
医療大麻、患者は使っているのに医療者は詳しくない?
大麻を使用している患者を診た経験がある医療従事者は約9割にのぼる一方で、大麻の作用機序や適応症、リスクについての客観的な知識テストの正答率は驚くほど低かった――。そんな実態を明らかにした調査結果が、学術誌Journal of Cannabis Researchに掲載されました。
医療大麻が法制化される地域が世界的に拡大し、大麻を利用する患者と接する機会が増えている中、実際に処方や助言を行う立場にある医療従事者自身は、大麻についてどの程度理解しているのでしょうか。米ジョンズ・ホプキンス大学医学部の研究チームが、879名の米国医療従事者を対象に行った大規模調査から見えてきた「知識と態度のギャップ」を紹介します。
研究の背景:広がる大麻使用と、追いつかない医療者教育
大麻は世界で最も広く使用されている向精神物質の一つであり、医療目的・嗜好目的双方での合法化が進むにつれて使用者数はさらに増加しています。患者が大麻を使用している、あるいは使用を検討している場面に遭遇する医療従事者は増える一方ですが、多くの医療系教育カリキュラムでは大麻薬理学に関する体系的な教育がほとんど行われてこなかったという指摘があります。
その結果、医療従事者の間で大麻に関する知識や態度には大きなばらつきがあると考えられてきましたが、それを定量的に裏付ける大規模調査はこれまで限られていました。本研究は、この知識ギャップと臨床現場での態度の関係を明らかにしようとしたものです。
研究方法:879名の医療従事者への匿名ウェブ調査
研究チームは、米国の医療従事者を対象に匿名・横断的なウェブベースの調査を実施しました。参加者はまず人口統計学的な項目に回答した後、大麻に関する信念や態度についての自己報告式の尺度、そして大麻の治療適応、リスク、作用機序に関する客観的な知識テストに取り組みました。
収集されたデータは記述統計により分析されたのち、多変量線形回帰モデルを用いて、人口統計学的特性・知識・懸念の程度が、大麻の臨床使用に対する開放性(オープンさ)をどの程度予測するかが検討されました。
結果:知識テストの正答率はわずか13〜64%
調査に回答したのは879名で、内訳は女性71%、白人86%、平均年齢46歳でした。回答者のうち89%が、大麻を使用している患者を担当した経験があると回答しています。職種の内訳はメンタルヘルス専門職が29%、登録看護師が25%、医師が18%、上級実践プロバイダー(ナースプラクティショナー等)が15%となっていました。
自己評価による知識の高さは、大麻のリスクに関する項目が最も高く平均4.1点(5点満点)、次いで治療適応に関する項目が平均4.0点、作用機序に関する項目が平均3.5点でした。ところが、これに対応する客観的な知識テストの正答率は、いずれの領域でも13%から64%という低い水準にとどまっていました。つまり、自分では「よく知っている」と感じていても、実際の知識テストではその自信に見合う正答率が得られていなかったことになります。
大麻に関する知識の情報源としては、個人的な経験が76%、一般メディアが73%と最も多く支持されており、医学教育や専門的な研修を通じた情報獲得が主流ではないことがうかがえます。
態度面では、87%が大麻の治療的可能性を肯定的に評価し、74%が医療大麻を患者に勧めることに前向きであると回答、95%が医療目的での大麻の合法的使用を支持していました。一方で、臨床使用に関してよく挙げられた懸念としては、訓練を受けた医療提供者の不足が35%、患者が搾取される可能性が22%、嗜好目的での乱用が21%、精神病リスクが20%となっていました。
多変量回帰分析の結果、大麻の臨床使用に対するより高い開放性は、自己評価による知識の高さ、より若い年齢、職種、そして懸念のレベルが低いことと関連していることが示されました。
考察:支持はあるが、教育体制が追いついていない
今回の結果が示すのは、米国の医療従事者の多くが患者の大麻使用に日常的に直面し、医療大麻そのものに対しても好意的な姿勢を持っているという事実です。しかしその一方で、実際の薬理学的知識は自己評価ほど確かなものではなく、体系立った教育・研修を受ける機会が乏しいという構造的な課題も浮き彫りになりました。
特に注目すべきは、知識の情報源が個人的経験やメディアに大きく依存している点です。医学的に正確とは限らない情報源に頼ることは、患者への助言内容にばらつきが生じるリスクや、誤った情報に基づく判断がなされる可能性を高めることにつながりかねません。
また、開放性に影響する要因として年齢や職種が挙がったことは、世代間・職種間での知識・態度の違いが今後の教育プログラム設計において考慮されるべきことを示唆しています。この調査は横断的なデザインであるため、知識の向上が態度の変化を「引き起こす」という因果関係を直接証明するものではありませんが、両者の間に一貫した関連が見られたことは重要な知見です。
本研究の限界として、回答者の86%が白人であり、女性比率も71%と高いなど、サンプルの人口統計学的な偏りが挙げられます。また自己選択バイアスの可能性があり、もともと大麻に関心の高い医療従事者が回答した可能性も否定できません。
まとめ:知識のギャップを埋める体系的な研修が必要
本研究は、米国の医療従事者の圧倒的多数が医療大麻の使用を支持し、日常臨床で大麻使用患者に接している一方で、大麻の薬理学、用量調整、禁忌、法的・倫理的枠組みについての客観的な知識には明確なギャップがあることを示しました。
研究チームは、こうしたギャップを埋めるために、大麻の薬理学や臨床適用に関する構造化された研修プログラムの必要性、そして患者の大麻使用状況をより適切にモニタリングする体制の整備を提言しています。医療大麻へのアクセスが世界的に拡大する中、日本を含む各国においても、医療者教育のあり方を考える上で参考になる知見だと言えるでしょう。
参考文献
Kumar L, Wang E, Mathai DS, Zamarripa CA, Spindle TR, Vandrey R, Garcia-Romeu A. Knowledge, attitudes, and concerns about medical cannabis among U.S. healthcare professionals. Journal of Cannabis Research. 2026. DOI: 10.1186/s42238-026-00450-8
原論文リンク:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42216094/
経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。
研究分野:臨床カンナビノイド医学
活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。
書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン)
所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)
更新日:2026年7月20日
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