マラ・ゴードンの大麻医薬品は日本の不眠症患者を救えるか?

2020.10.16 | 大麻・CBDの科学 海外動向 病気・症状別 | by greenzonejapan
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マラ・ゴードンの大麻医薬品は日本の不眠症患者を救えるか?
2020.10.16 | 大麻・CBDの科学 海外動向 病気・症状別 | by greenzonejapan

医療大麻が効果のある病気・症状は一説には200種類以上と言われていますが、処方せん医薬品として流通している大麻製剤はエピディオレックス(CBD 100%)とサティベックス(THC 50%:CBD 50%)だけであり、その適応はてんかんの発作抑制や多発性硬化症の痙性緩和と限定的です。

病院で医師が処方できるようになれば、今よりも広く使用されるようになることに疑いの余地がありませんが、特許や費用の問題などで医薬品の承認を得るまでの道のりは非常に険しいようです。
このプロセスに今、Weed The People でお馴染みのマラ・ゴードン達が挑戦しています。対象疾患は皆さんにも馴染み深い不眠症です。

マラ・ゴードンとアウント・ゼルダ


テキサス州に生まれたマラ・ゴードンはある日、手術の後遺症で神経痛に悩まされるようになります。耐え難い痛みと処方されたオピオイド系鎮痛薬の副作用から彼女を救ってくれたのが医療大麻でした。自身の経験を糧に、彼女は夫と二人で自家製の大麻オイルを販売し、患者さんのデータを収集、それをベースにアドバイスをするようになります。Aunt Zelda’s(ゼルダおばさんの大麻薬局)の始まりです。

医師たちが敬遠する「禁断の治療」について多くのデータを収集し続けた Aunt Zelda’s はグリーンラッシュの追い風を受けて快進撃を続け、2019年には同じく大麻関連科学企業であるイレラ・セラピューティックスと合併してゼリラ・セラピューティックスを設立。合衆国とオーストラリアの「医療大麻市場」で製品を展開しています。

https://www.prnewswire.com/news-releases/zelda-to-merge-with-us-based-ilera-therapeutics-to-create-a-leading-global-therapeutic-medicinal-cannabis-company-300934407.html

マラ本人はゼリラ・セラピューティックスの経営には関わっておらず、アドバイザーとして参画しています。

不眠症に対するフェーズ I、フェーズ Ⅱ 試験が終了

2020年4月、このゼリラ・セラピューティックスが開発中のカンナビノイド医薬品、ZTL-101 の不眠症に対する第1相・第2相試験が終了したと報告されました。

ZTL-101 は天然の大麻草から抽出された THC、CBN、CBG、CBC などのカンナビノイドを含む液剤であり、舌下に滴下し吸収させます。今回の治験では、23名の不眠症患者さんに実薬(11.5 mg or 23 mg)とプラセボのどちらを飲んでいるか分からない状態で、順にそれぞれ服用してもらい、安全性、忍容性と有効性の確認を行いました。

結果、深刻な副作用は報告されず安全性には問題がないことが示されました。

また有効性に関しても、不眠のスコアが容量依存的に改善しました。高容量を摂取した群では、不眠症の自覚がなくなったとのことです。
ZTL-101 は入眠を容易にするだけでなく、中途覚醒後の再入眠を容易にし、睡眠の質を高め、結果的に患者さんの生活の質(QOL)と機能向上に繋がりました。

特に疲労感の改善が自覚されたことは、従来の処方せん睡眠薬には認められなかったメリットのようです。

この結果をもって、ゼリラは医療大麻市場に、睡眠薬として本製品をリリースする予定です。その後、不安やうつなどの精神疾患、慢性痛、パーキンソン病などの神経疾患、高血圧などの循環器疾患へと適応の拡大を考えているようです。

なお、この製品はもともとマラの調合によるものであり、カリフォルニア州では Aunt Zelda’s の製品としてすでに入手が可能です。

さらに加えてゼリラは今後、オーストラリアでの処方せん医薬品登録を目指し治験を進めていく意向を表明しています。

現在、処方せん医薬品である CBD製品エピディオレックスに関しては、日本国内でも医薬品承認を目指した治験を行う計画が進行しています。マラ・ゴードンのプロダクトがオーストラリアで医薬品登録を獲得することができれば、将来的には日本国内でも医薬品として承認される可能性が見えてきます。

マラ・ゴードンたちの今後の活躍に期待したいと思います。

(彼女の活躍は『Weed The People – 大麻が救う命の物語』というドキュメンタリー映画の中で克明に描かれています。GZJ 主催によるオンライン上映会のチケットはこちらからお買い求めいただけます。)

 

文責:正高佑志(熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。)

 

 

参考資料:
https://zeliratx.com/wp-content/uploads/2020/04/Insomnia-Phase-2-Clinical-Trial-Presentation.pdf
https://www.asx.com.au/asxpdf/20200407/pdf/44gs3s7427zrmt.pdf

“マラ・ゴードンの大麻医薬品は日本の不眠症患者を救えるか?” への1件のコメント

  1. yuji masataka より:

    上記試験の学術報告
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34115851/

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