大麻の合法化は製薬業界の利益を破壊するか?

2023.02.17 | 経済 | by greenzonejapan
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大麻の合法化は製薬業界の利益を破壊するか?
2023.02.17 | 経済 | by greenzonejapan

大麻の合法化を妨げているのは、合法化されると薬が売れなくなることを恐れる製薬業界だという主張はしばしば耳にします。
この主張には(少なくとも米国においては)ある程度の根拠が認められます。
製薬業界は長年大麻の有害性を研究する団体などに資金を提供してきたこと、大麻のスケジュール変更の提案に対して、”シンドロス”という合成THC製剤を販売するインシス製薬が見直しを止めるようDEAに働きかけたこと、上記のインシス製薬はアリゾナ州の合法化反対運動に50万ドルもの大金を供給していることなどが過去にワシントンポストによって報道されています。
医療大麻の万能薬ぶりがこの説に信憑性を与え、議論を加熱させているのは間違いありませんが、では実際のところ、大麻が合法化されたら医薬品市場は壊滅的な打撃を受けるのでしょうか?
この点について、過去の各州の合法化が株式市場における製薬業界に与えた株価への影響から、医薬品市場へ与えるインパクトを試算しようというユニークな試みがカリフォルニア工科大学の経済学者らによってなされています。

著者らは1996年から2019年までの間に米国で起きた医療大麻・嗜好大麻の合法化前後における製薬業界の株価への影響を、ファクタープライシングモデルという手法を用いて解析しました。すると製薬業界の平均株価は合法化の10日後時点で、1.5~2%低下していることが明らかになりました。これは統計学的に有意な値でした。

次に筆者らは”価格対売上高比率”と呼ばれる係数を用いて、株価の変化が業界の年間総売上に与える影響を試算しました。この係数は、類似の業態であれば株価と売上高は概ね相関することを利用し、業界・年次ごとに固有の値が算出され、係数に株価、発行株式総数をかけることで大まかな売上高を類推できるようになっているようです。

この結果、一回の合法化イベントが製薬業界の年間売り上げ高に与える影響は、平均30億ドルと試算されました。ちなみに嗜好大麻の合法化が与える影響は、医療大麻のそれと比べて2.3倍大きかったとのことです。

2017年米国における処方箋薬市場は3330億ドル、OTC医薬品市場は230億ドル程度の規模と見込まれています。医療大麻合法化が医薬品売上に与える影響が24億ドルであることから、仮に残りの16州で医療大麻が合法化されると、試算上、米国の医薬品市場は10.8%縮小することが見込まれるようです。

これはイタリアでのCBD製品の合法化で起きた市場縮小よりも大きな変化です。米国の医薬品市場が巨大であることが影響していると思われます。
10%の市場縮小は大きな影響と言えますが、一方で製薬業界に壊滅的な打撃を与えるとも言えないでしょう。実際にどの程度の影響があるか、遠くない未来に我々は知ることになるはずです。

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)

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