■ コロナ後遺症とは?
コロナ後遺症(別名:ロングCOVID、post-COVID-19症候群)とは、新型コロナウイルスに感染した人の中で急性期(発症から約1か月)を過ぎた後も、体調不良や不快な症状が長期間続く状態を指します。世界保健機関(WHO)は、「コロナ感染後3か月以内に始まり、2か月以上続く症状で、他の病気では説明がつかないもの」と定義しています。
■ コロナ後遺症の疫学、一般的な症状と治療法
コロナ感染者の約10〜30%に後遺症が見られるとする報告が多く、重症患者だけでなく軽症・無症状だった人にも起こり得ます。特に女性、40〜60代、基礎疾患のある人に多い傾向があります。コロナ後遺症は多臓器にまたがる多彩な症状が認められるのが特徴です。主なものは以下の通りです:ブレインフォグ(集中力・記憶力の低下)、頭痛、抑うつ、不安、睡眠障害 、息切れ、咳、胸の痛み、慢性的な疲労、筋肉痛、倦怠感、 動悸、血圧の変動、めまい、起立性低血圧、心拍の不整など
現在、コロナ後遺症に対する特効薬は存在せず、それぞれの症状に対する対症療法が中心となります。このような状況において、CBDなどのカンナビノイド製品にはコロナ後遺症の治療薬として活用できるのではないかという期待が寄せられています。
■ カンナビノイド医療がコロナ後遺症に対して有効であると予想された理由
コロナ後遺症の主な症状(疲労、不眠、不安、痛み、抑うつ、認知障害など)は、すでにCBDなどのカンナビノイドで治療実績がある症状と重なります。またコロナ後遺症の一因は感染後に遷延する慢性的な炎症や免疫の過剰反応と考えられています。CBDには抗炎症作用や免疫調整作用があることが動物実験や細胞レベルの研究で示されているため、これらの病態に対して投与してみる価値があると考えられたようです。またコロナ後遺症では、自律神経の乱れ(心拍の異常、めまいなど)がよく見られます。CBDは自律神経系のバランスを整える可能性があり、この点も期待が寄せられた一因と言えそうです。さらにCBDは高用量の臨床試験でも重大な副作用が少ないとされており、慢性的な症状に長期間使いやすいという利点も理由の一つに挙げられます。
今回紹介するのはイギリスで実施された臨床試験になります。 論文は2024年に British Journal of Clinical Pharmacologyという学術誌に掲載されました。著者のHannah Thurgurらは英国に本拠を置く非営利の独立科学団体であるDrug Scienceに所属しています。この団体は著名な薬理学者であるナット博士により2010年に設立され、薬物政策に関する科学的・実証的な情報を提供することを目的としています。
■研究概要
試験に参加したのは、コロナ後遺症と診断された12人(女性11人、男性1人、平均年齢45歳)でした。研究チームは、「MediCabilis」というブランドのフルスペクトラムCBDオイルを1日最大3mLまで、約5か月間に渡って飲んでもらいました。
主要評価項目として、この試験では、以下のような点を毎月評価しました。
・疲労、不安、抑うつ、睡眠の質、痛み、生活の質(QOL)などの自己報告
・Fitbit(活動量計)による睡眠や心拍の変化
調査の結果、重篤な副作用は一切報告されず参加者全員が試験期間を通じてCBD製品を使用し続けることができました。ユーザーの自己報告によると、3〜4か月目あたりで不安や抑うつ、睡眠の改善傾向が見られました。またCBD製品の使用をやめた後、一部の症状が再び悪化する参加者が認められました。(ただし、本調査は対照群(薬を使わないグループ)との比較がなかったため「CBDのおかげでよくなった」と断定はできません。)
■今回の研究の意義と限界
今回の調査はCBDを使ったコロナ後遺症患者の臨床試験としては初めてのものでした。CBD製品の副作用が少なく治療を継続しやすいことが確認された点は初期の臨床試験としては十分な成果と考えられます。一方で課題としては参加者が12名と少ないことやプラセボ対象群が設定されていないこと、参加者の大半が白人女性であり他の人種や年齢層に本結果が当てはまるかどうかは慎重になる必要があります。
フルスペクトラムCBD製品は、日本では麻薬に該当するため医療使用への制約が難しい状況が続いていますが、世界では着実に研究と実用化が進んでいます。コロナ後遺症のように治療法が少ない症状に対して、CBDが新しい選択肢となる可能性ある、そんな一歩がこの研究から示されました。今後、より一層の研究が行われることが期待されます。
更新日:2025年6月16日
執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師) 経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。 研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。 書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン) 所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)
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