フルスペクトラム・ブロードスペクトラム・アイソレートの違いとアントラージュ効果について

2023.09.21 | 大麻・CBDの科学 | by greenzonejapan
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フルスペクトラム・ブロードスペクトラム・アイソレートの違いとアントラージュ効果について
2023.09.21 | 大麻・CBDの科学 | by greenzonejapan

2023年8月30日に新たにTHCVが指定薬物として規制される方針となったことが大きな波紋を呼んでいます。この成分はブロードスペクトラムCBD製品の含有成分として一般的であり、現時点で国内流通している製品にも微量に含有されているためです。今回は含有成分によるCBD製品の分類と、微量成分の意義について解説します。

○アイソレート・フルスペクトラム・ブロードスペクトラムという分類

そもそも大麻草にはCBDやTHC以外にも様々な薬効成分が含有されています。CBD優位の大麻草品種(例:シャーロッツ・ウェブなど)をそのまま丸ごと抽出したオイルには、CBD以外の成分も含まれることになります。この“天然生搾り“製品はフルスペクトラムオイルと呼ばれます。一方で数多の成分のうち、CBDだけを精製したものはアイソレートと呼ばれます。フルスペクトラムとアイソレートの関係は、天然塩と精製塩、もしくは玄米と白米の関係と似ています。
フルスペクトラムオイルには、ある種の面倒がついて回ります。それがTHC問題です。THC自体にも薬効があるのは間違いないものの、多くの国や地域で法的な制限を受けることになるため、流通が難しくなるのです。
そこでフルスペクトラムオイルからTHCだけを除去した製品が登場するようになりました。これはフルスペクトラム製品と区別するためにブロードスペクトラムと呼ばれます。例えるなら、ブロードスペクトラムは七分付き米のようなものかもしれません。

(注:本来はフルスペクトラムオイルからTHCを“引き算“した製品がブロードスペクトラムオイルだったのですが、CBDアイソレートにその他の微量成分を何種類か“足し算“した製品もブロードスペクトラム製品として販売されているのが実際です)

○アイソレートとフルスペクトラムでは何が違うのか?

CBDを含むカンナビノイドは単体でも薬理作用が認められますが、その他のカンナビノイドやテルペン(香り成分)にもそれぞれ薬効が存在しますさらに様々な成分を併用することによって、薬効は1+1=3になる事が知られています。いわゆるシナジー効果ですが、これをカンナビノイド領域ではアントラージュ効果と呼びます。
そもそも、1980年代に大麻由来の精製化合物を処方箋医薬品として開発しようという試みが盛んに行われました。しかしそのほとんどは失敗に終わります。単離させた大麻由来成分は、大麻草をそのまま使用した際のような薬効を示すことができなかったのです。ここから植物由来の成分を、丸ごと使用する事が重要という教訓が導かれました。(そうして開発されたのが天然大麻草由来のSativex、Epidiolexでした)
これはアイドルグループに似ています。グループ内で最も人気のあるメンバーがソロとして独立し売り出されることはしばしばありますが、残念ながらグループでの活躍を超えることは稀です。メンバー間の相互作用こそが、相互のポテンシャルを引き出す鍵なのです。

○アントラージュ効果の効果と研究

フルスペクトラムCBD製品を治療に用いることによる具体的なメリットの一つ目が、アイソレートでは得られない治療効果です。
例えばてんかんに関して、イギリスの医療大麻データベースを解析したところ、CBDアイソレートで発作が抑制できた患者さんの割合は31.6%であったのに対して、THCを含有するCBDオイルでは94.1%の患者さんで発作抑制が得られました。

二つ目のメリットは必要量の軽減です。CBDアイソレートであるEpidiolexの長期オープンラベル試験結果では、患者は平均して24 mg/kg/dayのCBDを摂取していました。一方で、フルスペクトラムCBD製品であるシャーロッツウェブのCBDオイルを使用する団体、Realm of Caringの報告では、ユーザーの平均CBD使用量は2mg/kg/dayでした。二つを単純比較することはできませんが、必要な用量に関して大きな差があることは間違いない印象です。
その他にも近年の動物実験にて、THC:0.2%を含有するCBD製品は、CBDの生体内利用率が10-20%高いことが示されています。

そして三つ目のメリットは用量調整が安易になることです。これまでの研究によって、CBDアイソレートの抗炎症作用に関してはベルカーブ曲線を取る(=過ぎたるは及ばざるが如し)一方で、フルスペクトラムCBDに関しては、用量依存性に効果が高まることが2015年にヘブライ大学の研究者らによって報告されています。

○法改正と今後の影響

現在検討されている大麻取締法の改正後には、部位規制が成分規制に変更されることで、今より多彩なブロードスペクトラム/フルスペクトラムCBD製品の利用が可能となる見込みです。しかしここでTHCVなどのレアカンナビノイドが指定薬物として規制されると、THC以外の成分での足枷が増えることとなります。これはユーザーにとってはデメリットでしかありません。天然由来の微量成分に関して、厚生労働省・監視指導麻薬対策課が寛容な姿勢を示してくれることを切に願っています。

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)

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