認知症は高齢化が進む日本の深刻な問題の一つです。2019年時点で既に、認知症と診断される方の数は約500万人。2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると予想されています。認知症での一人暮らしが難しいことはもちろん、夫婦二人暮しでも、片方が認知症になると、生活は介護が中心となり老後を楽しむどころではなくなります。
いかにして認知症を予防するかというのは、国家的課題といっても過言ではないでしょう。この領域においても、医療大麻は可能性を秘めています。
■ 認知症と周辺症状
認知症の主な症状が「もの忘れ」であることは間違いがありませんが、そのほかにも周辺症状(BPSD)と呼ばれる多くの症状が伴います。
性格の変化、深夜の徘徊、被害妄想など、このような問題行動は記憶力の低下自体よりもずっと厄介で、介護の手間を増やし、自立した生活を困難にします。
周辺症状に対しては、手に負えない場合は抗精神病薬が用いられることもありますが、その結果、意識レベルが低下し、「薬物による寝たきり状態」になってしまう方がおられるのも事実です。なるべく本人の覚醒状態を保ってあげたい、けれど投薬なしでは生活や介護が成り立たない。そういう難しい葛藤を、当事者たちは抱えています。
■ 医療大麻という選択肢
そのようなケースに対し、本人に苦痛を与えず、生活の質を落とさず、かつ問題行動を予防するために、今、アメリカの一部の先進的な老人ホームでは医療大麻が使用され始めています。
https://www.leafly.com/news/health/is-cannabis-allowed-in-nursing-homes
喫煙以外にもクッキーやチョコレートに大麻成分を含んだものを、オヤツに出しているという話を、筆者はカリフォルニアの医師からきいたことがあります。(老人ホームの多くは連邦が管理する医療制度「Medicare」によって運営されているため、連邦法が規制する大麻の使用を表立って認める施設は少数のようです。)
医薬品としても、GW製薬のサティベックス(THC:CBD=1:1)を使ったアルツハイマー型認知症による興奮や不穏への臨床試験が、イギリスの認知症研究を促進するチャリティの出資で始まっています。
https://www.alzheimersresearchuk.org/cannabis-based-medicine-to-be-tested-in-alzheimers/
英国では既にサティベックスは多発性硬化症の治療薬として承認されていますので、好ましい結果が出れば、認知症にも適応が拡大される見込みです。
■ 医療大麻は認知症を予防するか?
医療大麻の認知症への効果はそれだけではありません。最新の研究ではなんと、大麻が認知症を予防する可能性が示唆されているのです。
認知症の中で、最も数が多いのはアルツハイマー病ですが、その原因は脳細胞内にアミロイドと呼ばれるタンパク質の塊が、歳と共に汚れのように溜まり、そのアミロイドが脳に慢性の炎症を引き起こすためだと考えられています。
医療大麻は、このアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドの沈着を取り除き、しかもアミロイドが原因で起きる炎症を抑えてくれる作用があることを、サンディエゴのソーク研究所のデイビット・スクベルト教授らが2016年に発表しています。
https://www.salk.edu/news-release/cannabinoids-remove-plaque-forming-alzheimers-proteins-from-brain-cells/
認知症の予防薬は、何種類か市販されていますが、いずれも効果に関しては充分とは言い難い印象です。ソーク研究所の発表はマウスにおける結果であり、人間に対してどの程度有効かはまだはっきりしませんが、この領域における第一選択薬となる可能性は充分に考えられます。今後、さらなる研究と臨床応用が期待される領域であることは間違いありません。
■ CBDと認知症
残念ながら、現時点までに CBD が単体で認知症に対して有用であることを示す臨床試験は存在しません。また 2019年8月の時点では、そのような臨床試験は、調べる限り計画されていないようです。
文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)
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