電子タバコ (VAPE) 関連肺障害と規制問題

タバコが多くの病気の原因となり、健康上推奨されるものではないということは、1970年代以降広く知られるようになり、今日では常識となっています。その結果、喫煙率は日本でも下がりつつあります。

しかし、世界中を見渡してもタバコ文化が根付いていない地域というのは、おそらく存在しません。それはタバコに文化を超えた普遍的な引力があることを示しています。人々の欲求を満たすため、従来のタバコに代わって今、広まりつつあるのが電子タバコです。

■ 電子タバコ、加熱式タバコ、Vape について

2015年、マルボロで知られるフィリップ・モーリス社は、アメリカ本国に先駆けて、日本で IQOS の販売を開始しました。その後 2017年に、KENT やラッキー・ストライクで知られる BAT社が glo を、2018年に JT が Ploom TECH を発売し、日本ではこの三社の販売する加熱式タバコ製品が電子タバコ市場をほぼ独占しています。

※ 電子タバコ、加熱式タバコ、Vape の違いについてはこちらがわかりやすいです。

 

一方、アメリカでは現在、電子タバコ市場を席巻しているのは、Vape と呼ばれるタイプの製品です。

 

これはグリセリンなどの易揮発性の液体にニコチンなどの有効成分を含ませて、それを加熱することで蒸気にして吸入するという摂取方法をとります。大麻成分である THC や CBD もまた、この Vape によって摂取が可能となっており、その手軽さから広く流通しています。

日本国内では、THC はもちろん、ニコチンを含む Vape も販売できないため、その人気は限定的ですが、米国では若年層を中心に愛用され、2007年にアメリカ市場に登場した後、現在では高校生の 20%が常用しています。(この数は過去2年で倍増しています。)

一般的なタバコとくらべると有害な化学物質の含有量は少ないとされていますが、全く無害という訳ではありません。ブームの影で、健康な若者が突然、原因不明の肺炎で入院するケースが散見されるようになります。そして鋭い臨調的な洞察力を持つ誰かが、どこかで気が付いたのです — 謎の肺炎で入院してくる青少年には、共通して Vape の使用歴がある、ということに。

■NEJMに掲載された報告

この問題をいち早く学術的に報告したのは、2019年9月6日に発行された New England Journal of Medicine (NEJM) 誌でした。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1911614

この論文はイリノイ州とウィスコンシン州の保健局が集めた州内の事例をまとめた報告書です。

Vape 関連肺障害が疑われる症例は、ウィスコンシン州とイリノイ州だけで、2019年4月末から8月末までの4ヶ月間で53例。そのうち83%が男性で平均年齢は 19歳でした。患者のうち 32%が挿管、人工呼吸器管理となり、そのうちの1名が亡くなりました。

この論文ではVape関連肺障害は以下の3点を満たすものと定義されました。

① 過去90日以内にVapeの使用歴がある
② 画像検査で両肺に浸潤影がある
③ 明らかな感染症ではないもの

原因物質や肺炎が起きる機序について現時点では不明ですが、ビタミンE などの添加物や重金属、また加熱に伴う化学反応により製造時には含まれていない物質が発生している可能性などが考えられています。

ちなみに患者群が使用していた Vape は、ニコチンを含むものが 61%、 THCを含むものが 80%、CBDを含むものが 7%でした。THC や CBD を含まない Vape でも肺炎が発生しているため、「大麻の成分のせいだ」という指摘は的外れです。

■ 合衆国政府の速やかな対応、しかし…

]NEJMの報告により、「Vape関連肺障害」という疾患概念が提唱されると、全米から同様の報告が集まります。この記事を執筆している 2019年10月4日の時点で、患者数は 1,000人を超え、死亡者は18名を数えています。

https://www.usatoday.com/story/news/nation/2019/10/03/mayo-clinic-vaping-study-chemical-fumes-blame-lung-illnesses/3850859002/

報道を受けた合衆国政府の対応は、一見、迅速に見えました。

メラニア・トランプは事態を懸念するツイートを発信し、9月11日には FDA はフレバー付きの電子タバコを禁止する方針を打ち出したのです。

しかし規制の実際は 2020年5月までに FDA の認可を取らないと販売できなくなるという内容であり、期日には未だ半年以上の猶予があります。今日も、製品の販売は続いているそうです。
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02920-x

またそもそも、この規制が実際に機能するかどうかが疑問視されています。
現在アメリカでは、Vape を販売できる対象年齢は州によって18歳から21歳以上と定められていますが、現実的には機能していません。最新の世論調査では、アメリカ人の 59% が「政府の規制はブラックマーケットへの需要の流入を促すだけで Vape の使用を減らすことには繋がらない」と考えていることも明らかになりました。
https://thehill.com/policy/healthcare/463981-majority-says-vaping-ban-would-drive-consumers-to-black-market-poll

既に Vape が普及した現状で、単純な規制を導入すると、禁酒法の二の舞になる可能性が高いでしょう。

フレーバー付きの Vape は、若者をニコチン依存へと誘うマーケティング戦略であり、阻止すべきという批判は真当なものです。しかしこの政府判断が、純粋に子どもたちの健康を守るためと考えるのはナイーブ過ぎるかもしれません。

USでは、2017年だけで銃を用いた他殺は 14,542件発生しています。

電子タバコの 1,000倍近い死者を出している銃規制に関しては、どれだけ世論が盛り上がろうと大きな進歩がないことを鑑みると、この迅速な対応の裏に、国民の安全以外の理由があるのではないかとつい勘繰りたくなります。

電子タバコの規制に関しては、ブルームバーグ氏が170億円の拠出を表明しているようです。しかし、このお金の本当の出処は、誰にもわかりません。

■ 日本の現状と対応

日本でも Vape は、CBDを摂取する手段として使用されています。

経口摂取とくらべ、気管支経由で吸収することで血中濃度のピーク値は高くなり、また効果の立ち上がりは速くなります。内服と比べて、Vape での投与が薬物動態学的に望ましいケースも存在すると考えられます。

日本国内で広く流通しているプルームテックは Vape と似たメカニズムを採用していますが、今のところ、Vape やプルームテックが原因となった重篤な肺障害の報告は認められません。しかし原因が不明である以上、問題ないとも断言できないのが現状です。(また疾患概念が医学誌で提唱されたのはこの1ヶ月のことです。誤診されているケースや、軽症例は日本国内でも起きている可能性はあります。)一般的なタバコと比較した場合の Vape の安全性に関して、科学的な回答が出るまでにはもうしばらくの時間が必要でしょう。

Vape を使用される方は、なるべく添加物や余計なフレーバーが含まれない製品を選ぶことをお勧めします。また、製品に関する情報を公開している業者さん、素性が明らかにしている業者さんから購入することが望ましいでしょう。

Vape の使用後に呼吸苦や咳などの呼吸器症状が出現する場合は、速やかに使用を中止し、病院を受診、画像検査などを受けることをお勧めします。

 

文責:正高佑志(医師)

 

One Reply to “電子タバコ (VAPE) 関連肺障害と規制問題”

  1. 文章の内容が極端だとおもいます 

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