医療大麻と高血圧・循環器疾患

2020.02.13 | 病気・症状別 | by greenzonejapan
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医療大麻と高血圧・循環器疾患
2020.02.13 | 病気・症状別 | by greenzonejapan

■ 高血圧という病気

皆さんは健康診断で、高血圧と言われたことはありますか? 厚生労働省の平成29年の患者調査によると、高血圧で病院に通っている患者さんの数は国内で 1,000万人弱、日本高血圧学会によれば、未治療患者を含めると4,300万人の方が高血圧であるとされています。これは日本の全人口の約 3分の 1 にあたります。
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2014/jsh2014_gen.pdf

血圧とは、心臓というポンプが血液を身体の隅々に送るときに、血管というパイプにかかっている圧力のことです。日本では収縮期(上)140 mmHg、拡張期(下)90 mmHg以上が高血圧とされています。

血圧が高いこと自体は基本的には症状を引き起こしませんが、高血圧状態を長期間放置すると血管が劣化し、脳梗塞や心筋梗塞などの「血管病」を発症するリスクが高くなることが知られています。そのため、高血圧の患者さんは、病院や健康診断で減塩や運動、降圧薬の内服などにより降圧治療が勧められます。
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/bp/pamph84.html

大事なことですが、血圧を下げること自体には意義はありません。高血圧を治療するのはあくまでも脳梗塞や心筋梗塞を予防するためです。(注:高血圧緊急症の場合を除く)

■ 大麻と血圧の関係

大麻を使用すると、目が充血して赤くなります。これは大麻に毛細血管を拡張させる作用があることを示しています。末梢の血管が開くと、理論上は血圧は低下します。生化学的にも、大麻が作用するエンドカンナビノイドの受容体は末梢血管にも存在しており、カンナビノイドシステムは、降圧治療のターゲットになる可能性が指摘されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2241751/#!po=26.3587
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2228270/

一方で、大麻がタバコのように喫煙で摂取されるためでしょうか、大麻にも血圧を上げ、心臓に負担をかけるというイメージがあるようです。実際の大麻と血圧の関係は、そう単純ではありません。大麻使用が血圧に与える急性の影響は、非常用者と常用者で異なるようです。

非常用者では、喫煙直後には一過性の心拍数の増加と血圧の上昇をもたらし、その後マイルドな血圧の低下を引き起こします。一方、大麻に耐性がついた常用者では使用直後の一過性の血圧上昇は消失し、使用直後から心拍数の低下と血圧の低下が起きるようです。(タバコでも、非喫煙者が使用する場合は「ヤニクラ」と呼ばれる血管収縮によるめまいのような症状が出現しますが、吸い慣れてくると無くなることを思い出していただくといいかもしれません。)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12412838

大麻使用者を対象としたアンケートでは、大麻の使用によって血圧は下がるという意見が圧倒的に多いようです。以下のサイトでは「大麻は血圧を下げることができるか?」という質問に対し、Yes と No が 88:12 の比率で、コメントと共に寄せられています。


https://www.debate.org/opinions/can-marijuana-lower-blood-pressure

一方で疫学研究では、逆の結果が示唆されています。

2005年から 2012年のアメリカ人のデータベースを利用した以下の研究では、アクティブな大麻ユーザーは、大麻を一度も使用したことがないグループと比較すると、収縮期血圧が少しだけ高かったと報告されています。

しかし、論文の内容を検証してみると、二つのグループ間に見られた収縮期血圧の差は、わずか 1.6 mmHg です。(拡張期血圧に関しては有意差がありませんでした。)この違いが健康に与える影響は無視していい程度ではないかと考えられます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5237375/

その他、「大麻を使用すると高血圧関連の死亡率が4倍高くなる」という、劇的な結果を報告した論文が 2017年に報告されていたのですが、これは 2019年になって撤回されています。解析方法に重大な誤りがあったとのことです。


https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28789567

 

一言に大麻と言っても THC 優位のものから CBD 優位のものまで様々であり、摂取経路も喫煙以外にも経口摂取や経皮吸収など様々な選択肢があります。血圧に対して与える影響は、そのような要素に左右され、ひとまとめには言えない可能性も高そうです。

このような結果を総合すると、大麻の血圧に与える影響は、現時点では「あったとしても軽度」と考えるのが妥当ではないかと考えられます。

■ 大麻と循環器疾患のリスク

そもそも、高血圧を治療した方がよいのは、心筋梗塞や脳卒中になる確率を減らせるからという理屈でした。それでは大麻を使用すると心筋梗塞は増えるのでしょうか?それとも減るのでしょうか?

大麻の使用はときに、脈拍数の増加をもたらします。それはつまり、大麻が心臓にある程度の負荷をかけることを示しています。この負荷は健康な人には問題となりません。しかし、心臓疾患の患者さんでは、激しい運動と同じように大麻の使用が急性心筋梗塞のトリガーになり得る可能性が指摘されています。

以下の研究で、心疾患の既往のある患者では大麻の使用から1時間以内は、心筋梗塞などのイベントが発生する確率が 4.8倍高かったと報告されています。
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/01.CIR.103.23.2805

リスクの無い若年層の大麻使用に伴う心血管イベントの可能性を示唆する症例報告も認められますが、世界の成人人口の 4%が大麻を喫煙しているにもかかわらず、未だケースレポートとして報告する価値がある程度に珍しいようです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21306702
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25868498

(ちなみに、同じような健常者の突然の心臓発作はマラソンでも起きていますが、心臓発作のリスクを理由にマラソン大会が規制されることはない点は留意すべきです。https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1106468

疫学的な調査に関しても、大麻と循環器疾患の関連は薄いようです。2006年に『American Journal of Cardiology』に報告された、3,617人の疫学調査(CARDIA study)の結果、大麻の使用が脳梗塞や心筋梗塞を増やすということはありませんでした。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16893701

また2018年の調査では、大麻の使用は不整脈を増加させないと報告されています。
https://www.hrsonline.org/new-study-suggests-marijuana-use-does-not-increase-rik-heart-arrhythmias-instead-may-reduce-risk

2018年の以下の研究では、18〜55歳の大麻使用者の循環器疾患のリスクは、非使用者と比べて、1.1倍という結果が報告されていますが、疫学研究における1.1倍という数字は、因果関係を示すには小さい値です。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29879084

(たとえば、煙草の喫煙者が肺がんになるリスクは、非喫煙者と比べて 14倍という結果が得られています。http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2001dir/n2456dir/n2456_03.htm

 

結論としては、心筋梗塞や心不全の既往がある患者さんは医療大麻の使用に際しては気をつけるべきですが、それ以外の健康な人においては、特に心臓への負担は気にする必要はないと考えられます。

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

 

参考:

https://www.leafly.com/news/health/cannabis-high-blood-pressure-hypertension
https://www.marijuanabreak.com/how-does-marijuana-affect-your-blood-pressure

 

 

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