『スケジュール1』
— 医療大麻とともにがんと闘うある患者の物語 —

2021.04.14 | 大麻・CBDの科学 病気・症状別 | by greenzonejapan
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『スケジュール1』
— 医療大麻とともにがんと闘うある患者の物語 —
2021.04.14 | 大麻・CBDの科学 病気・症状別 | by greenzonejapan

Green Zone Japan が運営する Project CBD Japan の記事の中で、自らの疾患が医療大麻によって改善し、それをきっかけに積極的な医療大麻合法化活動を始めた4人の女性が紹介されています。

その中の一人、アメリカ、コロラド州に住むミシェル・ケンドールは、卵巣がんの治療に医療大麻を使っています。記事中には、彼女がその体験を語る短編ドキュメンタリー映画『スケジュール 1』を自ら制作したことが触れられています。

この映画は、彼女の個人的な闘いの記録であると同時に、がん治療と医療大麻をめぐる最新の状況がわかりやすく説明されています。日本のみなさんに是非観ていただきたいと思い、さっそくご本人に許可を得て、日本語字幕をつけました。(この記事の最後に動画があります。)

大麻は標準治療の副作用を抑える

医療大麻は数十年前からがん治療とともに使われてきました。マリファナを吸うことで抗がん剤治療が原因のひどい吐き気を抑えることができ食欲も出る、ということはよく知られた事実であり、多くの患者が乾燥大麻を吸っていましたし、1985年には FDA が、合成 THC 製剤マリノールを、抗がん剤治療に伴う吐き気の軽減のために医薬品として承認しています。

なぜ大麻がそういう症状に効くのか、科学的には解明されていませんでした。何しろエンドカンナビノイド・システムが発見されたのが 1994年なのですから、作用機序がわからなくて当たり前です。ただ人々は経験からそのことを知っていたのです。

カンナビノイドの抗がん作用

ですが、大麻は抗がん剤の副作用を抑えるだけでなく、がんの治療そのものにも有効かもしれないという研究が、実は1970年代から行われていました。

大麻ががん細胞を殺したという研究の最初のものは、1975年にアメリカの国立がん研究所が発表した『カンナビノイドの抗腫瘍作用』と題された論文でした。

当時このニュースは報道もされましたが、あまり真面目に受け取られず、揶揄的なトーンであったそうです。ところがこのニュースをラジオで聞き、そのことをずっと覚えていて、30年近く経ってから自分で高濃度の大麻オイルを作り、自分の皮膚ガンを治してしまった人物がいます。

それがリック・シンプソンというカナダ人です。大麻草に含まれる植物化学物質を溶剤に溶かして抽出し、その後溶剤を蒸発させて作るこの超高濃度オイルは、一般にリック・シンプソン・オイルと呼ばれます。医者でも研究者でもない彼が作り始めたこのオイルでがんが治った、との報告が患者から相次ぎました。

一方、大麻の抗がん作用に関する基礎研究も盛んに行われました。これは私が訳した本ですが、2016年までに行われた大麻の抗がん作用に関する 100本近いの基礎研究の論文をメタ分析したものです。


キンドル版
PDF版

この中では、カンナビノイドはがんに対して (1) アポトーシスの誘導 (2) 血管新生の阻害 (3) 腫瘍細胞増殖の抑制 (4) 転移の減少という4つの作用機序がある、とまとめています。

より最近の研究では、カンナビノイドを抗がん剤と併用することで抗がん剤の効果が高まる場合があるということも明らかになっています。

研究の最前線

『WEED THE PEOPLE』『CBD Nation』をご覧になった方は、イスラエルの研究者、 David Meiri 博士を覚えていらっしゃると思います。『Schedule 1』にも登場するメイリ博士はまさに現在、医療大麻によるがん治療の研究の最前線にいます。博士のチームの研究によって、特定のカンナビノイド(あるいはその組み合わせ)が特定のがんの細胞のみを殺し、ほかのがんには効果がない — つまりカンナビノイドは選択的に効果を発揮するということが明らかになりつつあります。

「大麻草でがんは治せるか?」という問いの答えはつまり、イエスであり、ノーでもあります。言ってみればそれは「薬で病気は治せるか?」と訊いているのと同じくらい、漠然としすぎているのです。

「大麻でがんが治るというエビデンスはない」と言う人がいます。たしかに、ヒトを対象とした大規模な臨床試験の結果があるか、と言えばそれはありません。けれども、標準治療が功を奏さず、西欧医学の打つ手が尽きた人が大麻で命を取りとめた、という事例は事実として存在します。つまりそれは、「ある人の、ある種のがんに、ある種のカンナビノイドが奏効した」というエビデンスであると言えると私は思います。問うべきは、どの薬(カンナビノイド)でどの病気(がん)が治せるのか、ということなのです。

がん治療における医療大麻の役割は、標準治療の副作用を抑えるためだけだったフェーズ1から、標準治療の補完療法、そして治療薬としての可能性を探るフェーズ2に移行していると言えます。その研究はやっと今、スタートラインについたところです。どうぞこの映画を観て、科学の最先端で今何が起ころうとしているのかを知ってください。(映画は約 30分です。)

Schedule 1

こちらの記事も併せてどうぞ:

医療大麻によるがん治療の可能性:
https://www.projectcbd.org/ja/using-cannabis-treat-cancer

ペテン? 奇跡? もしくは革命の前兆 〜 CBDで肺がんが消えたイギリスの一例報告:
https://www.greenzonejapan.com/2019/03/18/cbd_lungcancer/

文責:三木直子(国際基督教大学教養学部語学科卒。翻訳家。2011年に『マリファナはなぜ非合法なのか?』の翻訳を手がけて以来医療大麻に関する啓蒙活動を始め、海外の医療大麻に関する取材と情報発信を続けている。GREEN ZONE JAPAN 共同創設者、プログラム・ディレクター。)

 

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