
慢性腰痛に悩む人が、ドラッグストアではなく合法の大麻ディスペンサリーでエディブル(食用大麻製品)を選び、自分の判断で14日間使い続けたら、痛みはどう変化するのか。この問いに、日常的な使用パターンをそのまま記録するという珍しいアプローチで挑んだ研究が、学術誌Biomedicinesに掲載されました。結果は、THC(デルタ9-テトラヒドロカンナビノール)を含む製品を使った日は痛みの強さが有意に下がっていたのに対し、CBD優勢の製品ではそうした効果が確認されなかったというものです。
研究の背景:エディブル大麻と慢性腰痛の未解明な関係
慢性腰痛はアメリカで最も頻繁に報告される慢性疼痛のタイプであり、医療大麻を使用する患者の85%以上が「痛みの緩和」を利用目的として挙げています。大麻に含まれるTHCとCBDというカンナビノイドが疼痛に及ぼす効果については、これまでナビキシモルス(THCとCBDをほぼ等量含む口腔スプレー)を用いた臨床試験で中程度の有効性が報告されてきました。しかし、実際に市場で販売されているエディブル製品を、患者自身が自由に選び、自由な頻度・用量で使用した場合にどのような影響があるのかは、これまでほとんど検証されていませんでした。
研究チームは、以前に発表したMelendezらの研究(2024年)で得られたデータを再解析し、日々の変動をより詳細に検討することで、このギャップを埋めようとしました。
研究方法:243人が14日間、自分で選んだエディブルを自由使用
この研究は米国コロラド州デンバー・ボルダー地域で実施された臨床試験(NCT03522324)の二次解析です。対象となったのは、慢性腰痛(3ヵ月以上持続、痛みの強さ4以上/10点満点)を自己申告し、大麻使用を新たに開始しようとしていた21歳から70歳の成人243人(女性56%、平均年齢46±12歳)でした。
参加者は、研究者から安全な使用に関する標準的な情報提供を受けた後、自分でディスペンサリーを訪れ、腰痛管理のために使用するエディブル製品を1種類だけ選びました。製品ラベルに記載されたTHCとCBDの含有量に基づき、CBDがTHCの5倍以上含まれる「CBD優勢群」(97人)、THCがCBDの5倍以上含まれる「THC優勢群」(34人)、どちらの基準も満たさない「THC+CBD群」(112人)の3グループに分類されました。
参加者は14日間、毎日自動送信されるアンケートに回答し、現在の痛みの強さ(PROMISの0〜10点スケール)、製品を使用したかどうか、使用回数、そして自己推定によるTHC・CBDの摂取量(mg)を報告しました。慢性腰痛の自己報告期間は平均10.8年に及びました。
結果:THCを含む製品の使用日に痛みが有意に軽減
まず、参加者が製品を使用した日数は平均8.72±3.81日(範囲0〜14日)、使用回数の合計は平均11.88±8.01回(範囲0〜42回)、使用日1日あたりの平均使用回数は1.37±0.74回でした。使用頻度や回数はグループ間で有意差はなく、14日間を通じて一貫していました。
線形混合効果モデルの解析では、使用状況とグループの交互作用が有意でした(p=0.002)。製品を使用した日は、使用しなかった日と比べて、THC優勢群で痛みの強さが有意に低く(b=−0.66、95%信頼区間[−0.94,−0.37])、THC+CBD群でも同様に低下していました(b=−0.41、95%信頼区間[−0.57,−0.25])。一方、CBD優勢群では有意な変化は見られませんでした(b=−0.08、95%信頼区間[−0.28, 0.11])。推定平均に基づくと、使用日の痛みの強さは、CBD優勢群で1.9%、THC+CBD群で9.9%、THC優勢群で17.0%、それぞれ非使用日より低いという結果でした。
時間経過に関しても、グループと時間の交互作用が有意でした(p=0.02)。THC+CBD群では、1日目から14日目にかけて痛みの強さが有意に減少しており(b=−0.05、95%信頼区間[−0.07,−0.03])、推定平均では14日目の痛みは1日目より14.4%低下していました。CBD優勢群では1.9%、THC優勢群では7.9%の低下でしたが、いずれも統計的には有意ではありませんでした。さらに、痛みの強さが1日目から14日目にかけて30%以上減少した参加者の割合は、CBD優勢群で26人(26.8%)、THC+CBD群で41人(36.6%)、THC優勢群で9人(26.5%)でした。
1日の中での使用回数と痛みの関係についても検討され、使用回数の増加は、THC優勢群(b=−0.35、95%信頼区間[−0.54,−0.16])とTHC+CBD群(b=−0.17、95%信頼区間[−0.28,−0.05])で痛みのさらなる軽減と関連していましたが、CBD優勢群では関連が見られませんでした(b=0.01、95%信頼区間[−0.09, 0.11])。
用量に関する解析も興味深い結果を示しています。摂取したその日の痛みの強さとの関係では、CBDが0mgの場合、THCの用量増加はむしろ痛みの強さの上昇と関連していました(b=0.03、95%信頼区間[0.01, 0.04])。しかし翌日の痛みとの関係を見ると逆転し、THCの用量増加は翌日の痛みの強さの有意な低下と関連していました(b=−0.02、95%信頼区間[−0.04,−0.01])。CBDの用量そのものは、その日・翌日いずれの痛みとも有意な関連を示しませんでした(翌日:b=0.003、95%信頼区間[−0.03, 0.01])。ただし、CBDの用量が増えるほど、THCによる痛み軽減効果は弱まる傾向が確認されました(b=0.02、95%信頼区間[0.01, 0.04])。なお、CBD優勢群における平均CBD摂取量は1日あたり約26mgと、比較的低用量でした。
THC優勢群を除いた感度分析でも、使用状況×グループの交互作用(F(1,2502)=6.33、p=0.01)とグループ×時間の交互作用(F(2,2502)=7.48、p=0.006)は有意なままであり、結果の頑健性が支持されました。
考察:THCとCBDの複雑な相互作用が示すもの
この研究の意義は、日常的に販売されているエディブル製品を、実際の使用パターンのまま観察したことにあります。THCを含む製品の使用日には痛みが軽減され、使用回数が多いほどさらに軽減効果が強まる一方、CBD優勢の製品ではこうした関連が一貫して見られませんでした。臨床的には、これらの軽減幅は「最小限に重要な変化」(10〜20%の軽減)に相当し、従来の「中程度に意味のある変化」とされる30%の閾値には届いていません。ただし、THC+CBD群では36.6%の参加者が14日間で30%以上の軽減を経験しており、対照群がない中でその臨床的意義を単純に評価するのは難しい点も指摘されています。
著者らは、日々の効果はTHCの急性の薬理作用によるもので、長期的な効果はTHCとCBD両方が持つ免疫調節作用によるものではないかと推測しています。THCはCB1受容体に作用し、中枢神経系の痛み処理に関わる領域の活動や機能的結合を変化させることが知られています。一方でCBDはCB1受容体に対する負のアロステリック調節作用を持ち、THCの結合を妨げる可能性があるため、CBDの用量が増えるとTHCによる鎮痛効果が弱まるという今回の結果と整合的だと考察されています。
また、CBD優勢製品で効果が見られなかった理由として、実際に使用されたCBDの用量が平均26mg/日と、過去の臨床試験で有効性が確認された100〜300mg/日という用量に比べて著しく低かった可能性が指摘されています。同様に低用量(30mg/日)のCBDを用いた過去の臨床試験でも、痛みの有意な軽減は確認されていません。
研究の限界
本研究は無作為化やプラセボ対照を伴わない観察研究であり、参加者は使用する製品を自分で選択したため、選択バイアスや期待効果の影響を完全には排除できません。また州の製品ラベル表示義務により、参加者を製品の内容について盲検化することもできませんでした。観察期間も14日間と比較的短く、参加者の人種・教育レベルも白人・高学歴に偏っていたため、より多様な集団への一般化には注意が必要です。加えて、THC・CBDの用量は自己申告に基づくものであり、記憶バイアスや報告誤差の影響を受ける可能性があります。さらに、コロラド州では大麻製品のラベル表示と実際の含有量に不一致があるとの報告もあり、今回のデータにも同様の誤差が含まれている可能性は否定できません。
まとめ
今回の研究は、実際の市場で販売されているエディブル大麻製品を、慢性腰痛を抱える人々が自分の意思で使用した場合に何が起こるかを、日々の変化まで含めて丹念に追跡した貴重な試みです。THCを含む製品の使用は、その日の痛みの軽減や、頻回使用によるさらなる軽減と関連していましたが、CBD単独ではそうした効果は確認されませんでした。一方で、THCとCBDをバランスよく含む製品は、2週間という短い期間でも持続的な痛みの軽減と関連していました。これは因果関係を証明するものではなく、あくまで自然な使用状況下での関連性を示すものですが、今後より厳密な用量設計や無作為化試験によって、最適なTHC・CBDの比率や用量を探る研究が求められます。大麻を痛みの管理に用いることを検討している方は、こうした知見を踏まえつつ、必ず医療専門家と相談の上で判断することが重要です。
参考文献
Lisano JK, Rosa L, Skrzynski CJ, Bryan AD, Bidwell LC. “Lower Pain Intensity Is Associated with the Use of Recreational Edible Cannabis Products Containing Delta-9-Tetrahydrocannabinol: A Secondary Analysis in Adults Self-Managing Their Chronic Low Back Pain.” Biomedicines. 2026. DOI: 10.3390/biomedicines14071642
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42512114/
経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。
研究分野:臨床カンナビノイド医学
活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。
書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン)
所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)
更新日:2026年9月1日
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