子宮内膜症と医療大麻

2022.02.15 | 大麻・CBDの科学 病気・症状別 | by greenzonejapan
ARTICLE
子宮内膜症と医療大麻
2022.02.15 | 大麻・CBDの科学 病気・症状別 | by greenzonejapan

○子宮内膜症とは
子宮内膜の組織が本来あるべき子宮の内側以外の場所で発育する疾患が子宮内膜症です。20~30代の女性で発症することが多く、生殖年齢層にある女性の5~11%が本性に罹患していると考えられています。代表的な症状は痛みで、中でも月経痛は患者の90%に認められます。また不妊の原因にもなり、妊娠希望のある内膜症患者の30%に不妊が伴うと考えられています。その他にも、倦怠感、性交痛、排尿時痛などの様々な症状をもたらし、不安や抑うつの合併率も高いことが知られています。
標準的な治療としてはホルモン剤や鎮痛薬が使用され、病巣部位がはっきりしている場合には手術も考慮されます。

近年の研究により、子宮内膜症患者にはエンドカンナビノイド・システム(ECS)の不調が存在することが示されており、ECSは治療のターゲットとして注目を集めています。実際に合法地域では、多くの内膜症患者が医療大麻を使用しています。
Pubmedを用いて“子宮内膜症、大麻“で検索すると、2017年以降の13本の論文がヒットします。残念ながら現時点で、前向きの臨床試験結果は報告されていませんが、実際に大麻やCBDを使用する子宮内膜症患者さんを対象とした横断研究は複数認められています。

○研究をリードするのはシドニーのチーム
実臨床についての最初の報告はウエスト・シドニー大学の研究者たちによる2017年のオーストラリアでの子宮内膜症患者484名を対象とした、セルフ・マネジメントに関する調査でした。アンケートの結果、患者が内膜症の症状を自己治療するために使用する手段の一つとして、大麻は活用されていることが明らかになりました。実際にセルフケアを行なった患者のうち、13%が大麻を選択していました。
ユーザーの主観では、大麻はその他の治療(温熱、食事変化、呼吸法、瞑想、安静)と比較し最も有効な鎮痛手段と評価されました。使用者の56%がその他の鎮痛薬を減らすことができたと回答しています。また睡眠や嘔気嘔吐に対しても効果があったことが報告されました。

この研究チームからはさらに、2021年10月にさらに詳しい調査結果を発表しました。彼らは”ストレインプリント”というアプリ上で集積されたデータを利用しました。(これはスマートフォンに無料でダウンロードできるアプリで、ユーザーは使用開始時に年齢、性別、病名、症状などの基本情報を入力します。その後、ユーザーは大麻を使用する毎に、自分が使用する品種や量、使用前後の症状の自己評価(0~10点)を入力します。これらの一連の入力されたデータはオンライン上に集積され、大麻の使用による症状の変化が評価可能となるという仕組みです。)
アプリのユーザーで、子宮内膜症に対して大麻を使用していると申告したのは全部で252名で、合計の使用回数は16187セッションでした。症状としては痛みに対しての使用が最も多く、最も改善が認められたのは消化器症状でした。痛みに対しては喫煙での摂取が有効であり、精神的な症状や消化器症状に対しては経口摂取が効果的との結果が得られました。

同じ研究チームはニュージーランドでも、子宮内膜症に対する調査を行い結果を報告しています。
こちらでは大麻使用経験のある内膜症患者213名がネット調査に回答し、80%が現在も大麻を使用していました。患者の81%が痛みが劇的に改善し、79%が良く眠れるようになったと報告しています。患者の80%が処方薬を減量することができ、60%が完全に止めることができました。

このように、多くの患者が大麻の恩恵に預かっているにも関わらず、社会的な制度は現状に追いついていないことも指摘されています。彼らの行なった調査の結果、オーストラリアの内膜症患者で大麻を使用している者の72%、ニュージーランド人の88%が違法に入手した大麻を使用していることが明らかになったのです。
オーストラリアにおいては、大麻の単純所持は“自転車の二人乗り“のような軽犯罪であるという違いはあるものの、設立された医療大麻制度が有効に機能していないことが浮き彫りになる結果です。

○アメリカの報告
オセアニア以外では、2020年にはアメリカの名門病院、メイヨークリニックの研究チームも報告をあげています。
彼らは下腹部痛を主訴に産婦人科外来に通う女性240名にアンケートを行い、回答者の23%が大麻使用を告白しました。
大麻の使用者のうち、96%のユーザーが痛み、不安、鬱、不眠イライラなどの症状緩和を自覚し、40%近くのユーザーが病院への電話・受診が減ったと回答しています。

○CBDと子宮内膜症
CBD単体については、2022年1月時点では人を対象とした介入研究および横断調査の結果は報告されていません。
2020年8月にアメリカでの治験登録が1件行われていますが、患者のリクルートは始まっていないようです。

○まとめ
子宮内膜症の痛みに対して、医療大麻は広く活用されていますが、学術的なドキュメンテーションが始まったのはこの5年のことです。今後、有効性が改めて示されることが期待されます。

執筆:正高佑志(Green Zone Japan代表理事・医師)

“子宮内膜症と医療大麻” への1件のコメント

  1. 門馬登喜大 より:

    参考になりました。
    あありがとうございます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

«
»