CBD(カンナビジオール)は、大麻に含まれる主要な非精神活性成分であり、慢性疼痛の緩和、不安の解消、睡眠や気分の改善を目的として、サプリメントやオイル、グミなどの形で世界中で広く利用されています。しかし、CBDは単なる「無害な健康食品」ではなく、肝臓での薬物代謝に不可欠な酵素を阻害する強力な性質を持っています。
最新の研究(Gorbenkoら、2025年)によれば、市販のサプリメントで一般的に使われるような「低用量(30mg)」のCBDであっても、特定の鎮痛薬の血中濃度を上昇させ、場合によっては併用薬の副作用リスクを高める可能性があることが明らかになりました。
本記事では、この最新研究に基づき、CBDと鎮痛薬(アミトリプチリンおよびトラマドール)の相互作用について、そのメカニズムと私たちが注意すべき点について深く掘り下げて解説します。
なぜCBDが他の薬に影響を与えるのか?:CYP酵素の阻害
私たちの体内に取り込まれた薬の多くは、肝臓にある「CYP450(シトクロムP450)」と呼ばれる酵素群によって代謝・分解され、体外へ排出されます。
CBDはこのCYP酵素、特にCYP2C19、CYP2C9、CYP3A4、CYP1A2、CYP2B6などの働きを阻害することが知られています。例えるなら、CBDが酵素という「処理工場」の入り口を塞いでしまうようなものです。その結果、本来分解されるべき他の薬が体内に長く留まり、血中濃度が異常に高まってしまう「薬物相互作用(DDI)」が引き起こされます。
これまで、CBDによる薬物相互作用の研究は、てんかん治療などで用いられる「高用量(1日数百mg〜数千mg)」のケースが中心でした。しかし、慢性疼痛の患者や一般のサプリメント利用者が摂取する「低用量(30mg程度)」でも同様の現象が起きるのかについては、これまで十分に解明されていませんでした。
調査の対象となった2つの鎮痛薬
今回の研究では、慢性疼痛の治療によく用いられる以下の2つの薬剤が「被害薬(相互作用を受ける側の薬)」として選ばれました。
アミトリプチリン(先発:トリプタノール): 神経障害性疼痛の治療に頻繁に処方される三環系抗うつ薬です。主にCYP2C19、CYP2C9、CYP3A4によって代謝され、活性代謝物である「ノルトリプチリン」に変換されます。
トラマドール(先発:トラマール/トラムセット配合錠): 中等度から激しい痛みに用いられるオピオイド鎮痛薬です。主にCYP2D6によって強力な鎮痛作用を持つ「O-デスメチルトラマドール(O-DSMT)」へ代謝され、一方でCYP3A4やCYP2B6によって無活性な代謝物へも分解されます。
研究チームは、CBDがこれらの酵素を阻害することで、アミトリプチリンやトラマドールの代謝を遅らせ、血中濃度を上昇させるのではないかという仮説を立てました。
研究の結果:低用量CBDがもたらした変化
13名の健康な被験者を対象に行われた臨床試験の結果、驚くべき事実が判明しました。わずか30mgの単回投与であっても、CBDはアミトリプチリンの代謝に影響を与えたのです。
アミトリプチリンへの影響:
CBDを併用した場合、アミトリプチリン単独での服用時と比較して、以下の変化が見られました。
・血中濃度曲線下面積(AUC):13% 増加
・最高血中濃度(Cmax):17% 増加
これは、CBDがアミトリプチリンを分解する酵素を阻害したことを直接的に示しています。一方、代謝物であるノルトリプチリンの濃度には有意な変化は見られませんでした。
トラマドールへの影響:
トラマドールについては、最高血中濃度(Cmax)が10%増加する傾向が見られましたが、統計的に有意なレベル(偶然とは言い切れないレベル)ではありませんでした。また、活性代謝物であるO-DSMTの濃度にも大きな変化は確認されませんでした。
この結果が意味するリスク
今回の研究で観察された血中濃度の増加(13〜17%)は、一見するとわずかなものに思えるかもしれません。しかし、研究チームは「実際の患者においては、この影響がより顕著になる可能性がある」と強く警告しています。実際にアミトリプチリンの血中濃度が上昇すると、以下のような副作用のリスクが高まります。
・過度の鎮静(眠気)
・起立性低血圧(立ちくらみ)
・心毒性(不整脈など)
また、トラマドールにおいても、仮に代謝物であるO-DSMTが過剰に蓄積すれば、呼吸抑制や意識混濁といった、生命に関わる深刻な毒性を招く恐れがあります。
「単回投与」よりも「日常的な摂取」が危ない理由
今回の試験は、CBDを1回だけ摂取した際の影響を調べたものです。しかし、現実の利用シーンでは、CBDは毎日継続的に摂取されることがほとんどです。ここには2つの大きなリスクが隠されています。
① CBDの蓄積性
CBDは非常に脂肪に溶けやすい物質であり、体内に蓄積しやすい性質を持っています。その終末期半減期は約60時間と長く、毎日摂取し続けることで体内のCBD濃度は徐々に高まっていくため、酵素の阻害効果も単発使用時より強まると予想されます。
② 食事による影響
CBDの吸収率は、その時の食事の内容に劇的に左右されます。空腹時に比べて、高脂肪食と一緒に摂取した場合、CBDの血中濃度は数倍に跳ね上がることが知られています。今回の試験は空腹時に行われましたが、もし食事と一緒にCBDを摂取していれば、アミトリプチリンなどの血中濃度上昇はさらに激しいものになっていた可能性があります。
「寄生的な薬理学(Parasitic Pharmacology)」という視点
研究者たちは、CBDの「効果」そのものについても興味深い仮説を立てています。CBD自体には、鎮痛薬としての明確な科学的証拠が必ずしも十分ではありません。それにもかかわらず、「CBDを飲むと痛みが和らぐ」と感じる人がいるのは、CBDが併用している従来の薬の代謝を遅らせ、それらの薬の効果を(副作用のリスクと共に)意図せず増幅させているからではないか、という考え方です。これを「寄生的な薬理学(Parasitic Pharmacology)」と呼びます。もしこれが事実であれば、患者は「CBDが効いている」と誤解して摂取量を増やし、その結果として併用薬の濃度が危険なレベルまで上昇する危険性があります。
まとめ:CBD利用者へのアドバイス
CBDは、正しく使えば有益な可能性を秘めていますが、「他の薬との飲み合わせ」に関しては注意が必要な物質です。今回の研究から得られる教訓は以下の通りです。
1:低用量でも油断禁物: 30mgという一般的な量でも、他の薬の代謝に影響を与えます。
2:鎮痛薬併用時は医師に相談: アミトリプチリンやトラマドールなどの薬を服用している場合は、必ず主治医や薬剤師にCBDの使用を伝えてください。
3:副作用の変化に敏感になる: CBDを使い始めてから、普段飲んでいる薬の副作用(眠気、めまい、ふらつきなど)が強く出るようになった場合は、すぐに使用を中止すべきです。
4:増量時は注意: CBDを増やしても痛みが変わらない場合、それは体内での「薬物渋滞」を悪化させているだけかもしれません。
「自然由来だから安全」という思い込みは捨て、CBDも一種の「薬理作用を持つ物質」として慎重に扱うことが、安全な健康管理の第一歩です。
参考文献:Low-dose cannabidiol increases plasma concentrations of amitriptyline: A clinical drug–drug interaction study.
https://bpspubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/bcp.70415
執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師) 経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。 研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。 書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン) 所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員) 更新日:2026年1月27日

執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師) 経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。 研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone
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