2020年 米大統領選 — 勝ったのは誰?

2020.12.15 | 海外動向 | by greenzonejapan
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2020年 米大統領選 — 勝ったのは誰?
2020.12.15 | 海外動向 | by greenzonejapan

例年ならば真夏の3か月をアメリカで過ごすのですが、新型コロナの影響もあって渡米が秋にずれ込み、大統領選挙をシアトル郊外で見守ることになりました。ここワシントン州は「青い州」、つまり民主党支持者が多い州で、私の周囲にも民主党支持者しかいないし、私自身も民主党の政策を支持しています。

ご存知の通りアメリカの大統領選には独特の「選挙人制度」というのがあって、各州の選挙人が、有権者による投票の結果に基づいて実際の票を投じます。11月3日の有権者による投票の結果を受けて各州の選挙人がようやく実際の投票を行ったのは、実はこれを書いている米時間 12月14日のことで、それが終わるまでは選挙の結果は正式には出ていないという不思議な状況が続いていました。私の周囲には、4年前にあらゆるメディアがヒラリー・クリントンの勝利を確実と予測しながら破れたのが相当のトラウマになっている人が多く、今回も、選挙人による投票が終わるまでは安心できない、と、うちの夫などは勝利宣言にやけに慎重で、14日の選挙人による投票がつつがなく終わって、これでようやく「バイデンが勝った」と思えたようです。

医療大麻合法化の活動に携わっている私にとっては、民主党が政権を奪回するかどうかはまた、アメリカにおける大麻合法化にも大きく影響を与えるという意味でも注目に値します。

アメリカでは 1937年に大麻課税法が制定されて大麻の栽培・所持・使用・販売が事実上禁止されて以来、現在までに多くの州が大麻の医療利用または嗜好利用を合法化したにもかかわらず、連邦政府レベルでは依然として大麻は規制物質として取り締まりが続いているというねじれた状況で、2019年の大麻関連の逮捕は54万件を超えています。日本の約 4,000件とは比べものにならない数字です。

2大政党と大麻の関係

ここに面白い地図の比較があります。出典:
左 https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3532565 (05:15, 13 January 2019)
右 https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2370050 (20:07, 2 May 2020)

左の図は、2008年、2012年、2016年の大統領選挙で各州がどちらの党の選挙人を獲得したかを合算して示したもの。赤が共和党、青が民主党です。そして右側は、2020年5月現在の大麻の合法化状況を示したものです。どんな相関関係があるか一目瞭然だと思います。一言で言えば、民主党支持層が強い州では大麻合法化について肯定的な意見が多いという傾向があるのです。

このことは歴史を振り返っても明らかです。

1950年代にビートニクと呼ばれたインテリ層が大麻を擁護して以来、アメリカではこの50年あまり、大麻合法化に対する賛成派と反対派の間で長い闘いが繰り広げられています。その間、大麻をめぐる政策や世論は、潮の満ち引きのように揺れ動いてきました。

たとえば 1969年に大統領に就任した共和党のニクソン政権下では、
ああ1970年 規制物質法(Control Substance Act)制定
ああ1971年 麻薬撲滅戦争(War on Drugs)宣言
ああ1972年 シェーファー・コミッションによる報告書を無視
という、大麻にとって厳しい政策が採られました。


翻って、1977年に始まった民主党のカーター政権は、その年に国会に対して大麻の非犯罪化を提唱しています。ただし、反対派の議員や市民団体によって非犯罪化は成立しませんでした。

 

そして 1981年からの共和党のレーガン政権下、1986年には薬物乱用防止法が制定され、大麻の所持と販売に対する最小限の量刑が定められて、取り締まりが一層厳しくなるとともに、社会のマイノリティに対する取り締まりの不公平に拍車がかかる結果となりました。 また、「Just Say No(とにかくノーと言おう)」をスローガンに繰り広げられた薬物取り締まりキャンペーンの先陣に立ったのは、ときのファーストレディ、ナンシー・レーガンでした。

世論の動き — アメリカと世界

さて、大統領選挙またはその2年後に行われる中間選挙では、各州でさまざまな州法の改正案が住民投票にかけられます。日本にはないこの制度ですが、腐っても民主主義の国、アメリカではこれまで、医療・嗜好大麻の合法化は、ごくわずかな例外はありますが、基本的に住民投票によって示される民意・世論が牽引してきました。そしてその動きは、2012年に住民投票でワシントン州とコロラド州がアメリカ初の嗜好大麻合法州となって以降、大きく加速しているように見えます。

4年前、トランプ大統領が誕生するというショッキングな出来事の裏で、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ネバダ州、メーン州の4州で嗜好大麻が合法化され、アーカンソー州、フロリダ州、ルイジアナ州、ノースダコタ州、オハイオ州、ペンシルバニア州で医療大麻が合法化されるという、大麻合法化活動における大きな進展がありました。

そして 2020年。民主党が政権を奪還したと同時に、大麻合法化に関連した6つの住民投票が全て可決されました。

– アリゾナ州で嗜好大麻合法化
– ニュージャージー州で嗜好大麻合法化
– モンタナ州で嗜好大麻合法化
– ミシシッピ州で医療大麻合法化
– サウスダコタ州で医療・嗜好大麻合法化

その結果アメリカでは、35州とワシントン DCで医療大麻が、また 15州とワシントン DCでは嗜好大麻も合法となったわけです。

これを待っていたわけではないでしょうが、12月2日、国連麻薬委員会(CND)で、ある重要な決議がありました。2019年1月に WHO が国連にあてて、1961年の「麻薬に関する単一条約」および1971 年の「向精神薬に関する条約」に定められた規制薬物の分類の見直しを求める6つの勧告を行っており、これを国連として受け入れるかどうか、 CND のメンバー 53か国による投票が待たれていたのです。2度にわたる延期の後にようやく行われた2日の投票で CNDは、勧告のうちの一つ、「1961年の単一麻薬条約に定められたスケジュール IV の規制物質リストから大麻草を除外する」ことを、賛成 27か国、反対 25か国、棄権1か国という結果で承認しました。これは、大麻に医療効果があることを国連が認めたということを意味し、単一麻薬条約制定後 60年を経て、大麻に対する世界の認識が大きく変化したことを示していると言えます。(日本は反対票を投じています。)

さらにその翌日、12月3日には、米下院を MORE Act が通過するという大事件がありました。MORE Act とは、Marijuana Opportunity Reinvestment and Expungement Act の略です。


昨年民主党のルイス・ナドラー下院議員とカマラ・ハリス上院議員(当時)によってそれぞれ下院と上院に提出されたこの法案は、

• 大麻を規制物質の一覧から除外する
• 過去に大麻関連の非暴力犯罪で刑罰を受けている人の犯罪記録を抹消
• 大麻製品に課される 5% の税金を、刑事司法制度と社会改革のためのプロジェクトに充当する
• 大麻の使用を理由に連邦政府による公益事業の対象から外すことを禁止

など、これまで「麻薬撲滅戦争」によって不当に締め付けられてきたマイノリティのコミュニティを救済し、公正さを取り戻そうとする内容です。残念ながら今回の選挙で民主党議員が過半数を獲得するには至らなかった上院でこの法案が可決する可能性は低いと思われますが、少なくとも下院でこの法案が可決したことは、アメリカの大麻合法化の歴史の上で非常に大きな意味を持っています。

さらに、バイデン・ハリス陣営は大統領選のキャンペーン中、当選したら大麻を非犯罪化すると繰り返し公言してきました。(非犯罪化と合法化の違いについてはこちらの記事をご覧ください。)さまざまな理由から、公約をそのまま実行することが必ずしも容易でないことは誰もが知っていますが、民主党政権下のアメリカが、「大麻の非犯罪化」に向けて動き出すであろうことはおそらく間違いありません。

党派を超えて

さて、先ほどの地図に、2020年の大統領選挙の結果と、同時に行われた大麻合法化をめぐる住民投票の結果を反映させるとこうなります。

左 https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3532565 (06:19, 20 November 2020)
右 https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2370050 (14:48, 4 November 2020)

左の地図では赤、つまり共和党支持者が多いのに、大麻の合法化に関しては歩を進めた州があるのがおわかりでしょうか。モンタナ州、アリゾナ州、サウスダコタ州、ミシシッピ州です(黄色い星のマークで示しました)。

この傾向は 2016年の大統領選の際にもすでに見られ、また世論調査もこれを裏付けています。ギャラップ社が今年9〜10月にかけて行った最新の世論調査では、成人の68%が大麻の合法化を支持しているという結果でした。これは史上最高の支持率です。

https://news.gallup.com/poll/323582/support-legal-marijuana-inches-new-high.aspx

こうして見ると、アメリカではすでに「大麻合法化」というイシューは党派を超えた「国民の総意」となりつつあると言えるように思います。

バイデンが勝ったとは言え、実はトランプは未だに敗北を認めていないどころか、民主主義政治の根幹である選挙制度の正当性を否定するような「悪あがき」を続けています。そしてそれを支持するトランプ・サポーターの数の多さには驚くばかりです。トランプ政権の4年間がアメリカにもたらした最大の悲劇は、恐怖と嫌悪によってアメリカが2つに分断されてしまったことでしょう。そんなアメリカで、唯一国民が支持政党に関係なく合意できるのが大麻の合法化であるとしたら、2020年の大統領選の本当の勝者は、大麻なのかもしれません。

文責:三木直子(国際基督教大学教養学部語学科卒。翻訳家。2011年に『マリファナはなぜ非合法なのか?』の翻訳を手がけて以来医療大麻に関する啓蒙活動を始め、海外の医療大麻に関する取材と情報発信を続けている。GREEN ZONE JAPAN 共同創設者、プログラム・ディレクター。)

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