アメリカの大麻スケジュール変更についての解説

2024.05.01 | 海外動向 | by greenzonejapan
ARTICLE
アメリカの大麻スケジュール変更についての解説
2024.05.01 | 海外動向 | by greenzonejapan

2024年4月30日、アメリカ合衆国が大麻の規制を見直すことが大きく報道されました。この内容に関して、Q&A形式で背景知識を整理します。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN30D9Y0Q4A430C2000000/

Q1:アメリカって既に大麻OKじゃなかったっけ?
A:州によっては州法でOKでしたが、国全体の法律ではダメゼッタイ!でした。

アメリカ合衆国では“州法“と“連邦法“の二種類のルールが存在します。日本と違うのは、“州法“は住民投票で改正される場合があること、そして連邦法と独立していることです。
すでに米国では38州+首都ワシントンが医療用大麻を合法化し、娯楽用の使用も24州で合法となっているため、合法州の警察は大麻で逮捕することはありませんでしたが、FBI(連邦警察)や DEA(連邦麻薬取締局)などの国直轄の機関は大麻に対して厳しい姿勢で接してきました。
アメリカのディスペンサリーではクレジットカードが使えないのですが、これも連邦政府が大麻を規制している都合で、“黒い取引“=カード会社のコンプラNGなわけです。そもそも大麻企業やディスペンサリーは銀行口座すら作れません。

Q2:似たようなニュースがこの前もあった気がするけれど、何が新しいの?
A: 最終決定権のあるDEA(連邦麻薬取締局)が規制変更を発表したことが重要です

大麻関連のニュースをチェックしている方は、2022年10月6日にバイデン大統領が大麻政策の過ちを認めたニュースを覚えていることでしょう
https://jp.reuters.com/article/idUSKBN2R20DL/
この際に大統領は、連邦保健福祉省(HHS:日本における厚労省)に大麻規制の変更について、具体的にどうすればいいか考えるように指示しました。指示を受けたHHSは2023年8月29日、DEA(麻薬取締局)に対して、大麻をスケジュールⅠからⅢへ変更するよう勧告をおこなっています。
https://forbesjapan.com/articles/detail/65671

DEAとは日本におけるマトリに似た薬物規制を専門とする警察組織ですが、日本のマトリが厚労省の下部組織に当たるのに対して、DEAはHHSと並列の関係にあります。日本の厚労省と警察省の関係を想像してください。
実は過去にもアメリカでは大麻はスケジュールⅠで規制する必要はない安全な物質であることを明示した公的な報告書や勧告は度々出ているのです。(ラガーディア委員会1944、シェーファー委員会1972、NIDA報告書1976、国立科学アカデミー1982、DEA報告1988、米国科学アカデミー2017)しかし残念ながら、これらの動きは政治的には無視され続けてきました。今回、最終的な裁量を有するDEAがスケジュール変更の方針を発表したことは、大きな意味があります。

Q3:スケジュールって何?ⅠからⅢってどういうこと?
A:スケジュールとは規制物質のランク付けです。スケジュールⅢは筋肉増強剤やコデイン(咳止めシロップ)と同じレベルです。

日本では覚せい剤と危険ドラッグ以外の違法薬物は、全て“麻薬“として法律上同じ扱いになっていますが、アメリカではスケジュールと呼ばれる仕組みによって5ランクに分類されています。サッカーのJ1、J2みたいなものを想像してください。スケジュールⅠが最も規制が厳しく、数字が下がるほどに扱いが寛容になるので、スケジュールⅤが最も扱いやすいということになります。スケジュールⅠの物質は医療的な利用も禁止されているというのが大きな特徴でした。それぞれのクラス毎の代表的な物質を列挙します。

スケジュールⅠ:LSD、ヘロイン、MDMA、DMT
スケジュールⅡ:コカイン、アンフェタミン、リタリン、オピオイド鎮痛薬(医療麻薬)
スケジュールⅢ:筋肉増強剤(ステロイド)、コデイン、ケタミン、バルビツール系睡眠薬
スケジュールⅣ:ベンゾジアゼピン系睡眠薬・精神安定剤
スケジュールⅤ:リリカ、少量のコデイン

今回の見直しによって大麻はある種の睡眠薬やステロイドと同程度の扱いになる予定です。

Q4:具体的には何が変わるの?
A:医療使用がOKになりますし研究が進みます。ビジネス上も多大な影響があるでしょう。

現時点では確かなことは言えませんが、アメリカの大麻業界に劇的な影響があることは間違いありません。これまでアメリカでは大麻を投与する研究は連邦法の制限で倫理的に行うことができませんでした。今回の変更によって、ようやく足枷が外れることになります。公的資金で運営されている老人ホームでも大麻を使うことは禁じられていました。これも変化があるでしょう。大麻ビジネスを取り巻くインフラもこれで整備が進むでしょうし、州境を超えた大麻の売買も可能になるかもしれません。未だ大麻が違法となっているそれぞれの州法にも時間差で大きな影響があるでしょう。

Q5:日本への影響は?
A:直ちに変更はないでしょうが、間接的な影響は徐々に大きくなることが予想されます。

日本では昨年11月に大麻取締法改正案が国会を通過し、大麻は麻薬に分類されることになりました。今回アメリカ連邦法で、大麻が分類されるスケジュールⅢの物質にはケタミンなどが含まれます。ケタミンは日本では麻薬に指定されているので、変更後の分類と日本の法律上の大麻の扱いは一応の矛盾はないことになります。おそらく厚生労働省は、“アメリカも合法化(スケジュール指定から完全除外)した訳ではない“というロジックによって、現行の管理体制を正当化するでしょう。
とはいえ、アメリカのスケジュールは国際条約に対しても大きな影響を持ち得ます。(国連のスケジュールはUSのスケジュールと仕組みが異なり、2020年1月に大麻は61年条約のスケジュールⅠに変更されています。https://www.greenzonejapan.com/2020/12/05/cnd_vote/)今後、国際法上の大麻の扱いがよりカジュアルな方向に転換されることが予想されます。
アメリカのメディアの内容は日本にも直接翻訳で入ってくるものが多いことを考えると、メディアでの肯定的な内容も増えることが予想されます。連邦規模で大麻を大規模に扱う企業が出てくることは、中長期的には日本への政治的な圧力にもつながる可能性が高いと考えられます。

執筆:正高佑志(医師・Green Zone Japan代表理事)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

«
»