2026年4月23日、米国で医療大麻の規制区分が見直され、スケジュールⅠからⅢへの移行が実現しました。これは大麻の「医療的価値」が連邦レベルで認められたという点で歴史的な出来事です。
そもそも米国では、乱用性のある薬物はスケジュール1〜5という格付けにより分類されています。これまで大麻は最も厳しいスケジュールⅠ(ヘロインなどと同列)に置かれてきましたが、今回の動きにより、少なくとも医療用途に関してはスケジュールⅢ(バルビツール系睡眠薬と同列)として扱う方針となりました。
背景:トランプ単独の決断ではない
一部メディアの報道タイトルをみるとトランプ大統領の英断のような印象を受けますが、今回の動きはトランプ大統領が突然決めたものではありません。背景には長年の民意の変化があります。実際、米国では大麻合法化支持率は医療目的で90%、嗜好目的でも60%以上と多数派となっています。
制度的には、バイデン政権下の2023年に再分類の検討が進みましたが、最終的な権限を有するDEA(日本におけるマトリ)の審理過程で手続きの公正性を巡る疑義が生じ、プロセスは一時停止していました。エプスタイン文書やイラン戦争などにより国内で批判が高まるトランプ政権が、支持率向上を狙って規制緩和のプロセスを加速させた、というのが実態に近い理解です。(彼が本当に医療大麻に理解があるなら、大統領に就任した翌週にでも今回の大統領令を出すことは可能だったはずです)
医療大麻だけ?今後どうなるのか
今回の「即時的な変更」が影響する範囲は、主に州法で認められている医療大麻に限定されます。これは実務上、複雑な状況をもたらします。というのは、米国の多くの州では、医療用と嗜好用の両方が合法化されており、同一の製品が、同じ場所で区分なく販売されているからです。つまり“医療“か“嗜好“かという線引きは「製品」ではなく「使用者(患者として登録しているか否か)」で分かれているという構造です。
大麻全体のスケジュール変更については、6月29日から約2週間にわたるDEAの審理が予定されており7月中旬には結論が出ると言われていますが、これまでのDEAの姿勢を鑑みると見通しは不透明です。現時点の制度は過渡的で不安定な状態と言えます。
スケジュールⅢで十分なのか?
また重要なのは、スケジュールⅢへの移行は「合法化」ではないという点です。スケジュールⅢのままでは、連邦法上は依然として規制対象であり州境や国境をまたいだ流通や輸出入は原則不可 といった制約が残ります。大麻合法化を支持する勢力からは、スケジュール変更ではなく「デスケジューリング(規制対象からの完全除外)=合法化」を要求する声が大きいようです。
それでも大きいポジティブな影響
その一方で、実務的なインパクトは非常に大きいです。最大のポイントは税制です。これまで大麻ビジネスは、内国歳入法280E(いわゆる“嫌がらせ規定”)により、通常の経費控除が認められず、極めて高い実効税率を強いられてきました。スケジュールⅢになれば、この制約が外れる可能性があります。その結果、医療大麻ビジネスの収益性改善が見込まれます。また控除が認められるかは、誰に売るか(患者カードを持っている人に売った分は控除対象)に依存することを考えると、業界全体での医療大麻患者登録の増加 が見込まれます。
さらに重要なのは研究面です。これまでアメリカでは規制上ほぼ不可能だった臨床介入研究が、現実的に実施可能になります。これは医療大麻のエビデンス構築において決定的な意味を持ちます。
まとめ
今回の動きは「合法化」ではありませんが、医療としての大麻を正面から扱うための制度的土台が初めて整い始めたという点で極めて重要です。今後のDEA審理とその後の政治・司法プロセスが、この流れをどこまで前進させるかが次の焦点になります。
執筆: 正高佑志 Yuji Masataka(医師) 経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン) 所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)
執筆: 正高佑志 Yuji Masataka(医師)
経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。研究分野:臨床カンナビノイド医学 活動: 2017年に一般社団法人Green Zone
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