医療大麻とうつ病

■ うつ病は若年層の死因第一位

厚生労働省の患者調査では、2017年にうつ病で病院にかかった人数は、127万6000人。うつ病患者さんのうち、受診するのは4分の1程度と考えられているので、およそ500万人ほどのうつ病患者が日本にいる計算になります。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/dl/kanja.pdf

また年間の自殺者数は公式発表では2,2000人程度とされています。(実際にはもっと多くの方が自ら命を絶っているのではないかと思われます。)
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html

この国において、15歳から40歳までの死亡原因の第1位は自殺です。貴方にとって最も身近で、かつ最も危険な病気がうつ病なのです。

■ うつ病の標準治療の問題点と限界

UPTODATE というエビデンスに基づいたガイドラインを参照すると、うつの治療には薬物療法と心理療法の併用が推奨され、抗うつ薬にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という種類の薬が第一選択として推奨されています。しかし残念ながら、これらの治療薬は効果がはっきりしないことに加え、むしろ自殺率を上昇させる可能性が、アイルランド出身の精神科医、デイヴィット・ヒーリー氏らにより指摘されています。

ヒーリー氏は著作の中で

「抗うつ薬が短期的に効果を示す証拠はあっても、長期的な有用性を示す証拠はない。抗うつ剤の導入後から、うつ病の頻度は1000倍に増えたのだから何かが間違っているに違いない」

と述べています。

本書に書かれている通り、欧米ではSSRIの服薬に伴う自殺を巡って医療訴訟が多発し、社会問題になりましたが、日本ではそれほど問題視されていないようです。いずれにせよ、現代医学はうつ病に対して充分な対処が出来ているとは言い難いでしょう。

■ うつとエンドカンナビノイド

ところで、人はなぜ「うつ」になるのでしょうか?

人間の幸福度は、環境の影響に加えて、生まれつきの体質にも左右されるようです。たとえば、セロトニンという神経伝達物質を運搬するタンパク質には、L型とS型の二種類が存在しますが、L型を持っている人の方が幸福感が高いことが示唆されています
https://link.springer.com/article/10.1186/2211-1522-3-5

実は幸福度に影響を与えるのはセロトニンだけではありません。エンドカンナビノイドシステムも幸福度に関係していることが、愛知医科大学の松永昌宏先生達により報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3972248/#!po=67.8571

人間のCB1受容体は、472個のアミノ酸が連なって作られています。

この構造の設計図が遺伝子です。CB1 受容体に関しては設計図の一箇所が、シトシン(C)からチミン(T)へと置き換わることによって、CB1 受容体の形に血液型のような「タイプ」があると判明しています。

人間は誰も、父方と母方から受け継ぐ二組の遺伝子を持っていますので、個人が持つ CB1 受容体遺伝子のパターンは、CC、CT、TTのいずれかになります。このうち、Cの遺伝子を持っている人の方が、TTの人よりも、より幸福感を感じやすかったそうです。(ちなみに被検者では CC が11%、CT が43%、TT が46%でした。)

また、かつて「やせ薬」として販売されていたリモナバンという医薬品があります。

これはTHCが結合する CB1 受容体をブロックする作用を持つ物質でした。大麻を吸うと食欲が増すことに着目し、逆に CB1 をブロックすることで食欲がなくなるのでは? と考えたのです。たしかに服用者の体重は減ったのですが、深刻なうつ病になり自殺する患者さんが相次いで出たため、この薬は発売停止となりました。

このように、エンドカンナビノイドシステムと幸福感は関係していることが科学的に示されています。そのためエンドカンナビノイドシステムに直接作用する大麻が、うつ病の治療薬として期待されているのです。

■ 医療大麻とうつ

実際に大麻を吸うことで、気分が明るくなりうつが改善したという報告は枚挙に暇がありません。日本国内で非合法に使っている方からの体験談も複数、私の元に SNS を通じて寄せられています。大規模なランダム化比較試験は残念ながら行われていませんが、カナダの医療大麻患者の使用記録をアプリを使って集積した研究では、775人の患者さんが回答し、大麻の使用前は平均して10点満点中 5.9点だったうつ症状が、使用後は 2.7点まで改善したと報告されています。これは症状が6割ほど軽減したということを意味しています。


https://www.liebertpub.com/doi/pdf/10.1089/jpm.2018.0658

 

これは推測ですが、大麻の精神作用によって「ネガティヴ思考の無限ループ」から抜け出すことができるのではないかと私は考えています。

一方で、患者さんの中には大麻の使用でうつが悪化したと感じる方もおられます。個体差が大きいのが医療大麻の特徴であり、医療大麻によって改善する患者と悪化する患者を、事前に区別できるにすることは今後の課題でしょう。

■ うつとCBD

残念ながら、CBD を使ったうつ病の治験結果は今のところ報告されていません。ブラジルで双極性障害に対して CBD 300 mg/dayを用いた治験が現在、進行中のようです。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03310593?term=cannabidiol&cond=Depression&rank=1

しかし動物実験では既に、即効性の抗うつ作用が示されています。
https://www.drperlmutter.com/wp-content/uploads/2018/12/CBD-BDNF.pdf

メカニズムとしては、エンドカンナビノイドシステムの調整を経由して、セロトニンのレベルを安定させるのではないかと考えられています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31039391

動物実験の結果が必ずしも人体にも当てはまるとは言えませんが、現在のうつ病治療に限界を感じている場合には、試してみる価値はあるのかもしれません。

うつ病は医療大麻の適応疾患として、今後、積極的な研究や臨床応用が期待される領域と言えるでしょう。

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

 

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