2003年vs2023年:オランダの未成年が考える「本当に有害な薬物」の変遷

2026.02.02 | 安全性 海外動向 | by greenzonejapan
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2003年vs2023年:オランダの未成年が考える「本当に有害な薬物」の変遷
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若者の間での物質使用(タバコ、アルコール、大麻)は、単なる個人の選択ではなく、社会的な政策、文化的な背景、そしてそれらに対する「有害性の認識」と密接に関わっています。オランダで実施された20年間にわたる大規模調査「オランダ全国学校物質使用調査(DNSSU)」の結果から、この20年で若者たちの行動と意識がどのように変化したのか、その詳細な実態が明らかになりました。本記事では、論文に基づき、2003年と2023年の使用率の具体的な数値を比較しながら、その背景にある社会的要因や有害性認識の変化について深く掘り下げます。

物質使用と「有害性の認識」の深い関係

まず、なぜ「有害性の認識(どれだけ危険だと思うか)」を調査することが重要なのでしょうか。ソースによれば、有害性の認識と実際の使用の間には、双方向の逆相関関係が存在します。認識が行動を抑制する:ある物質を「有害である」と強く認識している若者は、その物質を使用する可能性が低くなります。使用が認識を変える:物質の使用経験(ポジティブな体験もネガティブな体験も)は、その後の有害性に対する認識を形成します。また、「認知的不協和」によって、物質を使用している本人が、自分の行動を正当化するために有害性を過小評価する場合もあります。この20年間、オランダではタバコやアルコールの使用が大幅に減少しましたが、それと同時に若者たちの「認識」も劇的に変化してきました。

タバコ:規範の変化と「使用率」の激減

タバコに関するデータは、20年間で最も劇的な変化を示した項目の一つです。オランダ政府の強力な禁煙政策が、若者の意識と行動を根底から変えたことが数字に表れています。

使用率の推移(2003年 vs 2023年)
ソースに記載された統計に基づくと、12歳から16歳の若者におけるタバコの使用率は以下のように激減しました。
生涯使用率(一度でも吸ったことがある):
2003年:43.7%
2023年:16.1% (27.6ポイントの減少)

過去1ヶ月間の使用率:
2003年:18.9%
2023年:8.5% (10.4ポイントの減少)

毎日の使用率:
2003年:8.4%
2023年:2.2% (6.2ポイントの減少)

有害性認識の変化とその背景
2023年には、「時々タバコを吸うこと」を有害だと考える学生は82.7%に達しましたが、2003年当時はわずか29.0%でした。この認識の普及(54.1ポイントの上昇)が、使用率の低下に大きく貢献しています。この背景には、以下のような多角的な政策転換があります:
タバコ税の大幅な増税。
学校内、公共交通機関、公共の場での禁煙。
販売店舗の削減と、警告画像付きプレーン・パッケージの導入。
「煙のない世代(Smoke-Free Generation)」キャンペーン(2015年開始)による、タバコは「社会的にも不適切なもの」という規範の形成。

アルコール:最も大きな「絶対数」での減少

アルコールはオランダの若者にとって最も身近な物質でしたが、この20年でその「当たり前」が崩れ去りました。
使用率の推移(2003年 vs 2023年)
アルコールの使用率は、すべての物質の中で最大の減少幅(絶対的なポイント差)を記録しています。
生涯使用率(一度でも経験あり):
2003年:84.2%
2023年:39.6% (44.6ポイントの減少)

過去1年間の使用率:
2003年:77.0%
2023年:34.6% (42.4ポイントの減少)

過去1ヶ月間の使用率:
2003年:57.1%
2023年:22.0% (35.1ポイントの減少)

社会的規範のシフトと政策
2003年には、若者の約84%がアルコールを経験し、半数以上が月に1度は飲酒していたという事実は驚くべきものです。しかし、2014年に最低購入年齢が16歳から18歳に引き上げられたことが大きな転換点となりました。また、「NIX18(18歳未満は飲まない、吸わない)」キャンペーンが、若者、親、そして店舗の意識を向上させました。その結果、「毎日1〜2杯の飲酒」を有害だと考える若者は、2003年の42.4%から2023年には82.7%へと、約40ポイントも上昇したのです。

大麻(カンナビス):低下する有害性の認識

大麻に関するトレンドは、タバコやアルコールとは異なる様相を呈しています。使用率自体は減少しているものの、その危険性を低く見積もる若者が増えているという傾向が見られます。

使用率の推移(2003年 vs 2023年)
大麻はもともとの使用率が他の物質より低いため、減少幅は小さく見えますが、それでも約半分に減少しています。

生涯使用率(一度でも経験あり):
2003年:16.7%
2023年:8.5% (8.2ポイントの減少)

過去1年間の使用率:
2003年:13.2%
2023年:7.0% (6.2ポイントの減少)

過去1ヶ月間の使用率:
2003年:7.9%
2023年:4.4% (3.5ポイントの減少)

なぜ認識が変化しているのか?
注目すべきは、「毎日大麻を使用すること」を有害だと考える若者の割合が、2003年の96.7%から2023年には91.3%へと減少(-5.4ポイント)している点です。

論文の著者らははこの理由として以下の要因を挙げています:

政策の議論: コーヒーショップでの販売容認に加え、近年オランダで始まった「大麻栽培の規制実験」などの社会的な動きが、大麻の有害性に対する警戒心を弱めている可能性があります。
タバコとの関係: ヨーロッパでは大麻はタバコと一緒に巻いて吸われることが多いため、タバコ使用の激減が、結果として大麻の使用を道連れに減らしたのではないか、という仮説が立てられています。

どのような若者がより「有害」だと感じているか?

調査では、属性によって有害性の認識に明確な差があることも示されました。
性別: 女子学生は男子学生よりも、タバコ、アルコール、大麻の使用を有害だと捉える傾向が強いことが示されています。
教育レベル: 大学進学準備課程(vwo)のような高い教育レベルの学生は、職業訓練課程(vmbo)の学生よりも物質使用の有害性をより高く認識しています。
年齢: 若い学生(12歳)の方が、年上の学生(15〜16歳)よりも大麻を有害だと考える傾向にあります。
使用経験の有無: 実際に物質を使用している若者は、使用していない若者に比べて、その物質の有害性を著しく低く見積もっています。

まとめ:将来への課題

過去20年間のオランダのデータは、社会的な政策、厳格な年齢制限、そして一貫したキャンペーンが、若者の意識と行動をポジティブに変える力があることを証明しています。特にアルコールとタバコにおける使用率の激減は、公衆衛生上の大きな成功と言えるでしょう。若者の健康を守るためには、使用率という「結果」だけでなく、彼らがその物質をどう捉えているかという「認識」の変化を、今後も注意深く見守っていく必要があります。

出典: Morren, K., Rombouts, M., & Monshouwer, K. (2026). Trends in perceived harmfulness of tobacco, alcohol, and cannabis and its’ use in 12–16-year-olds, from 2003 to 2023. Drug and Alcohol Dependence, 278, 113013.,,


執筆者: 正高佑志 Yuji Masataka(医師) 経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。 研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone  Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。 書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン) 所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員) 更新日:2026年1月27日

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