依存症になるのはどんな人?
ー NESARC調査からわかること ー

2020.12.18 | GZJ | by greenzonejapan
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依存症になるのはどんな人?
ー NESARC調査からわかること ー
2020.12.18 | GZJ | by greenzonejapan

2020年、オレゴン州の有権者は大麻を含む全ての薬物を非犯罪化することを選びました。
諸外国では薬物使用者を逮捕、投獄することは誰のことも幸せにしないという認識が急速に広まりつつあるように感じられます。しかしながら本邦では、未だに「一度でも使用すると依存症になり深刻な健康被害を引き起こす」という誤った知識が、行政機関によって広められています。

日本ではタブー視が続く薬物問題ですが、諸外国では大規模な調査が行われています。今回は、米国で行われた NESARC 調査が明らかにした結果をお伝えします。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3069146/#!po=43.1818
https://pubs.niaaa.nih.gov/publications/arh29-2/74-78.htm

アルコールと関連障害についての全国疫学調査(NESARC)は、2001〜2002年と2004〜2005年にかけて米国で行われた大規模調査です。2001〜2002年の第1期では、18歳以上の 43,093名が薬物使用歴を含む詳細なアンケート調査に回答し、そのうちの34,653名が3年後の追跡調査にも回答しました。この種の調査としては、前例のない大規模なものと言えるでしょう。

① 薬物使用経験(タバコ、お酒、大麻、コカイン)について

この調査ではニコチン(タバコ)、アルコール(お酒)、大麻、コカインという4つのドラッグの使用経験が確認されました。その結果、以下のような事実が明らかになりました。

A:調査に回答した方のうち、男性の 26.9%、女性の 17% が大麻使用経験がありました。この数字はタバコの喫煙経験者のおよそ2分の1程度でした。

調査実施当時、アメリカで嗜好品としての大麻が合法化されている州は存在しません。そのため回答者の中には、自身の大麻使用経験を隠している方も相当数含まれると考えるべきです。このことから、アメリカでの大麻の浸透率は低く見積もってもタバコの半分以上と考えることができます。

B:45歳以上の層では、タバコの喫煙経験が 50%を超えている一方で、大麻使用経験は 15%に留まりました。一方で 29歳以下の層ではタバコの経験率は40%程度であるのに対して、大麻の使用率は 31.3%でした。このことから、若い層ではタバコから大麻へと嗜好の対象が移行している可能性が考えられます。

C:人種別に見てみると、タバコ、酒、大麻、コカインのいずれも経験率が最も高いのは白人でした。にもかかわらず、薬物犯罪での逮捕者数は、黒人などの有色人種が白人を圧倒しています。このような事実が根拠となり、薬物規制は人種差別問題と密接に関係していると考えられています。

D:学歴に注目してみると、最終学歴が低い層ほどタバコの喫煙率が高く、それ以外の3つに関しては学歴が高いほど使用経験率が高いことが明らかになりました。違法薬物に手を出すのは、低学歴層という先入観があるかもしれませんが、これはどうやら異なるようです。

E:さらに所得に関しても見てみると、所得が高い層ほど大麻とコカインの仕様経験率が高くなる傾向が認められました。違法薬物に手を出すのは貧困層というイメージも根強いものがありますが、こちらもどうやら実態とは異なるようです。

F:精神疾患の既往がある層は、そうでない層と比較し、全ての薬物の使用経験が多い傾向が認められました。うつ病の既往がある層では大麻とコカインの使用率が2倍、不安障害では大麻が 1.5倍、コカインが2倍、パーソナリティー障害では大麻が
倍、コカインが3倍、ADHDでは大麻が2倍、コカインが3倍でした。

これは相関関係に関するデータであって、因果関係ではないことには注意が必要です。このデータから「薬物のせいで精神疾患に罹患した」のか、「精神疾患を抱えて生きづらい人が違法薬物に辿り着きやすい」のかはわかりません。しかし、多くのうつ病患者が医療大麻を使用していることや、コカインと作用の近いメチルフェニデートなどの「覚せい剤」が ADHD の治療薬として処方されていることを考慮すると、精神疾患患者が自己治療として大麻やコカインに手を出している可能性が高いのではないかと考えられます。

② どれくらいの人が依存症に移行するのか

この調査において最も重要なのが、薬物経験者のうちどれくらいの人が依存症に移行するかというパートです。世の中には薬物によって健康や社会生活が維持できなくなる人もいれば、何十年も使用していても大きな問題とならない人もいます。薬物毎のその割合を可視化したのが以下のグラフになります。

タバコの場合、使用開始から1年でニコチン依存症になる人は2%程度でした。それが使用から 10年で 15.6%に増加し、最終的な生涯罹患率は 67.5%まで増加します。ニコチン依存症になるまでにかかる年数の中央値は 27年でした。

お酒の場合、飲み始めて1年で依存になる人は2%で、10年では 11%でした。この数字は最終的に 22.7%に達したところでプラトーになります。依存症になるまでの時間の中央値は 13年でした。

大麻では1年後の依存率は2%、10年で 5.9%、生涯依存率は 8.9%でした。依存になるまでの年数の中央値は5年です。

これがコカインの場合、最初の1年でユーザーの 7.1%が依存症になり、10年で 14.8%が依存症の定義を満たすようになります。この数字は最終的に 20.9%で落ち着きます。依存症に陥るまでの年数は4年です。

つまり、タバコやお酒が長い年月をかけてゆっくりと依存症を形成するのに比べて、コカインの場合は一部の人々を急速に依存状態に至らせる作用があるということです。コカインに似た系統のドラッグである覚せい剤に関して、しばしばカタストロフィックなエピソードが語られるのは、数年という短い年月で知人や友人が変化していくのを目の当たりにしているからでしょう。

逆に言うなら、お酒やタバコによる長い年月をかけた影響は自覚されづらいという点があるのでしょう。一方でこの数字は見方によっては、大麻経験者の 90%以上、コカイン経験者の 80%が依存にならないということを意味しています。

③ どんな人が依存症になりやすいか?

この調査ではどんな特徴を持つ人が依存症になりやすいかということを分析しています。その結果、明らかになったのは以下のような事実です。

A:若くしてドラッグを始めた人は依存症になりやすい。これは例えば 90歳でタバコを吸い始めた場合、依存症を形成する前になんらかの理由で亡くなる可能性が高いことを考えると理解頂けると思います。

B:違法薬物(大麻、コカイン)の使用率に関しては、所得が多い人ほど高いことがわかりましたが、依存症になる割合では、所得が低い人ほど移行率が高いことが明らかになりました。これはお金持ちは依存症になりづらいと言い換えることができます。

C:また興味深いのは、未婚の人ほど依存症になりやすいというデータが示された点です。離婚経験者に関してはそれほど大きな違いはなかったので、これは親密な人間関係を築くことが苦手な人は薬物に依存しやすい傾向があるということを意味しているのかもしれません。一人で薬物を使用し続けるのはリスクが高いと言えるでしょう。

D:タバコ、お酒、大麻に関しては、働いていない人の方が依存に陥りやすいのに対して、コカインだけは働いている人の方が依存しやすいことが明らかになりました。これはコカインや覚せい剤がエナジードリンクの延長線上にあるものと考えれば理解しやすいかと思います。

E:どのような薬物にせよ、精神疾患の既往がある層では依存率が高いという結果が得られました。これは仮に自己治療として使用を開始したとしても、結局は薬物に振り回されてしまう可能性が高いことを示しています。

上記が、過去最大規模の薬物使用者の調査で明らかになった所見です。日本の薬物教育で語られるような、一回でも使用したら人間として終わりというストーリーはどうやら誤りのようです。

人生が上手くいっている人が時々、友人と大麻タバコを回し飲みする事は人生に悪影響を与えることはないと言えるでしょう。一方で、精神疾患に罹患し、対人関係にトラブルを抱えるような人が、薬物に一時の救いを見出しのめり込んでいくことは、長い目でみた救いにはならないようです。

本当に必要な薬物教育とは、前者に対して不必要な偏見を植え付けることではなく、後者の人々が薬物にのめり込まないようにするための教育であり、のめり込んだときに抜け出すための教育ではないでしょうか。

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

 

 

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