大麻草でがんは治せるか? クラブハウス・セッションからの報告 – 01

2021.08.22 | 大麻・CBDの科学 海外動向 病気・症状別 | by greenzonejapan
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大麻草でがんは治せるか? クラブハウス・セッションからの報告 – 01
2021.08.22 | 大麻・CBDの科学 海外動向 病気・症状別 | by greenzonejapan

6月からクラブハウスで『大麻草でがんは治せるか?』というタイトルのルームを不定期で開催しています。これは、がん治療と医療大麻の関係に焦点を絞って、世界各地で進む研究や医療現場の生の声をお伝えすることを目的としたルームです。

これまで、ドキュメンタリー映画『Schedule 1』を制作した、自身が卵巣がんと闘病中のミシェル・ケンドールさん、シアトルのディスペンサリー Dockside で医療大麻コンサルタントとして患者へのアドバイスを行っている看護師のリサ・ブキャナンさん、同じくシアトルの AIMS Institute で医療コンサルタントをしているメアリー・ブラウンさんをゲストスピーカーとしてお招きし、活動内容についてお話しを伺い、また参加者からの質問に答えていただいています。 第5回目には、このルームのタイトルとなった『大麻草でがんは治せるか?』(原題:Cannabis for the Treatment of Cancer)の著者、ジャスティン・カンダーさんをお招きして、現在大麻由来のがん治療薬を開発中の製薬会社について聞きました。その元となったジャスティン自身のブログ記事の翻訳をお届けします。


がん治療薬としての大麻研究に取り組む製薬会社

医療大麻市場はこの10年で大きく拡大しており、その成長は今後も続くと考えられています。2020年の推定市場規模は 134億ドル、2025年には 444億ドルに届くと予測されています。この拡大は、不眠、不安、ストレス、疼痛といった一般的な疾患のために大麻を使う人が増えたことによるものです。医療大麻の利用はまた、がんの症状や抗がん剤治療に伴う副作用の緩和とも深く関連しています。こういう形での医療大麻利用が、エイズ患者の治療とともに、個別の州による医療大麻の合法化の第一波につながったのです。その後の医療大麻市場の拡大に刺激され、複数の製薬会社が医療大麻産業に参入し、特定の目的を持つ標準医薬品の開発を始めています。その中のいくつかは、医療大麻の新しくて画期的な用途を模索しています——がんの治療です。

大麻草から単離される成分カンナビノイドに、がんの治療に役立つ可能性があるということは、実は随分前から知られていました。1974年には、バージニア大学の研究者が、テトラヒドロカンナビノール(THC)がマウスの肺がんの成長を遅らせることを示しました。以降、数十の基礎研究(人ではなく培養細胞または動物モデルを使った研究)が、THC とカンナビジオール(CBD)が動物におけるさまざまな種類のがん細胞を殺す、あるいは縮小させることを明らかにしています。2007年にカナダのダルハウジー大学が発表した総説は「CBDによる治療が、肺がん、乳がん、大腸がん、前立腺がん、黒色腫、白血病、子宮頸がん、脳腫瘍、神経芽細胞腫、および複数種の骨髄腫のがん細胞に対して数多くの抗がん作用を発揮」と要約しています。また、乳がん、脳腫瘍、肺がん、皮膚がん、肝臓がん、膵臓がん、前立腺がん、大腸がん、子宮頸がん、口腔がんのがん細胞の成長を THC が阻害したことを示す研究についても分析されています。このエビデンスが非常に深くまた強力なものであることを考えれば、人間のがんを治療するためにカンナビノイドを用いることを製薬会社が考えるのも驚くには当たりません。

試験管や動物を使っての実験で効果が認められたからと言って、それが人間にも当てはまるとはかぎりませんが、幸いなことに、その後明らかになっている科学的なエビデンスは、大麻は実際の患者に対してもある程度の抗がん作用を発揮することを示唆しています。先ごろ Jazz Pharmaceuticals に買収されたイギリスの製薬会社、GW製薬は、長年にわたってカンナビノイドによるグリオブラストーマ(膠芽腫)の治療の可能性について研究しています。グリオブラストーマは脳腫瘍の中でも特に重篤なもので、標準治療(抗がん剤治療と放射線治療)を受けても生存期間中央値はわずか 15か月ほどです。ですから、GW製薬による、グリオブラストーマに対して大麻由来の THC/CBD 製剤を抗がん剤(テモゾロミド)と併用した二重盲検プラセボ対照試験の結果は、ことさらの重要性を持っています。2021年 2月に発表された臨床試験の結果によれば、THC/CBD製剤をテモゾロミドと一緒に投与された患者の 83.3%が1年後に生存していたのに対し、テモゾロミドと偽薬を投与された患者では生存率は 44.4%でした。さらに、2年経った時点での生存期間中央値は、大麻製剤を摂った集団では 21.8か月、偽薬を摂った集団では 12.1か月でした。

生存期間がこれほど改善した原因の説明として一番妥当なのは、カンナビノイドが抗がん剤とともにがんの進行を阻害した、ということです。事実、基礎研究の結果は、THC と CBD はいずれもテモゾロミドとの相乗効果を発揮するということを明確に示しています。たとえば、スペインのコンプルテンセ大学が 2011年に発表した論文には、「テモゾロミドと最大下用量の THC と CBD の併用によって、テモゾロミドが奏効する腫瘍と奏効しない腫瘍の両方に対して抗がん作用を発揮した」と書かれています。

臨床試験を完了しているのは GW製薬だけですが、他にも、基礎研究を終え、臨床研究の準備をしている会社が多数あります。興味深いことに、大麻由来で抗がん作用のある化合物に対する関心は、そのほとんどが THC と CBD に向けられていますが、メリーランド州にある Flavocure Biotech という会社は、全く異なる種類の化合物に注目しています。大麻草には、カンナビノイドの他にも、多種多様な植物に含まれ、さまざまな生物保護機能を果たす他、花の色の元ともなっているフラボノイドが含まれています。Flavocure Biotech と国立衛生研究所が出資し、ハーバード大学医学部の Dana-Farber Cancer Institute によって 2019年に行われた研究では、FBL-03G と呼ばれる大麻草由来のフラボノイドがマウスの膵臓がん細胞を殺し腫瘍の成長を遅らせることが示されました。この研究の結果により、FBL-03G(Caflanone とも呼ばれます)は FDA によって、膵臓がん治療用のオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)に指定されました。オーファンドラッグに指定されるというのは、正式に販売が承認されるということではありませんし、その効果が是認されたわけでもありませんが、希少な疾患の治療薬開発を奨励するものですし、その治療法に効果があるという可能性を示すきちんとした科学的論拠がなければ与えられるものではありません。FDA が Caflanone にオーファンドラッグ指定を与えた、という事実は、この化合物が膵臓がんの治療に役立つ可能性が本物である証拠なのです。

他にも、がん治療のための大麻由来製品にオーファンドラッグ指定を受けている企業がいくつもあります。当然ながら GW製薬は、グリオーマ(神経膠腫。グリオブラストーマはグリオーマの一種)に対するオーファンドラッグ指定薬を持っています。アリゾナ州にある Benuvia Therapeutics は、グリオブラストーマの治療に対する CBD のオーファンドラッグ指定を受けています。その後の開発状況は不明で、Benuvia Therapeutics は他の、大麻由来ではない製品により注力しているように見えます。

Axium Pharmaceuticals はノースカロライナ州にある小さな製薬会社ですが、2018年1月に、やはりグリオブラストーマの治療薬としての CBD と THC にオーファンドラッグ指定を受けています。現在の状況はわかりませんし、この会社にはウェブサイトがないようですが、オーファンドラッグの指定を受けているということは、何か具体的な開発が進行中であるということを示唆しています。

ペンシルバニア州の Diverse Biotech は 2020年 4月に、グリオブラストーマの治療のための CBD に対してオーファンドラッグ指定を受けました。ウェブサイトに掲載された 2020年 3月付の記事には、さらなる研究を進めるためにデューク大学医療センターと提携したと書かれています。デューク大学のスティーブ・キアー教授は、「Diverse Biotech と協力して、彼らの CBD製剤が我々のグリオブラストーマ・モデルに与える効果を評価できるのを嬉しく思います。当研究所の大きな目標の一つは、この疾患の治療結果を改善することであり、新薬の基礎実験はそのための第一歩です」と述べています。

ここまでの例は主にグリオブラストーマを対象とするものですが、Tetra Bio-Pharma というカナダの製薬会社は、肝臓がんの中で最も多い肝細胞がんの THC による治療に関心を持っており、この使用目的でのオーファンドラッグ指定を2019年11月に取得しています。ウェブサイトの新薬開発状況のページを見ると治験はその後進んでいないようですが、2021年 5月の記事には、THC と CBD をがん性の突出痛の治療に使う治験に最初の患者が登録されたと書かれており、カンナビノイドを他の形でがん治療に使う研究を進めているようです。

Can-Fite BioPharma は、主に単一標的の合成医薬品を開発しているイスラエルの企業です。ここもまた、CBD と THC を肝臓がんの治療に使う研究をしており、初期の基礎実験は、CBD:THC 比率が 5:1 の製剤が肝臓がん細胞の増殖を阻害することを示しました。今後の研究の予定は明らかではありませんが、この発見に関連した特許を申請しています。

メリーランド州にある Cannabis Pharmaceuticals は、研究開発をイスラエルで行っています。カンナビノイドを使ったがん治療に特に注力しており、ウェブサイトのトップページから直接、大麻由来の大腸がん治療薬を開発するという目標についてのより詳しい情報に飛べるようになっています。2021年 3月のプレスリリースは、候補薬である RCC-33 が、ヒト大腸がん細胞株を移植されたマウスで生存期間が 35% 延長したと述べています。RCC-33 の成分配合は不明ですが、説明には精神作用はないと書かれており、したがって、高CBD、あるいは他の、THC 以外の大麻成分が含まれていると考えられます。

Apollon Formularies はイギリスの製薬会社ですが、その事業のほとんどは、ジャマイカの提携会社 Apollon Formularies Jamaica Limited で行われているようです。Apollon Formularies Jamaica Limited は、大麻製品の栽培、製造、販売に関して国の認可を得ています。2021年 5月に発行されたプレスリリースでは、Aion Therapeutics という会社との協働で、医療大麻製剤と(精神活性のない)医療用マッシュルーム製剤の組み合わせが、HER2+ の乳がん細胞をほぼ 100% 死滅させたという基礎実験の結果が報告されました。Apollon Jamaica の CEO であるポール・バークは、ジャマイカの、経済的理由で標準治療を受けられない女性たちのために、「できるだけ早くこの製剤の販売を開始したい」と述べています。さらに 2021年 6月 14日付のプレスリリースには、Apollon がジャマイカ初の国際がん治療センターのための長期賃貸借契約を結び、患者の治療に向けた準備を始めたと書かれています。

フロリダ州の Enveric Biosciences は、グリオブラストーマの治療のほか、放射線皮膚炎と抗癌剤治療が原因の末梢性ニューロパシーの治療にカンナビノイドを使うことに焦点を当てて研究を行っています。2021年 4月の記事には、CBD とその他のがん治療薬をグリオブラストーマに対して使う第1相と第2相の臨床試験をイスラエルで行う準備中であると書かれています。すでに仮承認を受け、イスラエルの病院と保健省からの最終許可を待っているところです。

Pascal Biosciences は、アメリカとカナダに拠点を持ち、同じくカンナビノイドをグリオブラストーマ治療に使うことを研究の主眼としています。ただしこの会社がユニークなのは、カンナビノイドと免疫療法の薬剤を組み合わせて効果を高める研究をしている点です。このカンナビノイド製品は半合成で、純粋な大麻草からの抽出物だけではないようです。Pascal Biosciences は 2021年中にグリオブラストーマに対する臨床試験を始める予定で、2020年 9月のプレスリリースでは、免疫療法の薬の安全性試験を始める旨を発表していますが、具体的な日程は述べられていません。

これほど多くの製薬会社がカンナビノイドによるがん治療の可能性を追求しているということには本当に驚くばかりです。かつてなかったこれほどの関心が集まっているのは、その効果に関する強固な科学的エビデンスと可能性があるという証拠でしょう。いずれはがん治療に大麻由来医薬品を使うという選択肢ができるものと思われますが、患者にとっては、高THC および高CBDのフルスペクトラム製品を居住州の医療大麻制度を通じて選び、入手することが常に可能でなければなりません。大麻由来の医薬品のみが唯一の選択肢となるのは、患者にとっても社会全体にとっても好ましいことではありません。とは言え、がん治療のための大麻研究にこれほど多くの企業が参与しているというのは素晴らしいことです——それによって臨床試験データの蓄積が加速し、がん治療に効果的なプロトコルの発見を促進することになるからです。


 

クラブハウスの連続シリーズ『大麻草でがんは治せるか?』は今後も不定期で開催予定です。次の開催日時を知りたい方は、クラブハウスで @naokomiki をフォローしていただくとお知らせが届きます。ツイッターアカウント(@greenzonejapan)でもお知らせします。

文責:三木直子(国際基督教大学教養学部語学科卒。翻訳家。2011年に『マリファナはなぜ非合法なのか?』の翻訳を手がけて以来医療大麻に関する啓蒙活動を始め、海外の医療大麻に関する取材と情報発信を続けている。GREEN ZONE JAPAN 共同創設者、プログラム・ディレクター。)

 

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