
歯周病や虫歯の予防に欠かせないマウスウォッシュ。その定番成分であるクロルヘキシジン(CHX)は強力な抗菌作用を持つ一方で、歯の変色や味覚異常といった副作用が長年の課題とされてきました。そんな中、CBD(カンナビジオール)を配合したマウスウォッシュが、CHXに匹敵する効果を歯へのダメージなく発揮できる可能性を示す研究が発表されました。今回はこの興味深い口腔内試験(in situ研究)の内容を詳しく見ていきます。
研究の背景
CBDにはすでに抗炎症作用や抗菌作用があることが複数の研究で報告されており、口腔ケア製品への応用にも注目が集まっています。特にCHXは歯垢(バイオフィルム)の形成を強力に抑える一方、長期使用によって歯の着色やエナメル質表面の性状変化を引き起こすことが知られています。そこで研究チームは、CBDを異なる濃度で配合したマウスウォッシュが、CHXと同等の抗菌効果を持ちながら、歯へのダメージを軽減できるかどうかを検証しました。
今回の研究の特徴は、試験管内(in vitro)ではなく、実際に人間の口腔内環境でエナメル質サンプルを装着する「in situ」デザインを採用した点です。これにより、唾液や口腔内の生態系といった実際の臨床条件に近い状況下でCBDマウスウォッシュの効果を評価できます。
研究方法
研究チームはウシの歯から採取したエナメル質断片(サイズ6×6×2mm)を用意し、これを14名の参加者が装着する口腔内装置に取り付けました。試験はクロスオーバーデザインで行われ、同じ参加者が異なる条件のマウスウォッシュを順番に試す形式です。
比較対象となったのは、CBDを0%(プラセボ)、0.01%、0.05%、0.1%の濃度で配合したマウスウォッシュ、そして標準治療薬である0.12%クロルヘキシジン(CHX)の合計5条件です。各実験フェーズは7日間続けられ、フェーズ間にはウォッシュアウト期間(体内から前の処置の影響を除去するための休止期間)が設けられました。
さらに、口腔内装置の一方の面には20%スクロース(ショ糖)によるう蝕誘発チャレンジ(虫歯を引き起こしやすい環境を人工的に作る処理)が事前に施されました。これにより、糖分にさらされた状態でのエナメル質への影響も同時に検証しています。
評価項目は、表面粗さ(Ra)、微小硬度(%KHN)、色調変化(ΔE00)という物理的・機械的指標に加え、バイオフィルムおよび酵母菌(イースト菌)の菌数(log10 CFU、コロニー形成単位の対数値)、走査型電子顕微鏡によるエナメル表面の観察が行われました。統計解析には二元配置分散分析(Bonferroni事後検定併用)およびKruskal-Wallis検定(Dunn事後検定併用)が用いられ、有意水準はP < 0.05に設定されました。
結果:CBDはエナメル質にどう影響したか
まず表面粗さ(Ra)について、スクロースによるう蝕誘発チャレンジは全体として有意な影響を与えませんでした(P > 0.05)。ただし興味深いことに、スクロースにさらされた条件下では、CBD 0.1%群がCHX群よりも高い表面粗さを示しました(P < 0.05)。これは高濃度CBDが糖分存在下でわずかにエナメル表面を粗くする可能性を示唆しています。
微小硬度(%KHN)に関しては、各治療群間で有意な差は見られませんでした。しかし、スクロースへの曝露はプラセボ群およびCBD 0.01%群において微小硬度を有意に低下させました(P < 0.05)。つまり、低濃度のCBDやプラセボでは糖分による歯の軟化を防ぎきれなかった一方、CBD 0.05%や0.1%ではこうした低下が見られなかった点が注目されます。
色調変化(ΔE00)については、CHXが全条件の中で最も高い値を示しました(P < 0.05)。これはCHXの臨床使用でよく知られる「歯の着色」という副作用を裏付ける結果であり、CBD配合マウスウォッシュはこの点でCHXよりも有利である可能性を示しています。
抗菌効果に関する結果も重要です。バイオフィルム形成については、CHX、CBD 0.05%、CBD 0.1%の3群間で有意な差は見られませんでした(P > 0.05)。つまりCBD 0.05%以上の濃度であれば、CHXに匹敵するバイオフィルム抑制効果が得られたということです。一方で酵母菌数については、CHXがCBD 0.01%群およびCBD 0.1%群よりも有意に低い菌数を示しました(P < 0.05)。この点ではCHXの抗真菌作用がやや優位であったことがわかります。
考察・意義
この研究の結果を総合すると、CBD 0.05%という濃度が特にバランスの取れた選択肢として浮かび上がってきます。バイオフィルム抑制効果はCHXと同等でありながら、CHXに特徴的な歯の着色という副作用は避けられる可能性があるためです。原論文の結論でも、CBD 0.05%が「歯のエナメル質特性に悪影響を与えることなくバイオフィルム制御の可能性を示した」とまとめられています。
一方で、CBD 0.1%という高濃度では、スクロース存在下でエナメル表面の粗さがCHXより高くなるという結果も出ており、濃度依存的にトレードオフが生じる可能性が示唆されます。また酵母菌数の抑制についてはCHXに一歩譲る結果となっており、CBDマウスウォッシュがすべての面でCHXを上回るわけではないことも正直に受け止める必要があります。
この研究には限界もあります。参加者数は14名と比較的小規模であり、使用されたエナメル質はウシ由来のものです。ヒトの歯そのものを用いた大規模な臨床試験ではない点、そして観察期間が各フェーズ7日間という短期間である点も踏まえる必要があります。長期使用時の安全性や有効性については、今後さらなる検証が求められるでしょう。
まとめ
今回の研究は、CBDを配合した口腔ケア製品が、既存の標準治療薬であるクロルヘキシジンに代わる選択肢となりうる可能性を示す興味深いデータを提供しています。特にCBD 0.05%という濃度は、抗菌効果と歯へのやさしさを両立する候補として注目に値します。ただし、これはあくまで小規模な口腔内試験の結果であり、実際の製品化や臨床応用にはさらなる研究の蓄積が必要です。CBD配合の口腔ケア製品に興味がある方も、現時点では研究段階の知見であることを理解した上で、今後の展開を見守っていただければと思います。
参考文献
Pimenta ALA, de Sousa LA, Martins CHG, de Carvalho Panzeri F. Effect of a cannabidiol-based mouthwash on dental enamel properties and biofilm control: an In situ study. Clinical Oral Investigations. 2026. DOI: 10.1007/s00784-026-06985-7
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42380527/

経歴: 2012年医師免許取得。2017-2019年熊本大学脳神経内科学教室所属。2025年聖マリアンナ医科大学・臨床登録医。
研究分野:臨床カンナビノイド医学
活動: 2017年に一般社団法人Green Zone Japanを設立し代表理事に就任。独自の研究と啓発活動を継続している。令和6年度厚生労働特別研究班(カンナビノイド医薬品と製品の薬事監視)分担研究者。
書籍: お医者さんがする大麻とCBDの話(彩図社)、CBDの教科書(ビオマガジン)
所属学会: 日本内科学会、日本臨床カンナビノイド学会(副理事長)、日本てんかん学会(評議員)、日本アルコールアディクション医学会(評議員)
更新日:2026年9月1日
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