「高齢者の大麻使用は認知機能を損なわない:最新研究が示す『安全な利用』の可能性」

2026.04.12 | 安全性 | by greenzonejapan
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「高齢者の大麻使用は認知機能を損なわない:最新研究が示す『安全な利用』の可能性」
2026.04.12 | 安全性 | by greenzonejapan

近年、北米を中心に65歳以上の高齢者による大麻使用がかつてない勢いで増加しています。かつての「若者の文化」というイメージは過去のものとなり、現在では痛みや睡眠障害、気分の改善などを目的とした「医療的」な利用が主流となっています。
しかし、私たちの脳が加齢に伴い変化していく中で、大麻が認知機能にどのような影響を及ぼすのかについては、まだ十分に解明されていません。多くの研究は若年層を対象としており、高齢者の脳に対する影響は「空白地帯」となっていたのです。
2025年に発表されたミシガン大学の研究(Mulhauserら)は、この重要な課題に光を当てました。540名の高齢者を対象としたこの調査から見えてきた、大麻使用と認知機能の複雑な関係について解説します。

なぜ今、高齢者の大麻使用が注目されているのか?

統計によると、北米の高齢者の約2〜7%が過去1か月以内に大麻を使用したと回答しており、2019年のデータでは大麻利用者の27%が「初めて使用した高齢者」でした。また、高齢の使用者のうち約75%が、痛み、睡眠、気分の管理などの医療目的で使用しています。
大麻が脳に与える「急性」の影響(注意力の低下、学習・記憶の障害など)は以前から知られていますが、これらは通常、使用を控えてから3週間以内に回復するとされています。しかし、長期的な使用や、特に脳の発達期(25歳以下)からの使用、あるいは「大麻使用障害(CUD)」を伴う重度な使用者の場合、認知機能に悪影響が残る可能性も指摘されてきました。
高齢者の場合、老化による脳の変化や認知症のリスクがあるため、大麻が「毒」になるのか、あるいは一部で期待されているように「薬(神経保護)」になるのかを知ることは極めて重要です。

研究の全貌:どのように調査されたのか?

ミシガン大学の研究チームは、「ミシガン・アルツハイマー病センター(MADC)」のデータバンクから540名の高齢者(平均年齢72.5歳)のデータを抽出しました。この研究の最大の特徴は、単なるアンケートだけでなく、「包括的な神経心理学的検査」を行っている点にあります。以下の5つのドメイン(領域)で認知機能が評価されました。

処理速度・遂行機能(情報の処理スピードや計画性)
視覚構成(図形の模写や記憶)
注意力(数字の暗唱など)
言語(言葉の流暢さや物の名前の想起)
記憶(物語の内容を即座に、あるいは時間を置いて思い出す能力)

また、参加者は「正常な認知機能」「軽度認知障害(MCI)」「認知症」の連続的なスペクトラム上にあり、多様な認知的健康状態をカバーしています。

驚きの結果:低頻度の使用は「認知機能を損なわない」?

研究の結果、非常に興味深い事実が明らかになりました。過去6か月間に大麻を使用した経験のある高齢者(全体の約11%)と、全く使用していない高齢者を比較したところ、上述した5つの認知機能ドメインすべてにおいて、有意な差は見られませんでした
年齢、性別、人種、教育歴、抑うつ症状、そして全体的な認知レベル(MoCAスコア)を考慮した統計的分析(傾向スコアマッチングなど)を行っても、大麻使用の有無による認知パフォーマンスの違いは確認されませんでした。

なぜ差が出なかったのか?
この研究における大麻使用者の多くは、「低頻度」の使用に留まっていました。具体的には、使用頻度の主値(中央値)は「月に2〜4回」でした。先行研究のレビューでも、高齢者における低用量・短期間の医療用大麻の使用は、一般的に耐容性が高く、重大な認知リスクをもたらさない可能性が示唆されています。今回の結果は、こうした「適度な利用であれば、高齢者の脳に明らかな悪影響を及ぼさない」という説を裏付けるものとなりました。

潜むリスク:「大麻使用障害」と記憶力の低下
しかし、すべてが良いニュースというわけではありません。研究チームはさらに踏み込み、「大麻の使用パターンや問題の深刻さ」が認知機能にどう影響するかを調査しました。ここで用いられたのが「CUDIT-R(大麻使用障害同定テスト改訂版)」という指標です。その結果、以下のことが判明しました。

有害・問題のある使用(依存リスクが高い層): 大麻を使用している人の中でも、CUDIT-Rで「有害な使用」または「大麻使用障害(CUD)」の疑いがあると判定されたグループは、そうでないグループに比べて、明らかに記憶力のテスト結果が低いことが示されました。

「やめられない」感覚の影響: 特定の項目を分析すると、「使用を始めたら止められなかった経験」がある人は、記憶力だけでなく、処理速度、視覚構成、言語といった幅広い領域で認知スコアが低い傾向にありました。

つまり、大麻そのものが悪いというよりも、「制御を失った形での使用」や「高頻度の使用」が高齢者の記憶力を損なうリスクがあるということです。

「主観的」な不安と「客観的」な数値のギャップ

この研究は、もう一つの興味深い矛盾を指摘しています。これまでの調査では、大麻を使用している高齢者は、使用していない高齢者に比べて「最近、物忘れがひどくなった」という主観的な記憶の不安(SMC)を訴える割合が高いことが分かっていました。しかし、今回の客観的なテスト(神経心理学的検査)では、依存状態にない限り、認知機能に差はありませんでした。このギャップにはいくつかの理由が考えられます:

「大麻は脳に悪い」という世間一般の認識が、使用者の不安を煽っている可能性。
大麻使用者が、テストには現れない微細な注意力の低下を敏感に感じ取っている可能性。
大麻を使用する動機となっている「痛み」や「不眠」そのものが、主観的な記憶の不安を引き起こしている可能性。

大麻には「脳を守る力」があるのか?

一部の動物実験や予備的な研究では、大麻に含まれる成分(THCやCBD)が、アルツハイマー病に関連する神経炎症を抑えたり、アミロイドベータの蓄積を減らしたりする「神経保護作用」を持つ可能性が議論されています。しかし、今回の人間を対象とした研究では、大麻使用による「認知機能の向上」は見られませんでした。高齢者における大麻の潜在的なメリットとリスクについては、用量や個人の体質、認知症のタイプによって異なる可能性があるため、さらなる厳密な研究が必要です。

まとめと今後の展望

今回のミシガン大学の研究から得られた結論をまとめると、以下のようになります。
適度な使用は安全: 月に数回程度の低頻度な大麻使用であれば、高齢者の認知機能(記憶、注意力、遂行機能など)に目立った悪影響を与える可能性は低い。
・依存には要注意: 使用をコントロールできなくなったり、使用頻度が極端に高まったりすると、明確な記憶力の低下を招く恐れがある。
・主観的な不安に惑わされない: 「大麻を使っているからボケるのではないか」という過度な不安(主観的な物忘れ)がある場合でも、客観的な検査では問題ないケースが多い。
注意点と限界
この研究は「暫定的な結果」であり、いくつか制限があります。例えば、使用した大麻の種類(THCとCBDの比率)や、吸入なのか経口(グミなど)なのかといった摂取方法までは特定できていません。また、今回のサンプルサイズは比較的小さいため、今後より大規模な長期調査が必要です。高齢者の皆さんが健康管理の一環として大麻を検討する場合、あるいはご家族が使用されている場合、「使用頻度を低く保つこと」「依存のサインを見逃さないこと」が、脳の健康を守るための鍵となるでしょう。

出典: Mulhauser, K., et al. (2025). Cannabis use and cognition in older adults: Preliminary performance-based neuropsychological test results and directions for future research. Journal of the International Neuropsychological Society.

執筆: 正高佑志 Yuji Masataka(医師)
経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone  Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン) 所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)

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