医療大麻とがん緩和ケア

2019.05.19 | 病気・症状別 | by greenzonejapan
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医療大麻とがん緩和ケア
2019.05.19 | 病気・症状別 | by greenzonejapan

 

緩和ケアは医療大麻が広く使用されている領域ですが、標準化が難しいためか、その研究や調査は未だ途上です。今回は 2019年 4月 17日にオンライン出版された「地方大学の緩和ケア外来通院患者における医療大麻の使用」と題された論文を紹介します。

https://www.liebertpub.com/doi/full/10.1089/jpm.2018.0534

 

これはダートマス・ヒッチコック医療センター緩和ケア科からの報告です。

 

アメリカ北東部、ニューハンプシャー州とバーモント州の境界に位置するこの 396床の臨床教育病院には、両州の患者さんが通院されています。

バーモント州に関しては 2004年、ニューハンプシャー州に関しては 2016年にそれぞれ医療大麻が解禁され、加えてバーモント州では 2018年に嗜好大麻も合法となっています。

どちらの州でも医療大麻を使用するためには、医師の診断書が必要になります。こちらの病院では、病院側から医療大麻の使用を積極的に勧めることはないが、標準治療を検討した後に医療大麻使用を希望する患者には必要なサポートを提供しているそうです。

今回、こちらの病院の緩和ケア外来に通院する患者さんのカルテ記録を遡り、何%程度の患者さんが、どのような症状に対して医療大麻を使用しているかを調べました。

対象は、2017年10月、2018年1月、4月、7月に当院の緩和ケア科を受診した合計299人です。その85%はがん患者でした。大麻の使用の有無に関してカルテに記録があったのは197人でした。そのうち83人(42%)が何らかの形での大麻の使用を報告しました。

 

使用目的としては、痛み、食欲低下、吐き気、不安、うつ、不眠などが多く挙げられました。その他の用途として、眠気覚まし、けいれん予防、集中力アップ、排尿障害を挙げた方がいました。大麻を使用している患者の31%が、複数の目的の為に大麻を使用していると回答しました。

調査対象全体では、58%の患者さんがモルヒネなどの医療用麻薬(オピオイド)を使用しており、大麻を使用している患者の70%が医療用麻薬も併用していると回答しました。


本研究の問題点として、使用の有無を確認していない患者が 30%程度含まれているため、正確な医療大麻使用率がはっきりとしない点があります。しかし、仮に未確認の患者さんが全員大麻を使用していないと仮定した場合でも、全体の 27%以上が医療大麻大麻を使っていたということになります。

先行する研究では、がん患者の大麻使用率は 13〜24%であり、今回の数字は比較的高い値でした。https://link.springer.com/article/10.1007/s00520-017-3575-1
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/cncr.30879

この理由は部分的には、ニューハンプシャー州でのオピオイド関連死が 36.5件/10万人と非常に高い水準にあることと関係があるかもしれないと、筆者は分析しています。(※ 日本ではそのようなオピオイド関連死は問題とはなっていません。)

40%近いがん患者が大麻を使用している。この事実が、がんの緩和ケアにおいて、医療大麻が有用な手段であることを示しています。特に複数の症状を抱える患者に対して、有効なアプローチであることも今回の調査から改めて示唆されました。

そして、医療用麻薬と医療大麻は決して、対立するものではないこと。両者の併用により、1+1が2以上になるシナジー効果が、基礎実験の結果からも期待されています。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14706563


残念ながらこのような事実は、日本の多くの緩和ケア医にはあまり知られていません。昨年度、ある著名な緩和ケア専門医の先生が講演に来られたときのこと。質疑応答の場で、私は医療大麻についてどう考えるか?と質問しました。その際の先生の回答は、「必要ないと思う」というものでした。

演壇を降りた彼女に私は歩み寄り、彼女と意見を交換しました。案の定、彼女の知識は疼痛領域に限られ、モルヒネで充分に代用可能であるという考えでした。たとえば制吐作用や食欲増進作用について、彼女は知りませんでした。

1950年当時、医学的知識が倍になるのには50年かかっていたのが、今では70日ちょっとしかかからないそうです。

http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03088_05#bun1

私を含め、我々医師はそのことに対して、常に自覚的である必要があるように思います。

 

執筆責任:正高佑志 医師

 

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