てみましょう。添付文書上では 70 mgと 140 mgという二つの用量が用意されています。

70mg を使用した場合、発作が半減するのは43%、140 mgで50%とのことです。

https://www.aimovighcp.com/clinical-data/#reduction-in-monthly-migraine-days

研究デザインが異なるので単純比較はできませんが、この数字は、先ほどのイスラエルの報告で、61%が発作半減を達成していたのと比べて低い値になります。

ちなみに、Aimovig の気になるお値段ですが、欧米では年間の薬価が 70万円程度のようです。英国の診療ガイドライン NICE は、「コストパフォーマンスが悪い」という理由で非推奨としています。
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=68205

日本では現状、偏頭痛患者さんの多くは、医者に相談するよりもドラッグストアで薬を買って対応しているようです。患者のことを第一に考えた時に、高額な処方箋新薬と薬草、どちらが承認されるべきなのか、皆さんにも一度考えて頂ければ幸いです。

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

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