はじめに
Green Zone Japanの理事が研究分担者・協力者として参加した厚生労働科学研究の報告書が、厚生労働科学研究成果データベースで公開されました。対象は2024年度と2025年度の2つの研究班で、どちらも聖マリアンナ医科大学 脳神経外科の太組一朗教授が研究代表者を務めています。
• 2024年度:「カンナビノイド医薬品とカンナビノイド製品の薬事監視」(課題番号 24CA2012)
• 2025年度:「カンナビノイドの実態把握に資する研究」(課題番号 25KC2006、2027年度まで継続予定)
当法人からは代表理事の正高佑志と理事の三木直子が参加し、合わせて6本の分担研究報告書に関わりました。本記事では、その内容をかいつまんでご紹介します。
2024年度「カンナビノイド医薬品とカンナビノイド製品の薬事監視」
2024年12月の改正大麻取締法の施行をはさむ時期に行われた研究班です。当法人の関わった4本の報告は、国内の利用実態、新しいTHC残留基準の影響、海外の制度、脳腫瘍への応用可能性をそれぞれ扱っています。
1. 日本国内のカンナビノイド製品のヘルスケアを目的とした活用状況(研究分担者:正高)
これまで当法人が実施してきた3つのオンライン横断調査を統合して報告しました。CBD製品の一般利用者(解析対象799名)、CBN製品の利用者(515名)、カンナビノイド医療患者会(PCAT)の参加者(109名)が対象です。
• 一般利用者は睡眠・不安・リラクゼーションなどのセルフケア目的が中心で、CBD利用者では評価した12症状すべてで使用前後の有意な改善が自己申告されました。
• 副作用を疑う症状の経験率はCBD 7.4%、CBN 9.9%、患者会 21.1%で、眠気・倦怠感や口渇が主でした。入院を要した例はありませんでした。
• 患者会では難治性てんかんの回答者41名中68%が発作の減少を報告し、約30%が処方薬が減ったと回答しました。
• 一方で月々の費用負担が大きく、効果とコストの兼ね合いで継続を迷う人が少なくないことも分かりました。
2. 新規Δ9-THC閾値への国内カンナビノイド製品の適合性について(研究分担者:正高)
KCAラボの天野開翔先生、中澤亮太先生との共同研究で、2024年12月から適用された残留THC基準(油脂・粉末10ppm、水溶液0.1ppm、その他1ppm)に、市場の製品がどの程度適合するかを検査しました。国内24社から98検体の提供を受け、米国のISO/IEC 17025認定ラボで高感度分析を行っています。
• 全体の52%で基準を超えるΔ9-THCが検出されました。
• ベイプ製品(11件)とディスティレート原料(6件)、ブロードスペクトラム製品は全検体が基準超過でした。
• オイル製品は29件中28件が基準内でした。
• 報告では、ベイプの溶媒が気化吸入の安全性が未確立のMCTオイルへ置き換わる懸念や、合成カンナビノイドへの誘導、検査の標準化不足といった制度上の課題も指摘しています。
3. 先進6カ国における未承認大麻製剤の処方制度(研究分担者:三木)
米国・カナダ・オーストラリア・英国・ドイツ・フランスの6カ国について、医薬品として承認されていない大麻製剤を医師が処方できる制度を調べました。英国には2024年5月に現地視察も行っています。
• 未承認大麻製剤が合法的に処方されているのはカナダ・オーストラリア・英国・ドイツの4カ国でした。
• 4カ国とも、処方箋医薬品でも健康食品でもない「医療用大麻製剤」という枠組みがあり、標準治療が効かない患者がアクセスできる仕組みになっています。
• 主な適応は慢性疼痛、がん、神経疾患、精神疾患などで、いずれの国でも利用者は増加傾向です。
• 日本での制度設計にあたっては、処方する医療者と患者双方への教育が欠かせないと提言しています。
4. 脳腫瘍に関する医療用カンナビノイドの文献調査(研究分担者:太組・正高)
横浜市立大学脳神経外科の岡千紘先生とともに、悪性神経膠腫(グリオーマ)を中心に、基礎研究・第1相/第2相試験・メタアナリシスを含む9本の文献を検討しました。
• 基礎研究では、THCとCBDの併用や標準治療薬テモゾロミドとの併用で腫瘍増殖が抑えられることが示されています。
• 臨床試験では安全性・忍容性は概ね良好でしたが、有効性のエビデンスはまだ限定的です。
• 英国で進行中の第2相試験(ARISTOCRAT試験)の結果が待たれます。
2025年度「カンナビノイドの実態把握に資する研究」
2025年度からの3カ年の研究班で、正高・三木はいずれも研究分担者として名を連ねています。初年度は、CBNの指定薬物化を前にした国内の使用実態と、アジアで唯一医療大麻を合法化したタイの制度を報告しました。
5. CBN含有食品の安全性等に関する横断調査「J-NEC2025」(研究分担者:正高)
高用量のCBNを含む食品の流通は、日本の規制のもとで生まれた国内特有の現象で、実態データがほとんどありませんでした。そこで協力事業者7社・16製品(クッキー、グミ、オイルなど)の購入者を対象に匿名調査を行い、108名から有効回答を得ました。
• 75%がヘルスケア目的(娯楽との兼用を含む)で、期待した症状は不眠が64.2%と最多でした。
• 不眠目的の利用者の72.6%が「とても効果がある」と回答し、ヘルスケア目的の総合満足度は平均8.88点(10点満点)でした。
• 副作用を感じた人は10.2%(11名)で、陶酔感や口渇が中心でした。陶酔感と動悸で医療機関を受診した例が1名あり、入院例はありませんでした。
• 体重あたりのCBN摂取量と副作用の発生には有意な関連が見られませんでした(p=0.963)。副作用は用量だけでなく、個人差や製品の他成分、摂取環境にも左右される可能性があります。
CBNは2026年6月1日から指定薬物となり、正規用途の申請者に限って使用が認められる制度に移行しました。報告では、引き続き安全性をモニタリングし、ガイドラインや情報提供を整える必要性を述べています。
6. タイの医療大麻制度(研究分担者:三木)
前年度の欧米4カ国調査に続き、2025年11月にタイを視察し、規制当局・研究機関・栽培施設・ディスペンサリーで聞き取りを行いました。
• タイは2019年の医療大麻合法化、2022年の非犯罪化を経て、2025年6月に再び医療目的のみに規制を強化しました。
• 大きな特徴は伝統医学との融合です。花穂はタイ伝統・代替医療局が「規制ハーブ」として管理し、抽出オイルなどはタイFDAが医薬品として承認する二層構造になっています。
• 処方できるのは西洋医学の医師だけでなく、タイ伝統医や中医師、登録された民間療法家まで7種類の資格者です。
• 政府医薬品機構の大麻オイル3製品などが必須医薬品リストに収載され、公的保険で利用できる環境が整いつつあります。
• 一方、包括的な大麻法は未成立で、ライセンスや執行体制の不安定さが課題として残ります。
漢方薬の制度を持つ日本にとって、伝統医学の枠組みを取り込んだタイのアプローチは参考になる事例だと考察しています。
おわりに
法改正後の日本で、カンナビノイドを必要とする人が安全に使い続けられる制度をつくるには、国内の実態データと海外制度の知見の両方が欠かせません。Green Zone Japanは今後も研究班の一員として、エビデンスに基づく政策提言に取り組んでいきます。各報告書の全文は以下からご覧いただけます。
2024年度(研究課題ページ)
• 日本国内のカンナビノイド製品のヘルスケアを目的とした活用状況
• 新規Δ9-THC閾値への国内カンナビノイド製品の適合性について
• 先進6カ国における未承認大麻製剤の処方制度
• 脳腫瘍に関する医療用カンナビノイドの文献調査
2025年度(研究課題ページ)
• CBN含有食品の安全性等に関する横断調査
• タイの医療大麻制度
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