医療大麻と潰瘍性大腸炎、クローン病

2021.09.02 | 大麻・CBDの科学 病気・症状別 | by greenzonejapan
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医療大麻と潰瘍性大腸炎、クローン病
2021.09.02 | 大麻・CBDの科学 病気・症状別 | by greenzonejapan

◯腸の自己免疫疾患と大麻

医療大麻が有望視されている病気の一つに、潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)などの自己免疫性の腸炎があります。両者は別の疾患概念ですが、共通点も多いため、併せて炎症性腸疾患(IBD)として扱われます。Green Zone Japanは、2018年に安倍晋三元総理が自身の潰瘍性大腸炎に対して、CBDオイルを使用しているという報道が認められた際や、2019年にクローン病に対して医療大麻を使用していた成田賢壱氏が新宿区議選に出馬した際に、これらの疾患と大麻についての記事を掲載しています。今回は両疾患に対する近年の研究結果を改めて評価したいと思います。

◯コクランの評価

大麻が炎症性腸疾患に対して効果があることは古くから知られており、1990年には症例報告が書かれています。決定的な治療法がないこの領域においては、大麻の使用は倫理的に正当化されやすく研究報告も比較的多く認められています。その結果として、2018年にはコクラン(国際的非営利団体でシステマティックレビューには定評がある)により、潰瘍性大腸炎とクローン病のそれぞれに対して、大麻の有効性についてのレビューが作成、公開されました。

(それぞれの論文は以下からアクセスが可能です。潰瘍性大腸炎治療薬としての大麻“”クローン病治療薬としての大麻“)

 

潰瘍性大腸炎と大麻については、2018年1月の時点で関連する学術報告(調査中を含む)は66本存在しました。しかしコクランが評価に値すると研究デザイン(プラセボ・実薬と比較したRCT)を満たすスタディーは2本に留まりました。

1本目がPeter IrvingらのUKのチームの研究で、微量なTHCを含むCBDを100~500 mg/day投与しプラセボと寛解率を比較した研究です。この研究では、CBDを摂取した群ではQOLの改善が認められたものの、症状が改善した割合(31%)はプラセボ群(22%)と比較し、統計学的な有意差が認められませんでした。

2本目がテルアビブ大学の消化器内科医、Timna Naftaliらのイスラエルの研究チームでした。彼女らはその他の治療に反応しないUC患者32名を二群にわけ、一方にはTHC23 mg/dayを含む大麻タバコを、もう一方にはプラセボを与え、臨床的な寛解率を比較する試験を行いました。コクランがレビューを行った時点ではNaftaliは有効性についての結果を報告していませんでした。

これら2本の研究結果を総合し、コクランレビューは“現時点での有効性は不確実でさらなる調査が必要“と結論しました。

同様にクローン病と大麻についての研究結果をシステマティックレビューしたところ、2018年10月までに63の報告が認められ、そのうちRCTに該当するものは3本でした。1本目はイスラエルのNaftaliらによる2013年の報告です。この研究は症状が増悪しているクローン病患者21名を対象とし、単一施設で行われました。実薬群(11名)には大麻タバコを1日2本(THC 115mgを含む)、プラセボ群(10名)にはTHCを抜いたものを投与し8週間治療したところ、大麻を喫煙した群では5名が寛解したのに対して、プラセボ群では1名に留まりました。

2本目の報告も再びイスラエルのNaftaliらによるものです。この研究では患者には20 mg/dayのCBDもしくはプラセボが与えられ、8週間の治療期間の後の重症度が比較されました。両群間には有意な違いは認められませんでした。

3本目もイスラエルのNaftaliによる研究です。こちらの研究では56名のクローン病患者を2群に分け、CBD:THC=160 mg/40 mgを含有する大麻オイルを8週間服薬させました。コクランのレビュー時点ではQOLのスコアに有意差が認められましたが(96.3vs79.9)、それ以外の結果はコクランの解析時には未報告でした。

これらの結果を総合し、コクランはやはり“現時点では有効性については不確実で更なる調査が必要“と暫定的に結論しています。

 

◯実臨床との乖離、エビデンスの限界

このように世界的権威であるコクランが“有効性は不確実“と述べている一方で、実生活ではますます多くの患者さんが医療大麻にアクセスするようになっています。実際に2020年に報告されたオーストラリアの調査では、IBD患者の18%が大麻を使用しているとの結果が得られています。

この乖離はなぜ生じるのかについては、以前の「医療大麻とエビデンスについて、知っておくべきこと」という記事で考察しました。

最大の理由は、医療大麻が物質特許の切れた薬草であり、処方箋医薬品としての薬事承認を目指す企業が存在しないため、RCTのような費用のかかる試験デザインでの研究が計画されづらいからだと考えられます。

しかし、良心のある医師や研究者による小規模なスタディは、コツコツと積み重ねられており、2019以降に新たに執筆された論文では、クローン病&大麻=32報、潰瘍性大腸炎&大麻=23報がヒットします。(※重複の可能性があります)

 

◯Naftaliの最新報告

それら中には、コクランがレビューを作成した時点では最終報告がなされていなかった、イスラエルのNaftaliの両疾患に対する報告が含まれます。

潰瘍性大腸炎については、2021年2月に論文が出版されています。果たして、THCを23 mg含む大麻タバコを使用した群では重症度が10.9→5.0に改善したのに対して、プラセボ群では11.0→8.0に留まりました。QOLのスコアに関しても、大麻を喫煙した群では77→98へと改善しましたが、プラセボ群では変化がありませんでした。

またクローン病についても、2021年4月に学術報告が掲載されました。大麻オイル(CBD:THC=160:40 mg)を服用した群では、重症度スコア(CDAI)が282→166へと改善したのに対してプラセボ群では264→237に留まりました。QOLの改善も実薬群のみに認められました。

もしもこれらの結果がコクランレビュー作成に間に合っていたなら、コクランの評価はより高いものとなっていたでしょう。合法地域における両疾患での医療大麻の活用は今後、より一層広がっていくと考えられます。

 

執筆:正高佑志(一般社団法人Green Zone Japan代表理事。医師。著書に「お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)」)

 

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